第18話 レベル2ダンジョンの中ボス
小春とリカの発言の違いが分からなくなる事があるので、リカが発言する時は莉音→リオン、詩音→シオンとします。
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特に用事のないエリア4を抜け、やって来たエリア5。
エリア5はぬかるみと水場がそれまでよりも遥かに多く、足場がかなり悪い。
しかし、水場にスモールアリゲーターが居る様子は無く、なんだったらスワンプマウスも居ない。
新しいモンスターでも出てくるのかな?なんて考えながら歩いていると……
「何アレ…」
ひときわ大きな水場の真ん中に浮かぶ目立つ蛍光色の黄色い物体。
明らかにアレがモンスターだろうと思い、水場に近付くと…それが動物の体の一部である事が分かった。
「ねえ莉音。アレ何?」
「あれはこのエリア5の中ボスだよ。じゃあ、呼んでみようか」
そう言って、水場に毛皮を投げる莉音。
すると、すぐに黄色い物体が反応し、こちらで向かってくる。
その速度はかなり速く、私たちの全力疾走くらい速い。
つまり、追いかけられたら距離を離せないかも知れない。
それに、他にも特筆すべき事がある。
「何あれ…背びれ?」
「そうだね。まるでサメみたい」
まるでサメのような背びれがある。
そして、莉音の言い方も何処か棒読みで、含みがあるように聞こえる。
その違和感を問いただそうとすると、リカさんが先に話しかけた。
「リオン。そろそろ離れたほうが良くない?」
「あの速さ的にそろそろだね。小春、逃げるよ」
あのボスについて知っている2人は、逃げるとか言ってる。
怖いので私もその場を離れて水場から距離を取ると…そのモンスターの正体が明らかなになる。
「…サメ?」
「そう、サメ」
水深が浅くなり、背びれだけでなく体の上半分が見えるようになった。
しかし、スピードはまるで衰えずこちらへ突っ込んで来る。
まさか泥の中も泳げるとか?
なんて考えた私は、なお水深が浅くなってもスピードを落とさないサメの秘密を知り、絶句する。
「う〜ん…知っては居たけど…」
「中々キツイ見た目ね…小春ちゃんが呆気に取られてるけど大丈夫?」
「軽く小突いてあげて」
「分かった。えい!」
「はっ!?」
リカさんに突付かれてハッとする。
正体を現したサメのあんまりな姿に、思考が完全に停止してしまったんだ。
改めてその姿を直視して、感想を述べる。
「何あのキショいモンスター…手足の生えた…サメ?」
「そう。アイツがレベル2ダンジョンの中ボス、『イエロージョージ』だよ」
「…ジョーズじゃなくて?」
「うん。合ってるよ」
人間のような手足が生えた、目に悪い蛍光色の黄色い体を持つ全長3メートル程のサメ。
正直気持ち悪い。
そして名前も気持ち悪い。
『イエロージョージ』
……なんでジョーズじゃないの?
1文字違うこれじゃない感が気持ち悪い。
「見ての通りアイツは手足があるおかげで水陸両用。強さは今の私達でもこの人数なら勝てるくらい。噛みつきが怖いけど…それ以外は特に気にしなくていいから大丈夫」
「勝算はともかく見た目ね…と、とりあえずやろう!」
陸に上がろうとするイエロージョージ。
四足歩行でもするのかと思えば……まさかの二足歩行。
しかし、目の位置は変わってないからめっちゃ前が見辛そう。
…で、でもサメは鼻がいいって言うし?
実は見えなくても強いとかあるんじゃないの?
