第29話 対策を立てよう

火曜日の放課後。

私達は、使う人がほとんどいない土地の無駄遣いと言える公園のベンチに腰掛けて、レベル3ダンジョン攻略の対策を考えていた。


「ぶっちゃけた話、レベル3ダンジョンって攻略できるの?」

「レベル的にはいけるんだけどね…灰の魔人に出くわした瞬間ゲームオーバーだからさ」

「う~ん。それは怖いよね。リカさんを守るためにも、あんまりかなぁ」


ダンジョンの攻略自体は出来るらしい。

でも、灰の魔人という出会ったら死あるのみの化け物がいる以上、軽い気持ちではいけない。


「出くわしたらすぐダンジョンから出るとか、エリアをまたぐとかで撒けないの?」

「残念なことに、灰の魔人はエリア移動で引きはがせないタイプのモンスター。逃げるためにはダンジョンから出るしかないんだよね」


う~ん…もしエリア9とかで出現したら間違いなく逃げられないし、エリア1なら何とかなるかもしえないけど前回は逃げられなかったからなぁ…


「前回はエリア1だったから逃げられたかもしれないけど、次は逃げられないかもしれない。そういう恐怖があるから、もうストックがない私は迂闊に入れないんだけど…どう?」

「リカは仕方ないよ。…でも、リスクを背負わない事には何も始まらないのが冒険者。小春のために死ねる?」

「…まだ、そこまでの覚悟はないかな」


リカさんの安全を考えると、何も考えずダンジョンに行くわけにはいかない。

とは言っても他に行く当てがあるわけでもなく…


「…リカさん。私のために命を懸けてくれない?」

「ぐっ……そんな顔で言われたら、断れないじゃん」

「小春先輩の泣き落としっすか…珍しい」

「私だって泣く時は泣くよ」


まるで私が血も涙もないみたいな言い方をする詩音は、まだ冒険者になるまで時間がかかるのでステイ。

猫の相手をするみたいな感じで、膝の上に乗せて頭を撫でてあげる。

満面の笑みを浮かべて嬉しそうにしているから、中々やめられないんだよね。


「でもまあ、何の対策もなしに行くわけにはいかないし?何か灰の魔人と出会った時の対処法とか無いの?」

「……あるにはある」

「まあ、ありはするよ……現実的じゃないけど」

「なに…?2人して…」


2人の微妙な反応に、私は首を傾げる。

対策があるならそれを使わない手はない。

一体どんな対策なんだろう?


「まず灰の魔人についてだけど…第一形態のただの灰の塊のときはかなり弱い。物理攻撃が効かないから成すすべがないんだけど…水をぶっかけると鎮火して死ぬ」

「そうなの?」

「うん。でも、消防車を呼ぶくらいの水が必要。私達が手で運べる水じゃ正直足りな過ぎる」

「なるほどね〜…だから現実的じゃないと…」


いつも探検に行くときに背負っているバックに積める程度の水じゃ、灰の魔人を鎮火することは出来ない。

一番簡単な方法は、比較的簡単ってだけでそんなに現実的じゃないんだね。


「他にも水で鎮火できるように、燃焼反応が起こさなければ灰の魔人は死ぬ」

「燃焼反応…?」

「要は物を燃やすって事が出来なければ倒せるってこと。燃えるものが無くなるとか、酸素が無くなるとか、水をかけられたとか。その応用で、二酸化炭素を噴射して酸素を奪い殺すって方法もあるみたいだけど…これも現実的じゃない上に実用的じゃない。他にはバライティに富んだインフルエンサー系の冒険者が液体窒素をぶっかけて倒してたりもする」

「う〜ん…どれも現実的じゃないね」

「でしょ?」


莉音の説明してくれた方法は、確かに現実的じゃない。

そもそも出会うかもわからない灰の魔人の対策に、そんなに本気になってもって話だしね。

本当は根本的な対策ができればいいんだけど…


「根本的な対策とか無いの?」

「灰の魔人は盗賊の強化された感覚では察知できないからね〜。私が見つけるのは無理」

「誰か探知系のスキルを持ってれば遭遇率は大きく下がるんだけど…そんなもの無いからね〜」


う〜ん…探知が出来ないとなると根本的な対策は難しいか…

やっぱり、出会った時の対抗策とか、逃げる手段と言う方向で模索するしか無いかな?


