第17話 ぬかるみ
日曜日。
昨日は泥遊びのせいで全く進むことなく帰るはめになったけど、今日は違う。
「長靴よし!」
「よし!」
「よし!」
今日は泥の中を歩けるように長靴を用意した。
動きにくくなるから良くないと莉音に反対されたけど、他に使えそうな靴が無かったので、長靴はオッケーしてもらえた。
「やっぱり動きにくいね、長靴は」
「…じゃあリカさんが新しい靴買ってくださいよ」
「そんなお金ないよ。親や姉に支援してもらおうにも、私って家族と仲悪いから…」
「両親が離婚してる私に比べたらまだ仲良いと思うよ」
「不幸自慢はナシ!小春もリカも仲間なんだから仲良くしてね!」
……莉音がそんな事を言うとは思わなかった。
詩音の時とは全然違うね。
3ヶ月くらい私と仲良くするの許してなかったくせに。
…まあ、私は半年近く詩音の事を拒絶してたけどね?
話を戻して……今は昨日来たあのぬかるみの前にいる。
昨日遊んで帰らなきゃいけなくなったぬかるみの前に。
「さて、じゃあこの昨日進めなかったぬかるみを……あれ?」
「ん?どうしたの?」
「何やってるの小春。早く進んでよ」
長靴があるから大丈夫と息巻いて、自信満々に踏み込んだ私の足は……抜けなくなった。
なんとか戻ろうと足に力を入れると…
「うわっ!!?」
「えっ!?」
「……やっぱりこうなるか」
長靴はぬかるみにハマったまま、足だけが抜けて後ろに倒れて尻もちをついてしまう。
幸い、そこはぬかるみじゃなかったから昨日の二の舞いにはならなかったけどね!
呆れた様子のリカさんが長靴を回収して私に返してくれる。
泥だらけだけど…
「例え靴が長靴に変わってもぬかるみは変わらないからね。そりゃあ、こうなるよ」
「うぅ…今日は大丈夫だと思ったのに…」
「というか、攻略のためにわざわざぬかるみを歩く必要はないよね?莉音」
「まあね?」
「え?じゃあ、何のための長靴?」
「保険」
「まあ、保険だね」
ダンジョンを攻略するだけならぬかるみを歩く必要はない。
そんなド正論を言ってくるリカさん。
……ぬかるみを超えた先に何かあるかもしれないじゃん。
と言うか、莉音もリカさんも知ってたなら早く言って欲しかった。
「さて、ふざけた事してないで真面目に攻略を進めるよ」
「いや、ふざけてるのはそっちだよ。莉音」
「私は至って大真面目だけど?」
「じゃあなんで、わざわざぬかるみを歩かなくていいって教えてくれなかったの?」
「…普通に考えて、わざわざ足場の悪いぬかるみを歩こうとは思わないじゃん?そう言うノリなのかなぁって」
「私もそう思った」
……つまり、私ふざけてるって思われてた?
真面目なのに?
酷い…
「だからとにかく先に進むよ。時間は無いんだから」
「うぅ…私の靴…」
「いや、諦めな?また新しいの一緒に買おうよ」
莉音に励まされながらエリア2を歩く。
出会うモンスターは全部スワンプマウスで、エリア1よりは数が多いくらいの変化。
ここにはネズミしかいないのかなぁ、なんて考えながら歩く。
そして、特に面白いこともなくエリア3へ到達した。
「さて、ここからは気を引き締めないといけないよ?」
「敵が強いの?」
「なかなか厄介なモンスターが出てくるからね。水辺は全部罠だと思ったほうがいい」
「厄介なモンスターと水辺がどう繋がるの…?」
「見たらわかるよ」
段差を超えてエリア3にやって来た私達。
何故か莉音は真剣な顔してるし、リカさんもかなり警戒心が強い。
このエリアのモンスターはそんなに強いのか…
私も気を引き締め、リカさんを先頭にして案内してもらいながら歩いていると……近くの水辺が揺れた気がした。
「ん?何か居た?」
「どこに?」
「あそこ。莉音は見えなかった?」
「水辺か…十中八九アイツだね。リカ」
「分かってる」
莉音はリカさんに何かを指示する。
すると、リカさんはストレージからスワンプマウスの毛皮を取り出す。
そして、その毛皮を水辺に向かって投げた。
すると……
バシャンッ!!と言う水の音と共に大きな水しぶきが上がり、中から何かが現れ、毛皮に食いついた。
そして、びっくりするほど早く水の中へ引っ込んでいく。
「何あれ…ワニ?」
毛皮に食い付いたのは、ワニのようなモンスター。
大きさは大体私達と同じくらい…160センチ以上は確実にありそうだ。
「そう。アイツがエリア3のモンスター。名前は『スモールアリゲーター』だよ」
「スモール…?あのサイズで?」
「ダンジョンのワニはデカいんだよね。だからスモール」
2メートル近い体を持ってるのにスモールと呼ばれる、スモールアリゲーター。
これから先に会うことになるダンジョンのワニはどれだけ多いきいんだろう…
いや、まあでもそれはまだ先の話だし、別にそこまで深く考えなくてもいいか。
それより私が今考えるべきなのは…
「あれ、倒せるの?」
「倒さなくはない。まあ、まずは地上に引きずり出さないといけないけど」
「どうやって?」
「こう…誰かが囮になって?」
囮って…まさかそんな。
さっきはスワンプマウスの毛皮を使ってたし、今回もそれで良いんじゃないの?
毛皮を使う。
そう考えた時、私に天啓が舞い降りた。
「スワンプマウスの毛皮をロープに括り付けて、全員で綱引きすればいいじゃん!」
「あー…確かにあり」
わざわざ誰かが囮になる必要なんてない。
全員が安全な方法でやれば良いんだから。
そんな方法を提案すると、莉音とリカさんがチラチラと視線を送り合ってる事に気が付いた。
「……なに?」
私の知らない何を話している2人。
その事に対する怒りと、出会ってまだそんなに時間が経ったわけじゃないのにそこまで仲良くなってる2人に、嫉妬も込めて不機嫌そうな声で視線のことを指摘する。
「いや…小春がそうしたいなら否定はしないんだけどさ?…戦うの?」
「は?」
「いやだから…スモールアリゲーターってこっちから水辺に近付かないと襲ってこないからさ?別に水辺に近付き過ぎないように気を付けて、先に進めば良いんだけど…」
……確かに。
莉音の言う通りだ。
別に水辺に近付きさえしなければ襲われない。
なら別に害になるモンスターでもないし、わざわざ危険を冒してまで戦う必要はないね。
…でも、レベル上げとかしなくて良いのかな?
「レベル上げは?」
「エリア5で出来るから大丈夫。エリア4はここと一緒だし」
「スワンプマウスが居るくらいの差しか無いエリア4は素通りするよ。ね?莉音」
「そうだねリカ。……でも、あんまり私達が仲良くすると不機嫌になる人が1人」
「…別に2人の恋路を邪魔するつもりは…」
「莉音。こっち来て」
やたらとリカさんと仲の良い莉音を取り返して、リカさんに威嚇をしておく。
リカさんに取られることは無いだろうけど…人の女に手を出さないようにしっかり釘を刺しておかないと。
そして莉音には…
「もうちょっと距離感を考えてくれないと、もうキスしない」
「えぇ…?そんなにイヤ?」
「先週までの莉音ならこの気持ちは分かったはず」
「それは…そうかも」
しっかり距離感を考えるように伝えて、今日のところは一旦許す。
ふぅ…恋人を守るのも大変だね。
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