第34話 荒れ果てた大地
五月も終わりじめじめした六月に入った今日この頃。
私達はさらにビッグになるべく次のダンジョンへ足を運んでいた。
やって来たのはレベル2ダンジョン。
と言っても私とリカさんが出会った『開けた湿地帯』じゃない。
もう一つのレベル2ダンジョンである『カラカラ砂漠』とか言うダンジョンに来ている。
「あっつ…」
「どうしよう。もうペットボトルがカラになったよ?」
「砂漠地帯はやばいって聞いてたけど…正直舐めてた…」
『グリーンマウンテン』でのレベリングは常に灰の魔人の脅威が付き纏う。
かと言って別のレベル3ダンジョンは私達じゃまだまだ難易度が高い。
だから必然的にレベル2ダンジョンに来てるんだけど…『開けた湿地帯』には用事がないからもう一つの方に来た。
でもそう甘くはなかった。
「残りの水分がついに半分切っちゃったか…不味いね。まだエリア1すら突破できてないってのに」
「それもこれもこのアルマジロのせいだね。…あ〜!ダメ!!一旦撤退!!」
私たちに襲いかかってくるアルマジロ。
一匹一匹は大した事ないけど、なにせ数が多い。
しかもただでさえクソ熱い砂漠。
…砂漠と言っても砂はほとんど無い岩石砂漠だけどね?
とまあ、そんな環境でずーっと戦い続けたせいで水はなくなるし先に進めないし暑いしで話にならない。
ついに耐えられなくなった私は2人を連れてこのダンジョンから逃げ出した。
そして、汗まみれの体を綺麗にすべくお風呂にやって来た。
「ふぅ〜…さっぱりしたぁ〜…」
「汗でベタベタになって大変だからね…」
「私は小春ちゃんが汗まみれでも嫌じゃないよ?」
「魅力的なお誘いだけど遠慮しとく。今はまだ、開いちゃいけない扉だと思うから」
体を私に寄せてアピールしてくるリカさん。
初心でそこまでの度胸が無いくせに、莉音みたいな事を言ってくるのは、見た目と合わせて背伸びをしているようで可愛い。
抱き寄せてあげると素肌が触れたことに慌てて、分かりやすく挙動不審になってる。
「気持ちは分かるけどあんまりいじめないであげたら?逃げられちゃうよ?」
「大丈夫だって。莉音もしてほしいの?」
「もちろん」
リカさんと同じように体を寄せてきた莉音の背中に手を回すと、自分から私に抱きついてきた。
そして、リカさんの手を掴んで引っ張る莉音。
「小春の裸を見られるのはお風呂だけだよ?あと、素肌に触れるのも。今のうちに堪能しておいたほうがいいよ」
「えっ…いや…えっと…」
私の胸にリカさんの手を持ってくる莉音。
当のリカさんは私の顔をチラチラ見て触って良いのか分からず困ってる。
可愛い。
「今だけだよ」
「……分かった」
私が触ることを許可すると、恐る恐る胸に触れてくるリカさん。
まるで壊れやすい物を持つかのように優しい手つきには、少し前の詩音を思い出す。
あの時の詩音はまだそんなに生意気じゃなくて可愛かった。
今はずっと隣にいてほしいと思えるほど可愛い女の子に成長してる。
「ちゃんと揉んでるかい?先輩がエスコートしてあげよう」
「いや、私のほうが先輩……」
「恋愛に関しては私の方が先輩」
どうしても恐る恐るという触り方が拭えず、見かねた莉音が手を重ねる。
そして、胸の揉み方というものを教えてあげている。
なんというか…絵面がシュール。
「や、やっぱりもういいよ。その、恥ずかしいし…」
「そう?私は何処でも出来るけどね」
「人前では最低限に控えようね。莉音」
羞恥心に耐えかねたリカさんが私の胸から手を離す。
莉音は堂々としてるけど、一応ここは公共の場。
そういう事は控えるべきだ。
言っても聞かないけど…
まあこっちの話を聞かない莉音はさておきあの砂漠をどう攻略するか…
◆ 名前 神宮小春
種族 ヒト
職業 学生・拳闘士
レベル25
スキル《格闘術》
装備 防具『岩と毛玉』
武器『岩と毛玉』
セット効果 筋力強化小
アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』
