第8話 石像の町

「やってきました四番街」

「いや、そんな軽いノリで済ませられないでしょ…」


謎にテンションの高い莉音。

私の冷静なツッコミを受けて、少しは真面目になってくれる。


「さて…見ての通り四番街は一筋縄じゃ行かないよ」

「だよね…石像じゃないだろうし…石化ってやつ?」


四番街。

街の風景自体は何ら変化は見られない。

しかし、それまでとは明らかに違う特徴。

それは、逃げ惑う人々の石像があちらこちらにあるという事。


どの石像も恐怖に顔を歪め、絶望を感じさせる表情をしている。

趣味の悪いエリアだ。


「四番街……と言うか、ロストタウンのコンセプトが見えるエリアだね」

「…何があったの?」

「ロストタウン――文字通り失われた街。この街はかつて交易の要所として栄華を極めた街だった。しかし、そこへモンスターの襲撃があった。そのモンスターによって住人は石にされ、石にならなかった人達はそのまま殺されアンデッドとなった。三番街までは、後者だね」

「なるほど…でもなんでそんな事知ってるの?」

「隠し要素的な小ネタで、色んなところに住人の日記があるんだよ。その日記の内容から推察して、今の話が一般的に知られてるんだよ」

「へぇ〜?」


日記の内容や、このロストタウンの小ネタについて話しながら四番街を歩く。

石像は、ただ不気味で趣味が悪いだけで特に何か変わった様子はない。

モンスターが襲ってくる気配もしないし、三番街までにあった死臭も感じない。

ここは安全なエリアなのかも。

そんな事を考えながら、莉音とお話しながら歩いていると…


「…ん?」

「どうしたの?」

「……いや、あの石像動かなかった?」

「はあ?何言ってるの?石像が動くわけないじゃん」

「まあ、そうだよね…ただの勘違いか」


視界の端で、石像が動いた気がした。

私よりもダンジョンに詳しい莉音も石像が動くわけないと言ってるし、勘違いだと思うけど…

……念の為確認してみよう。


私はその動いた疑いのある石像に近付くと、触って確かめてみる。

…冷たく硬い、ただの石だ。

石像は石像だったね。


「何してるの〜?小春」

「なんでもないよ。私の勘違いだったみた、い…」

「ん?どうかした?」

「……いや、なんでもないよ」


振り返った時、莉音の後ろにある石像が動いたように見えた。

…と言うか、全体的に石像の位置がおかしいような?


「…気味が悪い。早く先に進もう」

「そう?なんか変なことあったっけ?」


小走りに莉音の手を引いて先を急ぐ私。

しかし、やっぱり後ろの石像が気になって立ち止まって振り返る。


「………」


…石像が、こっちを見ている――


「なに〜?」

「………行こう」

「うわっ!?」


私は莉音の手を引いて走る。

もう確定だ。

そして、莉音が私のことを誂ってる事も確定。

私は走りながら莉音を睨む。


「全部知ってたでしょ?」

「……ほにゅ?」

「このぷにぷにの手を握り潰そうか?」

「いたたたたた!?わ、分かった!謝るから!!全部話すから!!」


莉音の手を本気で握って圧力をかける。

これには莉音も降参し、全てを話してくれた。


「ここ四番街に出てくるモンスターは、見ての通りこの石像。見える範囲全部の石像がモンスターってわけじゃないけどね」

「石像は動かないんじゃないの?」

「うん。動かない。モンスターをアイテムやスキルで鑑定したら分かるんだけど、四番街の石像は見られている間はただの石像。だけど、誰の視界にも入らなくなった瞬間体が柔らかくなって動き出す。そして背後から近づいて来て……」

「厄介なモンスターだね……強い?」

「強いとか弱いとかじゃなくて、面倒くさい、かな?」

「面倒くさい?」 


それは強いのか弱いのかどっちなの?