「逃げる、か……『脱出の羽』とかの緊急脱出用のアイテムでも用意する?」


『脱出の羽』

使うとダンジョンのロビーに転移する羽で、緊急脱出に用いられる。

それこそ灰の魔人みたいにどうしょうもない敵と出会った際の保険。

あるとないとでは生存率が段違いだ。

…でも、1つ欠点がある。


「あれ高いよ?リカがお金出してくれるなら良いけどさ」

「うちはもうすぐ稼ぎ頭の長女が嫁に行くから、その準備でそこまでの余裕は……」

「となると各自で用意するしか無いね…それか自力で見つけるか」


そう、高い。

1つ10万円はする高級品のくせに、1回限りかつ人数分用意しなきゃいけない。

その上使えない場所が多かったり、緊急脱出系のアイテムを封じてくる敵やギミックが結構ある。

それでも高いのは、見つけてもそうそう売らないから。


使える場所を限ってくるとは言え、保険としては十分だし、別に緊急脱出以外の用途でかつ極力早く外に出たい時にも使われる。

あとは、応急処置やダンジョン内での治療だと不十分なケガをした人を送るためにも使われる。

だから売りに出されなくて、常に品薄状態。

多少高値に設定しても売れるからそんな値段が付けられてるんだよね。


「ダンジョン攻略の稼ぎで買えばいいじゃないっすか?」

「そんなに稼げてるなら今頃みんなでご飯を食べに行ってるよ…」

「私も小春にプレゼント買ってる」

「稼げてたら路頭に迷ってないかな〜…」


駆け出し冒険者の辛さを知らない詩音がふざけた事を言う。

ダンジョンの稼ぎで買えばいいって?

この一月半で私達が稼いだ額はおおよそ10000ちょっと。

いや、だいたい15000円くらいかな?

一つも買えないし、なんだったらダンジョン攻略に使った道具とか消耗品の事を考えると1000円稼げてるかどうか…


「お金が無い問題は成功できるまでずっと付きまとう話だし、考えるだけ無駄だよ…」

「じゃあ危険を承知で挑むしか無いね…リカさん。腹を括って?」

「やっぱりこうなるか…」


安全にダンジョンを攻略する方法なんて無い事が改めて理解できた所で、リカさんに腹を括ってもらう。

でもやっぱり怖いらしく、拳を握りしめ、肩を震わせている。


…この緊張をほぐして、私についてきてもらうのが、惚れられた人としての務めだと思う。

だから、リカさんに前払いのご褒美をあげよう。


「リカさん。ちょっとこっちを向いて」

「えっ?―――ッ!?」

「んなっ!?」

「………」


リカさんを呼んで私の方に顔を向かせる。

そこに私が前へ出て、顔を両手で挟み込むように固定するとそのまま唇を重ねる。

軽く先を触れ合わせるだけの簡単なものじゃない。


「んっ…っ…」

「んん〜っ!…ぷはっ!?はぁ…はぁ…」


しっかり唇全体を密着させた、大人なキス。

3秒くらいしかしてないけど、リカさんの顔はもう色っぽくて目がとろけてる。


私の唾液で艷やかになった唇を見ると、なんだかムラムラしてきた。

…まあ、はっちゃけるつもりはないけどさ?

ここ、公園だし。


「ずるいっす!こんなぽっと出のチビ貧乳のくせに〜!!」

「大胆だなぁ…そんなに私達を嫉妬させて楽しい?」

「2人にも後でやってあげるから我慢して」


ぎゃーぎゃー騒ぐ2人を鎮め、ボーっとしているリカさんの耳元で囁く。


「これは前払い。あとから何回でも支払ってあげるけど…どう?」

「―――〜っ!!」

「んん〜?悲鳴をあげてるだけじゃ伝わらないよ?」

「バカッ!」


顔を真っ赤にして私を突き飛ばし、莉音の後ろに逃げるリカさん。

…まあ、返事はもらえなかったけどオッケーでしょ?


