第16話 仲を深めよう
土曜日です。
ダンジョンに潜る時間です。
先週から引き続き、今週も朝からレベリングをする事3時間。
遂に私達は莉音の言う適正レベルまで到達した。
◆ 名前 神宮小春
種族 ヒト
職業 学生・拳闘士
レベル16
スキル《格闘術》
装備 防具『大蛇』
武器『大蛇』
セット効果 筋力強化小
毒耐性
アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』
◆ 名前 赤森莉音
種族 ヒト
職業 学生・戦巫女
レベル16
スキル《格闘術》《法術》
装備 防具『大蛇』
武器『大蛇』
セット効果 筋力強化小
毒耐性
アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』
◆ 名前
種族 ヒト
職業 盗賊
レベル17
スキル 《隠密》
装備 防具『大蛇』
武器『輝く鱗』
アクセサリー 指輪『修行僧』
私と莉音はレベル16に御堂さんはレベル17までレベルが上がった。
これでようやく先に進める…
「よ〜し。じゃあ先に進もうか?」
「エリア2に行くんだね?…でも何処から?」
「ふふっ、実は入口は目の前にあるんだよ」
「え?」
辺りを見渡すも、特にそれられしい場所はない。
強いて言うなら、棚田のように少し高くなっている場所があるくらいで、他にそう言う場所は見当たらない。
「この50センチくらいの段差を超えた先がエリア2なのよ」
「え?コレが?」
「…それ私が言いたかった」
見かねた御堂さんが説明してくれた。
莉音は不満げだけど…反応的に間違いない。
「この段差を上がった先がエリア2。じゃあ行こうか」
そう言って、ジャンプで段差の上に登る莉音。
御堂さんもジャンプして登ってたから…私もジャンプする。
そして、一歩前に出ると…グチャッ!と言う嫌な音が聞こえ、靴に何かが纏わりつくような感覚に襲われた。
「う〜わ…」
「あちゃ〜…」
「………」
足元を見ると、思いっきりぬかるみを踏んでいて、せっかくの探検用の靴が泥だらけになってしまった。
気分は最悪。
「ま、まあ、このダンジョンを攻略するときは絶対に起こることだし?意外と早くに起こったって考えようよ」
「私も散々ぬかるみには苦しめられたし、気にすることないよ。何だったら、私が新しい靴買ってあげようか?」
私を励まそうとしてくれる2人。
御堂さんなんか、新しいモノを用意するなんて言ってる。
でも……
「この靴は莉音と一緒に選んだ靴だから…」
「あー…」
「小春…!」
気分が急降下した理由を知って頭を抱える御堂さんと、感激して涙を流す莉音。
そして、完全にやる気を失った私。
そんなカオスな状況が私が元気を取り戻すまで続き、それだけで30分は時間を消費した。
「もう大丈夫?」
「うん…」
「よしよし。また一緒に買いに行こうね〜」
なんとか元気になった。
莉音が泥だらけの靴をキレイにしてくれたけど、まだちょっと汚い。
結構気に入ってたのに…
「長靴を用意すべきだったかなぁ…でも、長靴って靴擦れしやすいし…」
「湿地の攻略をしようとしてる時点で、靴が犠牲になるのは織り込んでおかないと。明日は汚れても良い靴を持ってきなよ」
「う〜ん、正論」
何も知らない私をよそに、どうすればよかったのかの反省会をする有識者2人。
わかってたならこんな格好で来るように言わないで欲しかった。
「ともかく、足元に気を付けて歩こう。じゃあ、先に進むよ」
「そのセリフ私が言いたかった…」
「またそれ?全く…早い者勝ちだよ」
「むっ!小春〜!やっぱりこの人追放しようよ〜!!」
「ちょっ!それだけは勘弁!!」
「あはははっ!冗談だよ」
2人でワイワイ騒ぎながら前に進む莉音と御堂さん。
なんか…あっという間に仲良くなってるね。
…でも、そんなに遊びながら歩いたら―――
嫌な予感がした直後、御堂さんが体勢を崩す。
「「「あっ…」」」
3人の声が重なり…御堂さんはぬかるみに倒れ込んだ。
ベチャッ!!と言う大きな音共に水を豊富に含んだ泥が盛大に跳ねる。
その泥は私達の方にも飛ん出来て、余計な事をした莉音と何もしていない私まで泥だらけ。
「「「………」」」
御堂さんは全身泥塗れになって呆然としてるし、莉音は「やっちまった〜…」と言う顔をしている。
……なんか、ふつふつと怒りが湧いてきた。
本はと言えばなんの準備もなしにこんな場所に連れてきた莉音が悪い。
それに、御堂さんがこうなったのも莉音がふざけたから。
制裁が必要だね…
「えいっ」
「うぇっ!?」
莉音の背中を力強く押すと、バランスを崩した莉音がぬかるみにダイブ。
また泥を大量に跳ねさせて、莉音も泥まみれになった。
ちょっとスッキリ!
