第22話 恋敵

小春ちゃんと莉音が仲直りしていたので、今日も今日とてダンジョン攻略―――と言うかレベリングだ。


…ただし、少し違うところがある。

それは、莉音の視線だ。


「ふぅ〜…これで8体目素材抽出で良いんだよね?」

「うん。ランナーカープの装備はこの先も使うからね。……ね?リカ」

「次のレベル3ダンジョンや、もう一つのレベル2ダンジョンで使うからね。…どうしてそんなに睨むの?リオン」

「いや、ね?リカなら分かるはずだけど?」

「???」


すごく睨まれると言うか…敵を見るような目で見られていると言うか。

とても、仲間に向ける目ではない事は確かだ。

小春ちゃんは私達の変化についてわかっていないらしく首を傾げてるけど……私はなぜここまでま莉音に睨まれているか分かる。


(あのガキ…莉音にチクりやがった!!)


詩音だ。

あのクソガキが、私が『他意はない』とか余計な事を言った事を莉音にチクったんだ。

しかも、絶対あることないこと話を盛って話してる。

じゃないとこんな…敵を見るような目で見られたりしない!


(恋敵とか…別に私そんなの関係ないし!)


本当に他意はないのに、やたらと私の揚げ足を取ろうとする2人。

このクソガキどもはマジで…


せめてもの救いは小春ちゃんが何のことか理解できてない事。

莉音がキレてる事を知ったらま〜た喧嘩になる気がする。

しかも、今度は詩音ちゃんを巻き込んで。


「もう一つのレベル2ダンジョンって…そっちはどんなところなの?」

「灼熱の砂漠だよ。しかも出てくるモンスターの強さがこの『開けた湿地』よりも強いと厄介」

「へぇ〜?だから比較的安全なこっちを選んだんだね?」

「そういう事」


小春ちゃんが莉音に話しかけてくれたおかげで事なきを得た。

でも、また何かの拍子に睨まれるかも知れない。

今日は特に気を張らないとね…


「砂漠かぁ…どんなモンスターが出てくるの?」

「サソリとヘビだね。あとはコヨーテみたいな奴もいる」

「ミイラとかは出てこないの?」

「レベル2ダンジョンの砂漠は1日中昼だからね。日光のある中では活動出来ないのが基本のアンデッドは、昼のエリアには出てこないよ。つまり、レベル2ダンジョンにはミイラは居ない」


そう、ずっとそのまま話していて欲しい。

私だけ1人にされてるとか気を遣わなくて言いからね?

話しかけないでね?小春ちゃん!


……しかし、そんな私の願いは叶わず、気を遣った小春ちゃんは話しかけてくる。


「リカさんはもう一つのレベル2ダンジョンに行ったことある?」

「えっ…あ、う〜ん……無いね」

「そうなんだ……ん?どうしたの莉音?」

「いや、なんてもないよ〜」


やっぱりめっちゃ睨まれた。

恋敵どころか、親の仇くらいの勢いで睨まれた。

頑張って稼いだ好感度がだだ下がり。

詩音め…次出会う時は覚悟しとけよマジで…


「仲良くしてよ?リカさんは大切なパーティーメンバーなんだし」

「分かってるもん」

「リカさん。申し訳ないけどもう少しこれは続きそう…」

「いやいや。これくらい耐えるよ。…私にとってはこのパーティーを追い出されるかもしれないってのは死活問題だから」

「ですよね…」


小春ちゃんが気になってる云々以前に、私は莉音の機嫌を損なってこのパーティーから追い出されるなんて事になれば冒険者として終わりだ。

もう私なんかを拾ってくれるパーティーなんて無いし、一人で頑張るしかない。

せめて…せめてレベル5ダンジョンまで行ってからなら…!


「……私としては、小春をリカに寝取られるかもしれないって死活問題があるけどね?」

「はあ?」

「ちょっ!?違うんだってリオン!!」


小春ちゃんの居る目の前でそんな事を言われてしまった。

こうなっては弁明するしかない。

小春ちゃんに一部始終を話し、今莉音とバチバチしていることを伝える。


莉音は終始イライラしながら私のことを睨んでいるけど気にしたら負け。


「ふ〜ん…とりあえず明日詩音は〆ておかないとね」

「それは私も同意かな?詩音が余計な事を言わなきゃ私もリカにここまで警戒しないし」


2人の合意で詩音の折檻が決まった。

ざまあみやがれクソガキ!


…っと!それはそうと今度は小春ちゃんの誤解を解かないと。


「言っておくけど、シオンちゃんが話を盛ってるだけで、本当にそう言う意味じゃないから!誤解しないで!!」


身振り手振りを付け、誤解しないでもらえるように必死に弁明する。


私が小春ちゃんの事を気になってるなんて無い!

絶対無い!!

無い無い無い!!


「……なんとなく詩音が話を盛った理由がわかる気がする」

「ね?」

「なんで!?」


大袈裟にやったらと駄目かな?

でも、軽く流すとはぐらかそうとしてるみたいになるかも知れないし…


塩梅が難しい…


「とにかく!小春ちゃんの事とか微塵も興味無いから!!」

「それは逆に傷つくなぁ…」

「リカひど〜い」

「うぐっ……いや、そう言う意味で言ったわけじゃ…」


やっぱり強く言うと相手を傷つけちゃう。

じゃあ優しく?

でも、それだと媚を売ってるみたいだしなぁ…


どう言ったらいいのか分からず困っていると、小春ちゃんがとんでもない爆弾を投下する。


「まあ、私はリカさんが私のことを好きになっても構わないけどね?」

「んん!?」

「はあっ!?」


私が小春ちゃんを好きになっても、いい?


…いや!

別に全然響いてない!

安心なんかしてない!!


むしろこの状況でそれを言うのは……


「こ、この裏切り者ぉ〜!!!」

「痛っ!?ちょっ!?それ『大蛇』の爪だよね!?」


流石に危機感を本気で感じ始めた莉音が小春ちゃんを攻撃する。

私は私で自分の中に心の整理を付けるために、助けに入れない。

…と言うか入りたくない。


中々賑やかな状況がしばらく続いて、流石に小春ちゃんの堪忍袋の尾が切れかかったその時―――


「やばっ!?」

「うわっ!もう復活してた!!」

「小春のせいだからね!」

「はあ!?私悪くないし!!」


いち早くランナーカープの復活に気付いた私が戦闘態勢を取ったことで、2人もすぐに構える。

2人で軽く喧嘩してるけど…昨日のあれを見るに放っておいてもいいはず。

とりあえず2人の事は一旦頭から放りだし、戦闘に集中することにした。








「じゃあ、また一週間後」

「ふん!もう呼ばないから!!」

「リオンには嫌われちゃったけど、小春ちゃんは呼んでくれるよね?」

「もちろん。来週もよろしく」


夕方までひたすらランナーカープを狩り続け、今日のダンジョン攻略というかボスの周回はお開きに。

2人の喧嘩――というか修羅場?に関しては普通に和解してたから問題なし。

まあ、めっちゃ警戒されてはいるけど…元々であった時から警戒されてからそれもそのころに戻ったと考えればまあよし。


問題はまだ私達全員の装備がないって事。

これは来週も周回確定だね。

まあ、莉音はこの周回が終わったらレベル3ダンジョンに行くつもりみたいだし、もう少し周回しないと厳しい。


…でも、レベル3ダンジョンか。


「行くとしたらあそこ一択だけど…まあ、何事もない事を祈っておこう」


私はこれから行くであろうレベル3ダンジョンに不安を抱きながら一人で家に帰った。

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