第30話 いざ再挑戦
一週間があっという間に過ぎ去り第三土曜日。
出発の準備を整えて玄関を開けると、そこには莉音とリカさんが居た。
「おはよう。莉音はともかく、リカさんがここに来るなんて…そんなに私に会いたかった?」
「ち、ちがっ―――」
「そうだよ。あの熱烈なキッスが忘れられなくて、一週間1人でもんもんとしてたリカは、我慢できなかった」
「そ、そんな事ない!!」
リカさんは莉音に秘密を暴露されて顔を真っ赤にして焦ってる。
そんな初心な反応が可愛くて、リカさんの前髪を捲り上げ、おでこにキスをした。
すると、予想通りトマトみたいに真っ赤になってその場にへたり込んでしまった。
「リカさんが立てなくなっちゃったね。莉音、私がリカさんを背負うから私の分の荷物も持ってくれない?」
「…私だって小春におんぶしてほしいのに」
渋々私の荷物を受け取る莉音。
お礼にとリカさんと違って唇を重ねてあげ、朝からしっかりイチャつく。
莉音は上機嫌で二人の荷物を持って、先に歩き出した。
私もリカさんを背負って歩こうとして…その前に一言呟いておく。
「もう歩けるはずなのに…」
「しーっ!リオンにバレるでしょ!?」
自分の足で歩けるのに、わざと歩けないフリをしてる事を指摘すると、小声で焦るリカさん。
私もリカさんがバレたくない事は知ってるから、あえて何も言わずそのまま歩く。
そのついでに、しっかりとお尻を揉んでセクハラしておいた。
すると、莉音にバレないように私の胸を揉む反撃してきたので、別に恥ずかしがっていない。
ダンジョンに着くまでの間、私とリカさんは莉音に内緒で静かにイチャついていた。
…もちろん莉音にはバレバレで、ダンジョンに入ってから正座させられる事になった。
「よっ、こいしょ!」
「ホントに地形が悪いね。この道であってる?」
「一応、ね!はぁ…はぁ……この崖を登るのが正規の道だよ」
ダンジョン攻略を始めて数時間。
灰の魔人に出会う事なく順調に進んで今はエリア4。
高低差が非常に激しく、道と言える道もないため山登り崖登りを強要される。
モンスターと遭遇することはほとんど無いけど…地形が悪すぎて体力を消耗する。
「小春ちゃん…ちょっと休憩しない?」
「う~ん…まあ一旦休憩して、エリア5の中ボスに備えようか」
「ありがとうリカ。実は私もかなり疲れてた」
私と比べて体力がない二人は、度重なる崖登りで体力を消耗し、少し休憩をとることになった。
私も多少疲れてはいるし、もうすぐエリア5の中ボスが控えているので休憩には賛成。
…無理に進んで滑落なんてことになったら洒落にならないからね。
「ハンモック使う?その方がゆっくりできるでしょ」
「アリだね。まあ、リカさんの持ってる一つしかないけど」
お金に余裕のあるリカさんは私達は到底買う気になれないハンモックを出してきた。
そのハンモックを使って休憩しようとするけれど…
「それで、どうやってつくるの?」
「え?いや、リオンなら組み立て方分かるかなって…」
「私も小春もハンモックなんて買う気なかったから、組み立て方なんて知らないよ?」
「私も知らないんだけど…」
「「……」」
…誰もハンモックの組み立て方が分からない。
「説明書とか無いの?」
「残念ながら…」
説明書がないか聞いてみるけど、見た感じ入ってそうな感じはしないし、リカさんも無いって言ってる。
スマホで調べようにも、そもそもここはダンジョンなので電波は圏外。
…ただの無駄な荷物じゃん。
「姉から組み立て方聞かなかったわけ?」
「何回か見てたからいけるかな~って…」
「はぁ…そんなだから拾ってもらえないんじゃないの?」
「なっ!?そ、それは関係ないでしょ!!」
「まあまあ落ち着いてよ二人とも。別にハンモックがなくたってゆっくりはできるよ」
喧嘩になりそうだったので私が二人の間に割って入って仲裁する。
莉音はとりあえず落ち着いてくれたけど、私達との関わりの日数が少ないリカさんはまだ怒ってる。