しかし、スッキリしたのもつかの間。
「小春〜!!」
「うわっ!!?」
落とされてキレた莉音が私の腕を掴んで泥沼に引きずり込んできた。
私も泥に塗れて体がベトベト。
それを見てニヤニヤ笑う莉音の顔にまたもやふつふつと怒りが湧いてきて……
「許さない!!」
「こっちのセリフ!!」
ぬかるみで相手を泥だらけにしようと取っ組み合いになった。
…まあ、取っ組み合いと言ってもただのじゃれ合い。
本気で喧嘩してるわけじゃない。
でも、まだ私達を知って日が浅い御堂さんはその事が分からなくて間に割って入ってくる。
「ちょっと!2人ともやめなさい!!」
「うわっ!?」
「わわっ!?」
「あっ…」
止めようとしてくれたのはありがたいけど、もう少し力の加減が出来なかったものか…
御堂さんが私達を引き剥がそうとする力に体勢を崩し、2人とも泥沼に倒れる。
一瞬呆気に取られて固まっちゃったけど、すぐに誰が敵か把握。
「な~んだ、御堂さんも仲間に加えてほしかったんですね?」
「言ってくれたらよかったのに」
「…待って、別にそんなつもりあああああああ!!」
私達が何をしようとしているか瞬時に理解した御堂さんは、何とか弁明をしようとするけれど、私達は止まらない。
掴まれて3人同時に沼に倒れ込む。
最初は抵抗を試みた御堂さんだけどだんだん腹が立ってきたのか、反撃するようになってきた。
そして、3人で泥沼の中でひとしきり遊んだ後、大笑いした。
なかなか楽しかったけど、服と体はドロドロになった。
「はぁ~!生き返る~!」
「莉音…またおっさんみたいになってるよ」
「いいじゃない。普段とのギャップでもっと好きになるとかさ?」
「これ以上好きになったら、所かまわずイチャイチャしそうだから今は自重してるの」
「見せつけて来るなぁ~…」
フロントの大浴場で、3人並んで湯船に浸かる。
ここはいくつもある大きな湯船の中で一番温度の高い熱いお風呂。
莉音が熱いお風呂が好きだから、御堂さん…いや、リカさんも合わせてくれた。
「熱いお風呂は気持ちいいけど、すぐにのぼせちゃうからなぁ…」
「弱いなぁ~、リカは。私と小春は全然余裕だよ?」
「その喧嘩、買うよ。先輩に対する態度がなってないクソガキを教育してやる」
先輩に対する態度がなってない莉音と、その挑発に乗るリカさん。
あの泥遊びで私達の仲は一気に良くなった。
先週とは比べ物にならないくらい距離が縮まって、下の名前で呼び合うように。
莉音のこの態度も距離が縮まった事が理由。
「ちょっと警戒し過ぎだよ。別にリカさんがそうと決まった訳じゃないんだから」
「でも何処で落ちるか分かんないじゃん!」
「親しき仲にも礼儀あり、だよ。せめて喧嘩を売るのだけはやめなよ」
「……じゃあ今日だけ。この勝負が終わったらもうしない」
そう言って、リカさんと睨み合う莉音。
う〜ん…絶対無理だね。
莉音はリカさんに私を取られる事を警戒してる。
距離が縮まった事は良いことだけど、あんまり縮まり過ぎる莉音からすればと困った事になる。
それこそ、私と莉音が想い合うようになった時のように…
「あらあら、もう顔が赤くなってるよ。莉音ちゃん?」
「私よりもリカの方が絶対赤い。ね?小春」
「どっちも似たようなものだよ…」
くだらない張り合いをする2人。
そのうち仲直りするだろうし、放っておこう。
「…小春ちゃんは全然赤くならないね」
「放って置いたら何十分でもお湯に浸かってるよ、小春は。お風呂が好きだから」
「莉音ちゃんは?」
「私?あっついお湯とかサウナが好きだけど、長時間は居られないかなぁ。そう言うリカはどうなの?あと、わざわざちゃん付けなくていいよ」
「ありがとう。私は…熱いお湯はあんまりかな?私は姉妹の中でも下の方だから」
姉妹が多いと、お風呂が後に回されがち。
よく聞く話だけど…リカさんもその1人なんだね。
私は2人暮らしだから気にしたことないけど。
「姉妹が多いと大変だよね〜」
「ね?小春ちゃんはどう?」
「ちょっ!リカその質問は……」
「え?」
あんまり触れてほしくない話題を振られ、莉音が気を遣ってくれる。
でも、いつかは話さないといかないし、どうせなら早いうちにそういう話はしておきたい。
私は莉音に優しく笑いかけると、リカさんと話す。
「私、両母家庭に生まれたんです。…その上、私が生まれてすぐくらいに両親が離婚してる片親家庭」
「そうなんだ…」
その話をした途端リカさんはすべてを察したのかすごく気まずそうな表情をした。
「だから、姉妹が多い大変さって分からないんだよね。やっぱり妹は冷遇されるものなの?」
「いや、まあ、うん…」
気まずそうになんて返事をしたらいいのか分からない様子。
そこへ、莉音が助け舟を出す。
「やれやれ…その冗談にならない冗談止めようよ。リカが困ってるじゃん」
「事情を知らない人の反応からしか得られない栄養があるんだよ」
「小春も大概性格悪いよね?」
莉音の話を聞いて、私の事を見つめるリカさん。
舌を少しだけ出して、いたずらが成功した子供みたいな顔を見せると、リカさんが俯いて肩を震わせだした。
…ちょっと不味いかも。
「このカップルは……年上の人をからかうようなクソガキ達には…こうだ!!!」
「うわっ――!!」
「なんで私ま――!!」
飛びついてきたリカさんに押し倒される形で湯船の中に沈められた。
リカさんの怒りはそんなものでは収まらず、お風呂上りに売店のコーヒー牛乳をおごることで許してもらえた。
…ダンジョンのフロントって何でもあるねホント。
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