でもいいなぁ〜。

初心で色恋に疎い人の反応からしか取らない栄養。あるよね〜?

これはしばらくいじめられるね。

今は刺激したらそれだけ反応してくれるし、その可愛さを堪能しようかな?


ずっとこのままなら最高なんだけどね〜。


「じゃあまた次の休日に行こう。灰の魔人に会わないことを願ってさ?」

「だね。詩音はまたお家で待機だよ」

「ずるいっす!莉音先輩は1回私と代わるべきっす!!」

「代わりたきゃ法律を変えな。まあ、バカな詩音には無理だと思うけど」

「なんだと〜!?」


ま〜たくだらない喧嘩を始める2人。

どうせぎゃーぎゃー騒ぐだけだし放置しても良いけど…構って欲しくて喧嘩してる感じだろうし、相手してあげよう。


「2人ともやめな。喧嘩するくらいなら私に甘えてくれば良いのに。じゃないとリカさんに取られるよ?」

「大丈夫。リカはもうオーバヒートしてるから」

「御堂さんには刺激が強すぎるっす」


顔を真っ赤にしてしゃがみ込むリカさんのことなんかもう眼中にない2人。

そんな2人の相手をしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。








「ねぇ小春。もう1回してくれない?」

「また?良いけどさ…あそこでしよう」


帰り道。

莉音がキスしたいって言い出した。

リカさんにしてあげたみたいなキスは、別れ際に3人共にしてあげた。

だからなのか、莉音はもう1回やりたいらしい。

…詩音には悪いけど、家が近いって事の恩恵だね。


いい感じの物陰に隠れると、そこで莉音の顔に手を当てる。

すると、莉音も私の顔に手を当ててきて、互いに顔を抑えて見つめ合う。


「「んっ…」」


キスをする。

顔を抑え合ってるから逃げられないし、逃げようとも思わない。

なんだったら、お互い一歩前に出て胸を押し付け合い、全身を密着させる。

ここがベットなら、もっと気持ちよかったに違いない。

でも、立った状態でするのも中々あり。


「ん…んっ……は、ぁ……」

「んんっ……ぁ…は……」


顔を抑えていた手はいつの間にか頬を離れ、右手は莉音の後頭部へ、左手は腰へ移動する。

それは莉音も同じ。

お互い体を押し付けあって、口では相手の口内に舌をねじ込む。

舌同士が絡まり合って、愛情表現をする。

優しく舌を撫でたり、舌の先端を引っ掛けて引っ張り合ったり、激しくぶつけ合ったり。

一つになるには少し短い舌を絡め合い、その触感を堪能する。


ある程度愉しんだ私は腰を低くして莉音を見上げるような体勢になる。

莉音もそれに合わせて顔を下向きにすると、舌同士を絡め合っている間に口に溜まった唾液を流し込んできた。

私はそれを口の中で自分の唾液と混ぜ合わせ、姿勢をもとに戻す。

今度は莉音が姿勢を低くした。

それに応えるように顔を下に向けると、私の口の中で混ざった2人の唾液を流し込んであげる。


…今私たちができる1番の性的な接触だ。


本当なら今すぐ莉音を押し倒したい。

この邪魔な服を無理やり引き千切ってめちゃくちゃにしたい。

抵抗する莉音を力で押さえつけ、それでも抵抗するなら殴ってでも言うことを聞かせ、私のものにしたい。


でもそれをしないのは、詩音が居るから。

恋人に優劣はつけない。

そう決めたからには、莉音相手にだけにそれをするわけにはいかない。

じゃあ詩音も連れてくればいいって話かもしれないけど…少なくとも18歳になるまではしないって決めたんだ。

まだ17歳にもなってない詩音との間に優劣を付けないために。

私はこれで我慢してる。


「んん〜っ…!」


息継ぎをするためか、一旦唇を離そうと提案してくる莉音。

でも私はソレを受け入れない。

私が満足するまで絶対に離さない。

両手に力を込めて押し付け、その事をアピールする。

結局私達は10分以上唇を重ね、愛を確かめ合うと言うよりはお互いの性欲を満たしあった。

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