リカさんに気付かれないように莉音に視線を送ると、私の言いたいことを察した莉音は視線でオッケーをくれた。
「莉音、リカさんは詩音ほど莉音の事を知ってる訳じゃないんだから、あんまりそう言うこと言わないで」
「…分かった」
「ほら、謝って」
「…ごめん。言い過ぎた」
ほとんど茶番だけど、自然な形で莉音を謝らせる。
リカさんの方を見ると…うん、落ち着いてくれてる。
「…まあいいよ。小春ちゃんの反応的に、悪意があって言ったわけじゃなさそうだし」
「ごめんねリカさん。大人な対応をしてくれて助かる」
私が感謝する、リカさんは胸を張って誇らしげな表情を浮かべた。
「ふふっ。私は小春ちゃんのところの子供二人と違って大人だからね」
「背も低ければ胸も小さい癖に偉そうに…」
「胸に栄養を吸われまくってるお馬鹿が何か言ってる」
「なんだと~!?」
今度はリカさんが喧嘩を売ってきた。
カッとなった莉音が前に出て拳を握り締める。
リカさんの事を殴ろうとしてるんだろうけど…そんな事はさせない。
「二人ともいい加減にして!!!」
私が怒鳴ると莉音はすぐに止まり、リカさんは焦っておろおろし始める。
「こんなことしてたらまた灰の魔人が出てくるよ?私はリカさんも莉音も自分の事も守りたい。ここはダンジョンの中だって事自覚してる?」
「ご、ごめん…」
「でもリカが…」
本気で申し訳なさそうにしているリカさんと、どこか棒読みを感じる莉音。
…お互いの事をよく知り合ってるのも考え物だね。
本気で怒ってない事がバレてる。
「分かってくれたならいいよ。まあ、莉音は後でもう一回怒るけど」
「贔屓だ!リカだけずるい!!」
「本気で反省してない事は分かってるからね?どんな冗談を言っても笑い合える関係になれるまでは何度だって怒るよ」
今は笑えない冗談でも、いつかは笑えるようになる。
そうなるまでは私は何度だって莉音や詩音、もちろんリカさんのことだって怒る。
リカさんは私のハーレムの一員になる人だ。
こんな早い段階から、不仲なんて起こしたくないからね。
その後、普通にレジャーシートを敷いて三人で川の字になって軽く昼寝をした。
今日はあまり遭遇しないとはいえ、ここは危険なモンスターが居るダンジョン。
30分ごとに交代で見張りをして、ゆっくりと休憩した。
休憩とお昼ご飯を済ませて1時間後。
エリア5の最深部に到達した私達は、明らかに開けたいかにもな場所にやって来る。
「ここがバトルエリアか…今のところ鳥と鹿ぐらいだけど…果たして何が出てくるのやら」
エリア5までやって来る間に見たモンスターは、初めてここに来た時に嫌がらせしてきたあのクソバードと、こっちから攻撃しない限り事実上無害な鹿型のモンスターの2種類だけ。
正直、どんなボスモンスターが出て来るのか想像できない。
ボスモンスターを呼び出すべくどんどん中心へ向かって歩いていくと…正面の低木がガサガサとわざとらしく揺れ、生き物の影が姿を現す。
「アレって…」
私はその形に見覚えがある。
と言っても実物を見た事は無く、写真や絵でしかその存在を知らない生き物。
そして、想像していたものと明らかにサイズが異なる。
「く、熊?」
「そう、熊だよ」
低木の陰から現れたモンスターは熊。
それも、モンスターの熊と呼ぶにはあまりにも小さい。
ハッキリ言って大型犬くらいのサイズしかない。
そんな、全く恐怖を感じない熊だ。
「侮っちゃいけないよ。こいつも一応は中ボス。舐めてかかると――」
莉音の解説が入るかと思いきや、いきなり攻撃態勢をとった熊。
熊の右手の爪が青緑色に輝いたかと思えば、その手を振り上げて――振り下ろすと同時に緑色の風の斬撃が発生する。
「あいつと同じパターンか!!」
私達を度々襲ったクソバードと同じ戦法。
その斬撃をそれぞれ躱すと、すぐに武器を構えて戦闘態勢に入る。
そして、動きながら莉音が解説を始めた。