指輪 『岩と毛玉』
◆ 名前 赤森莉音
種族 ヒト
職業 学生・戦巫女
レベル24
スキル《格闘術》《法術》
装備 防具『岩と毛玉』
武器『岩と毛玉』
セット効果 筋力強化小
アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』
◆ 名前
種族 ヒト
職業 盗賊
レベル27
スキル 《隠密》
装備 防具『岩と毛玉』
武器『輝く鱗』
アクセサリー 指輪『修行僧』
岩窟ウサギのレベリングで手に入れた装備を身に着け、かなり高くなったレベルを見ながら私はこれからを考える。
あのアルマジロは一匹だけなら強くない。
今の私達のレベルならどうってことない強さだ。
…問題は数が多いってこととあまりにも環境が逆風ってことだ。
「真面目な話になるけど、あの暑さをどうにかできないの?」
「暑さ対策のアイテムはあるけど、何分値段がね…消耗品って事を考えるとただのレベリングに使うには割に合わない」
「どんなアイテムなの?」
「『アイスの実ジュース』って飲み物」
「なんかどこかで聞いたことあるような名前だね…」
消耗品とはいえ、暑さ対策になるものはあると…どこで手に入るんだろう?
「それってどこで買えるの?」
「冒険者向けのお店で1本1000円で買える」
「高いね…」
なかなかな値段がするね…まあ、冒険者にしか需要がないし仕方ないか。
だとしても確かに1000円は高い。
「それかダンジョン商店で3000ポイントで買えるね」
「ダンジョン商店か…今ある素材とかドロップアイテムを売れば買える?」
「要らないのを全部売れば10本は買えるかもね」
「じゃあそれで買えばいいじゃん」
「効果時間が1本1時間だから一日でなくなるよ」
…割に合わないね。
これまで一か月近くかけて集めてきたもの全部使って三時間か…というか同じことを冒険者向けのお店でしようと思ったら一万円いるの?
高くない?
「1000円出して1時間は割に合わなくない?」
「ああ。1000円のは効果時間が5時間あるよ。一時間のやつは100円で買える」
「…それ10本買えばよくない?」
「まあ…下痢になってトイレとお友達になっていいならそれでもいいけどさ」
「それは困るかなぁ…」
飲みすぎ注意か…流石に得体のしれない飲み物をそんなに飲んだら下痢になるよね。
となるとやっぱり1000円出さなきゃダメかな?
でも、そうなると絶対収支がマイナスだよね。
「仮に一日行くとして大体いつも7時間は居るでしょ?つまり1000円のが3本と100円が6本。この時点で3600円。んで、いつもの消耗品を合わせると…どんなに安く済ませても5000円はするよね…」
「今の私達がそんなに稼げるわけないからね。運がよくてもギリ赤字かな?」
「やっぱりマイナスか…」
「先行投資だって割り切った方がいいよ。私は半年で諦めた」
「逆に半年粘ったんだね…結果は?」
「…何万マイナスかわかんない。それを理解してから諦めた」
冒険者の先輩として、リカさんが諦めることをアドバイスしてくる。
割り切るか…その方が気が楽でいいかも。
「冒険者に限らずさ?学生のうちに収支で親に頼らずにやりくりするなんて無理だよ。まともな職か、冒険者として成功するまで金銭的な独り立ちなんて無理無理」
「夢を諦められなくて現在進行形で無職のリカが言うと重みが違うね」
「その喧嘩買ってあげるよ。小春ちゃん。後でリオン借りていい?」
「いいよ。そろそろ〆なきゃって思ってたから」
「そ、そんな!?冗談だってばぁ~!」
リカさんの真面目な話にいじりを入れて地雷を踏んだ莉音。
莉音を〆るのをリカさんに任せて鬱憤を晴らしてもらおう。
…さて、おふざけはこのくらいにして、現実的な事を考えましょうか。
親にお金をもらうって言う、現実的な事をね…
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