なんか、どっちとも取れそうな言い方だけど。


「見ていないと近づいて来て攻撃してくるって言ったけど…あいつらの攻撃力はスケルトン並。つまりクソ雑魚なんだよ」

「…じゃあ弱いじゃん」

「そうだね。攻撃力は弱い。でも反面、防御面だととてもレベル1ダンジョンで出てくる強さじゃない」

「……そうか、見てる間はただの石像だから」

「そう。見た目に違わず硬いんだよね、あいつら。成人してる人間サイズの石像を壊す。ハンマーでもないとかなり難しいよね」


とにかく硬い。

それがあいつらが強いというよりは面倒くさいって言われる理由か。

石像を壊す、拳しか武器がない私達だと相性は悪いかもね。


「…私達の武器が砕けそうなんだけど、戦えそう?」

「一応戦える。その為に頑張ってレベルを上げたんだから」

「じゃあ聞くよ?勝てる?」

「…勝てなくはない。ただし、勝っても経験値が美味しいわけでも魔石が高く売れるわけでも、ドロップが美味しいわけでもない。正直戦う意味は皆無かな」


…なるほどね。

戦うだけ無駄。つまりは…


「このまま走れって事だね。このまま五番街まで逃げる!」

「逃げるは恥だが役に立つ。残念だったね!」


私達は石像に向かって捨て台詞を吐いて走り抜ける。

そしてすぐに五番街への門を見つけ、大急ぎで門を開けた。







五番街

景色は相変わらず変化なし。

いつもの中世ヨーロッパ風の街並みが広がっているばかり。


そして、ここにも石像が…


「…また襲ってくる感じ?」

「大丈夫。こっちの石像は見ていても襲ってくるタイプ。常に体が柔らかいから簡単に壊せるよ」


体が柔らかい。

石像は文字通り石だ。

だから普通は動かないし、襲ってくることも無い。

だけど、何らかの力で動けるようになってる。

その為に体が柔らかく、形を自在に変えられる代わりに脆い。

こっちの方がやりやすそうだね。


「あと、二番街に出てきた腐ったゾンビも出て来るよ」

「それは出てこなくて大丈夫。さっさと朽ち果ててほしいな」

「ヘイトが凄いね…」


あのゾンビとは二度と戦いたくない。

また腐った汁かけられたらたまったものじゃないからね。

ダンジョンのお風呂は結構気持ちよかったけど、何分莉音のスキンシップが激しい。

もはやセクハラとか痴漢で訴えられるようなことしてくるからね。


「さて、早く装備を手に入れに行こうよ。五番街にはボスモンスターが居るんでしょ?」

「そうだね。ここロストタウンに限らず、ダンジョンのエリア5。即ち五番目の場所には中ボスがいて、そのボスからとれる装備がないとエリア10。最後のエリアのボスを倒すのは難しいって言われてる」

「ふぅ~ん」


ボスを倒すために必要な装備は、そのダンジョンの中ボスを倒すことで手に入れられる。

じゃあその装備を取りに行くのが第一目標だね。


「装備を取りに行く。それってどこに行けばいいの?」

「町で一番立派な建物のところ。まあ、街の中央に行けばいいんだけど…その前に

軽くレベリングをしてレベルを上げてから行きたいな」

「え?また?」


レベリングなんてさっきやったばっかりだ。

それなのにまたやらないといけないなんて…面倒くさくない?


「あのレベリングはあくまで四番街を安全に突破するためのレベリング。これからするのはボスを倒すためのレベリングだよ」

「具体的にはどのくらい?」

「今レベルが3だから、レベル5まで上げたいかな?」

「…それってどのくらいかかりそう?」

「3時間もあれば終わると思うよ。小春の頑張り次第」


3時間…またこれから3時間もモンスターと戦わないといけないと?

やだなぁ…気が滅入る。


「じゃあ行くよ。ちょうどいいところに動く石像が出てきたし」

「安直な名前だね…ちなみにさっきの石像の名前は?」

「四番街の石像?あれは呪われた石像だよ」


なんか四番街の石像の方が強そう。

いや、実際硬さでいえばあっちの方が硬いだろうし、あっちの方が強いのかも?

そう考えると、あいつも怖くないかも。


私はこちらへ向かってくる石像を見つめ、頭蓋骨を装着した拳を構える。

そして…


「はあっ!」


拳を突き出して石像を殴ると、思いのほか簡単に石像は粉々になる。

石像は輝いて魔石とドロップアイテムに変わり、経験値が私の中に入ってくる。

魔石はスケルトンやゾンビと同じサイズ。

ドロップアイテムは…なにこれ?石?


「これ何?」

「石」

「いや、それは見ればわかるけどさ…」

「本当に何もないよ。ボウリングの玉くらいのサイズの、ただの石」


えぇ…?

なんか、スケルトンと言いゾンビと言い石像と言い…ドロップアイテムしょぼくない?

ちなみにゾンビのドロップアイテムは腐った人肉とボロ布。

両方ともゴミだ。

あと、フレッシュゾンビはボロ布しか落とさない。


「まあまあ。この石は建材として使えるし、まだ売れるよ」

「スケルトンの骨は?」

「まあ…骨粉とかに使うと思う。一応売れるからさ!」


とりあえず石を回収し、次の石像を探す。

しかし、それより早くゾンビが見つかった。

しかもこっちの事ロックオンしてるし。


「あいつは爆発しないタイプだと願って…」

「完全にトラウマになってるじゃん…そんなに嫌なら私がやるよ」


そう言って私の代わりにゾンビを倒してくれた。

…中身が飛び出してきて莉音が汚れるんじゃないかってひやひやしながら見ていたのは内緒。


「ゾンビが出てきたら私がやるよ。一緒にレベリングを頑張ろう!」

「はあ…退屈な3時間が始まった…」


嫌々レベリングを始める。

莉音はとにかく明るかったけど、私は最後まで暗いままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る