「あいつの名前は『風塵の爪ガマガ』!!熊のような見た目の中型サイズのモンスターで、右手からは風の斬撃を飛ばしてくる厄介なモンスターだよ!」
「変わった名前ね!それに右手からはって…まるで左は違うみたいじゃん?」
「そうだね。あいつの左手の攻撃は――」
莉音の説明に割っては入るように今度は左手の爪が光る。
その色は薄黄色と呼ぶべき色で、あまり属性の見当がつかない。
でも、どんな攻撃が来るかはわかる。
『ガァァァァアアアア!!』
雄たけびと共に爪を振り回し、黄色い斬撃を放つ。
しかも、腕を振るたびに攻撃が飛んでくるからなかなか厄介。
今のところ全部躱せてはいるけど…アレがどの程度か気になるね。
私は自分が狙われていない事を確認すると、飛んで行った斬撃がどうなるかを見る。
空を切った斬撃は近くの木に直撃し、その幹の半分ほどを切った。
切断面は非常に荒く、まるで熊が爪でひっかいたような跡になっている。
威力は十分。
そして、切れ味はそこまで良いとは言えない事を考えると…当たりたくはないね。
「無属性の斬撃が飛んでくるのが左手!風の斬撃は肉をチェーンソーのように削りながら切り裂き、無属性の斬撃は爪でひっかかれたような裂き方をする!飛ぶ斬撃には要注意だよ!!」
「了解!」
無属性の斬撃。
と言うことは、防具のダメージ軽減効果は防御力参照。
今の防具で何処まで防げるのか気になるところではあるけれど…まあ、即死はしないはず。
けれどあたって良い理由にはならない。
斬撃には最大限警戒しながらあいつを倒す!
「リカさん!莉音は右から回るから左からお願い!私は正面から行く!」
「わかったわ!怪我しないでね!!」
一応のリーダーとしてリカさんに指示を出し、3人で取り囲むように動く。
アタッカー兼タンクの私が一番気を引く正面から攻撃を仕掛け、あと2人が背後から攻撃を仕掛ける。
特に、熊ともなると分厚い毛皮のせいで私と莉音の攻撃は通りが悪いはず。
この勝負、リカさんの火力が鍵になるね。
勝ち方の構想を練りながら正面から突撃する私。
またもや風の斬撃を放とうとするけれど…そうはさせない。
「この距離で使わせるとでも!?」
『ガッ!?』
華麗な後ろ回し蹴りで右腕を蹴り、斬撃の発生を阻止する。
あまりの攻撃に呆気にとられるガマガ。
ボスモンスターとして作られていても、流石にこんな攻撃をされた時の対策については何もされていなかったらしい。
そこへ2人が攻撃を仕掛ける。
「小春に触れるな熊畜生!」
「野生動物もどきが!!」
莉音に思いっ切り殴られ、背中にはリカさんのナイフが深々と刺さる。
しかし、あまり痛がっている様子がないことから、そんなに効いていないみたい。
このサイズならナイフがアレだけ刺されば致命傷ものだけど…なにかからくりでもあるのかな?
「ガマガは痛みに強い!かまわず攻撃して!」
「なるほどね!じゃあこうすれば良いわけだ!!」
『ガ―――ッ!?』
全力のフルスイングでアッパーを繰り出す。
顎をぶん殴っての振動で頭を揺らすんだ。
顎に重い一撃を食らうのは結構効く。
それはガマガも同じのようで、二足歩行で後退る。
「畳み掛けるよ!滅多刺しにして!!」
「リオンに命令されたくないね!」
「よし!こいつの次はお前だ!」
怯んだ隙を2人が見逃すはずもなく…
莉音にボコボコに殴られた上にリカさんに背中を滅多刺しにされた。
サイズ的にどうやらナイフは内臓にまで届いたようで、わかりやすく動きが鈍る。
そこに容赦なく蹴りを叩き込み、ガマガを蹴り倒した。
「まだまだぁ!!……って、あれ?」
「倒してるね…」
「まあ…攻撃は危険だけど弱いボスだし…こんなものか」
これから私もラッシュを仕掛けるつもりが、ガマガは既に息絶えていた。
なんともしっくりこない終わり方だけど…私達はとにかく中ボスを倒すことに成功した。
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