第23話 レベル3

また一週間学校に通いやってきた土曜日。

午前中はこれまで通りレベリングと装備を作るための準備をしていた。

装備の強化に必要な素材が足りず、少し午後にもはみ出したけど…一時間くらいで素材が溜まったのでよし。


その後は一旦ロビーに戻ってランナーカープから抽出した装備の強化をする。

強化された装備。その名も『駆ける魚』。

見た目としては、上に向かって飛び上が錦鯉が描かれた時代劇に出てきそうな袴。

まるで武士にでもなったみたいな恰好。

しかも、アクセサリーが鉢巻だから本当に武士みたいだ。


見た目はすごくいいけど、果たして性能の方はいかに…


「この装備の強みってなに?」

「まず防御力が+35とそこそこ高く、無属性攻撃に強い。そして、属性耐性が水火風の三属性が0.8耐性。雷冷気が1.5耐性と結構優秀」

「そう?耐性が三つだけで、しかも0.8ってそんなに強くない気がするんだけど…」


『大蛇』は火属性に耐性がないけど、毒と石化に半減耐性があった。

それが無いのは弱いんじゃないの?


そう思って質問した。

すると、リカさんが横からその質問について答えてくれる。


「そもそも毒や石化なんて属性で攻撃してくるモンスターなんて、そうそういないんだよね。特に石化なんてなかなか出てこない」

「なるほど…わざわざ高耐性の装備を用意しなくていいのか」

「そういう事」

「それ私が言いたかったのに…」

「早い者勝ちだよ。リオン」


説明の取り合いをしている二人は置いておくとして…

毒や石化のような属性は使ってくるモンスターが少ないから、わざわざそう言う属性に高い耐性を持つ装備を着ても意味がないわけだ。

…という事は、その属性を使ってくるモンスターが少ない属性に高い耐性を持つ装備ってあんまり使わない?


「他にもなかなか使わない属性ってあるの?」

「冷気と光かな?あんまりいないから、弱点属性になっててもそいつらが出てこないダンジョンなら問題なしだよ」


そうか。

そもそもの話、属性耐性がないとか弱点属性になってるモンスターが出てくるダンジョンには行かなければいい。

装備がそろってから改めて行くってのも選択肢にあるわけだ。


「じゃあ、これから行こうとしてるレベル3ダンジョンは水火風の属性で攻撃してくるモンスターが居るの?」

「そうだね。これから行く場所に出てくるモンスターは風属性を使ってくるんだよ。だから、風属性耐性があって『大蛇』よりも無属性防御が高い『駆ける魚』が欲しかったんだよ」


耐性がしっかりしてて、防御力も高い新しい装備が欲しかったんだね。


…でも、それだと火耐性が欲しい理由が分からない。

今後のためとか?

それならレベル3ダンジョンでも防具は取れるし、そこに火耐性のある防具がないなら話は別だけど…どうなんだろう?


「そう言えば火耐性は何かに役立つの?レベル3ダンジョンでは火耐性のある装備が取れないとか?」

「あー…えっと、“保険”と“気休め”のためかな?」

「???」


保険?

気休め?


え?そんなにやばい何かがあるの?

それならもう少しレベリングと装備を整えてからでも…


「まあ、あくまで保険だからね。使わないと思うよ」

「そうなの?」

「うん!使わない!」


何かを隠しているようにも見えるけど…莉音が使わないと言うなら使わないんだろうね。

とりあえず火耐性は機にしないようにしよう。


「……使う時が来たらもうおしまいだけどね」

「何か言った?リカさん」

「いや?なんでもないよ。気にしないで」


……なんか呟いてた気がするけど、何を言っていたまでは聞こえなかった。

まあでも、気にしないでって言われたし大丈夫だろうね。


「とりあえず全員分の装備は揃えたし、じゃあ行こうか?レベル3ダンジョン」

「「おー!!」」


莉音を先頭に、私達はレベル3ダンジョンの入り口の前に立つ。

そして、手を繋いで同じダンジョンに行けるようにすると、空間の歪みに飛び込んだ。








「わぁ〜お!大自然!!」


ダンジョン内への転移が終わり、視界が戻ってきた私が最初に見たものは、見上げるほどの高い山。

生まれたこの方関東平野から出たことのない私には、テレビやスマホでしか見たことないような高い山。


しかも、こんなに木が生えているなんて…大自然の山ってのはすごいね。


「レベル3ダンジョン『グリーンマウンテン』。ここを越えられたら冒険者としてやっていける。見習い卒業の登竜門と言うべきダンジョンだね」

「へぇ〜?だから2人とも気合いの入った顔をしてるんだね?」

「「えっ?」」

「え?違うの?」


莉音もリカさんも随分覚悟の決まった顔をしている。

まるで、これからとんでもない強敵と戦いに行くみたいだ。


ても、その事を指摘すると2人ともきょとんとした顔をする。


「い、いつもこんな感じだったと思うよ?」

「そうそう!いつもこんな感じ!」

「……怪しい」


そして、露骨に何かを隠そうとしてきた。

怪しいね。すごく怪しい。

ぜーったい何か隠してる。


「何かあるなら言ってよ!私だけ除け者にしないで!」

「いや…言ったら小春帰っちゃうし…」

「それにそんなに心配することでもないからね。気にしなくていいよ」

「ホントかなぁ?」


何かあることは間違いない。

そして、それを知ったら私は帰るらしい。


…もう帰りたいんだけど?

嫌な予感しかしないし、それが原因で一大事になったら大変だ。

でも、2人は先に進みたいらしいし、2対1は言いくるめられて終わりそうだから、仕方なく言うことを聞いてあげよう。


「わかったよ。詳しくは聞かない」

「ありがとう!さ〜て、レベル3ダンジョンの攻略を始めようか!」


私が折れて、先へ進むことになった。

行き先はもちろん山。

木々が不規則で無秩序に生え、地面は落ち葉で不安定な上に、その落ち葉下にむき出しとなった根があるせいで足場は不安定。

そして山登りをするんだから傾斜もあるせいでさらに足場が悪い。


とにかく大変な山登り。

モンスターが出てこないのが幸いだなんて思いながら登り続けると、急に傾斜が無くなった。


「傾斜が無くなった?なにこれ?」

「エリア2に入ったね。もう山登りはしないけど、とにかく広い森を探索しながらモンスターと戦う」

「つまり、ここからが本番ってこと」

「そのセリフ私が言いたかったのにー!」

「早い者勝ちなんだよ~。莉音は一生私の後だね」

「なんだと〜!?」


2人のじゃれ合いは無視して…ここからが本番か。

だとしたら、厄介なモンスターが次々と出てくる…?

2人が警戒するほどだし、気を張っておいたほうがいいよね。







私はそんな風に……どこか楽観的に考えていた。

その後に控える恐ろしい事なんて知る由もない。

莉音の言っていた“保険”や“気休め”の意味を私はまだ知らない。

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