「さて…じゃあ勝負だ!」
「私について来て!2人とも!!」
「それ私の台詞だから!途中で口を挟んで来るなぁ〜!!」
ノリノリの2人は私を置いて先に走り出す。
私もその後に続くと、イエロージョージも走ってくる。
…なんか、走り方もキショい。
「懐に潜り込めば弱い!私達とは相性のいいモンスターだよ!」
「了解莉音!要はアイツの真下に行って殴れって事だね!!」
莉音から懐が弱いという話を聞いた私は、イエロージョージの懐にもぐり込み、『大蛇』の爪を伸ばして毒たっぷりの攻撃をお見舞いする。
…しかし、イエロージョージの皮は思っている以上に分厚く頑丈だ。
肉を引き裂くまでには至らず、皮を引っ掻いて傷をつけるだけに終わった。
そこにイエロージョージの反撃が来る。
なんの変哲もない体当たりが私を襲い、大したダメージこそ無いけれど、その場に転んでしまう。
「こいつ…動きが意外と速い!」
見た目以上に動きが俊敏で、体当たりの速度も懐で攻撃をしていては避けられない。
かと言ってそれ以外の場所で戦うとなると…
「うぐっ!?」
「リカさん!!」
懐には入らず、正面から対峙していたリカさんがイエロージョージのパンチで殴り飛ばされた。
……サメのパンチで吹き飛ぶって中々変な話だね。
「小春ちゃんはそのままそこで戦った方が良い。うちのメインアタッカーだからね!」
「私は法術で耐えられるから擬似的なタンクをやるよ!よろしくね小春!」
2人は私にアタッカーを任せて、イエロージョージのヘイトを買う役割をしてくれるらしい。
…欲を言えばどっちかはアタッカーをしてほしかったけど…まあ、タンクをしながら攻撃もしてくれる筈だし、私はアタッカーを続けよう。
立ち上がるとまた懐にもぐり込み、今度はさっきよりも力強く腕を振るう。
その一撃は皮を断ち切り、肉を浅く引き裂いた。
イエロージョージはそれにかなり痛がり、体を震わせて突進してこようとする。
それに合わせるように思いっきり殴りかかると、私の腕が折れそうになったけど、確かなダメージを与えられた。
それに、もう一ついいこともあった。
「毒が入った!ナイス小春!!」
「よし!これで継続ダメージが確定。なんとかなりそうだね」
イエロージョージが毒の影響を受け、藻掻き苦しんでいる。
継続的にダメージを与える毒攻撃は、耐性がない相手には最強の戦術だけど…大抵のモンスターは毒が効かないので普通に戦うしかない。
でも、こいつは違うみたい。
毒で苦しむイエロージョージに更に追い打ちをかける。
何発も殴って蹴って打撃ダメージを蓄積させているけれど…流石はモンスター。
中々倒れてくれない。
それどころか……
「がはっ!?」
「リオン!!」
莉音がイエロージョージのパンチをモロに食らい、痛みでしゃがみ込んだ。
そこに追い打ちをかけるようにイエロージョージが動き、強烈な蹴りを莉音の顔にぶつけた。
ゴッ!と言う鈍い音が鳴り、莉音は蹴り飛ばされる形で泥沼の中に落とされた。
私はそれを見て頭が沸騰しそうなほど怒りがわいてきた。
「莉音に何してくれてんだよ魚もどき!!」
大切な莉音をあんな風にされて怒らないはずが無い。
怒りと殺意を剥き出しでぶつけ、毒がたっぷり塗られた爪で何度も引き裂き、全力のパンチで体をボコボコにする。
反撃どころか動くことすら許さず攻撃し続け、ようやくイエロージョージは倒れた。
「莉音!大丈夫なの!?」
「うぇ〜…怪我はなんとてもなるけどここで泥塗れかぁ…」
急いで莉音に駆け寄ると、すでに法術で怪我を治し始めていた。
この様子なら30分程度で怪我は治るだろうね。
でも問題は……
「その様子じゃ今日は撤収かな…」
「2日連続泥で撤収か…これだから湿地系のダンジョンは…」
服が泥塗れになり、もうまともに先に進める状況じゃない。
すぐに撤収してお風呂に入り、コインランドリーで服を洗わなきゃいけない。
……この時のコインランドリーとはフロントにある、何故か日本円が使える洗濯場の事。
しかも、お金を入れて謎の穴に洗いたい物を入れると、1時間後に新品同様の状態で出てくる謎仕様。
私としても早く強くなりたいから、ホントは嫌だけどレベリングをしたかった。
でも、この泥じゃ難しいよね。
「仕方ないよリオン。じゃあもう一つのレベル2ダンジョンに行く?」
「装備がない状態であっちはただの自殺だから…」
「だよね〜…装備だけ抽出して撤退しますか」
有識者二人の会話は聞くだけ無駄なので、私にとって大事な話だけ記憶しておく。
イエロージョージの体に近付くと、いつも通り選択肢が現れた。
迷わず防具を選択すると、私のストレージに防具が追加される。
「防具の抽出が出来たみたいだね。じゃあすぐ帰ろう。早くお風呂に入りたい」
「とは言ってもかなり距離はあるけどね」
「うぅ…これだから湿地は…!」
莉音は帰りもずっと文句を言っていた。
昨日はあんなに楽しそうだったのに、今日は不機嫌そのものだね。
まあ、殴られた挙句泥にダイブって最悪だもん。
莉音の現状を哀れに思いながら来た道を引き返し、服を洗濯してお風呂に入り、今日は諦めて家に帰ることになった。
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