１８歳になったので冒険者になろうと思います！

第26話 面接

ダンジョンで死を経験した翌日。

小春が詩音のご機嫌取りと状況説明を兼ねてデートに行ったので、私は待機。

とは言っても、せっかくの休日で何もしないのはどうかと思うし、ぐーたらしていても意味がないのである場所へ向かう。

「いらっしゃいませ〜」

喫茶店にやって来た私は、店の中を見渡してリカを見つけると対面の席に腰掛ける。

「さて…圧迫面接を始めるよ」

「圧迫面接なのは確定なんだね…」

「当たり前でしょ？リカが小春のハーレムに入るのに相応しいか見極める」

「………」

リカは十中八九落ちた。

小春の他意のないあの言葉は、好意がある人間ならほぼ間違いなく落ちる代物。

事実、リカは今顔を赤くして露骨に私から視線をそらそうとしている。

「まず、小春のことは好き？」

「……うん」

「ふむふむ…」

腕を組み、ふんぞり返って偉そうに構える。

…でも実際は内心穏やかでは居られない。

リカが私の地位を揺るがす存在かもしれないと考えると、妙に冷たい汗が背を伝う。

緊張しているのは、リカだけじゃない。

私だってそうだ。

「じゃあどんな所が好きになったの？」

「……優しくて、頼り甲斐がある所かな」

「他には？」

「…小春ちゃんってさ、あの時厳しく言ってたのってわざとだよね？」

「…？」

まさかとは思うけど、アレを口説いてるとかと勘違いした訳じゃないよね？

だとしたらリカが可哀想なんだけど…

「小春ちゃんは、自分が嫌われる覚悟で私に接してくれた。そうだよね？」

「そうだよ？どっちつかずなリカの意見をハッキリさせる為に、あえて厳しく言ったって小春から聞いた」

「そっか…小春ちゃんは凄いね。私ならそんな事出来ないや」

進んで嫌われ役になる。

それはとても難しい事で、相当な覚悟と強い意志が必要になる。

それを誰かに頼まれたわけでなく、自分から進んでやった小春はすごいって、リカは褒めてくれてるんだ。

…私もそんな事出来ない。

小春に、嫌われたくないから。

「小春ちゃんは強いよ。私には無い強さがある。そして、私を見捨てない優しさ。これ以上に、理由が必要かな？」

「……いいや。必要ないね」

もう十分。

聞いてると私が話してるみたいで恥ずかしい。

思わず目が泳いでしまい、それに気付いたリカに笑われた。

「その反応、もしかしてリオンも同じ理由で惚れたの？」

「…悪い？」

「全然。ただ、教えてほしいかな？小春ちゃんの事」

もじもじと恥ずかしそうに小春のことを聞いてくるリカ。

小春がどんな人生を歩んできたのか。

小春の居ない場所で話していいものなのか…

…でも、この話をしないと今度は―――

「駄目ならリオンと小春ちゃんの馴れ初めとか、好きになった理由とかでも良いよ。恋のライバルの情報を引き出しておきたいからね」

「まだ小春に恋人として認めてられてないくせに…ふんっ！リカがライバルになれるなら教えてあげるよ。退くなら今のうちだよ？」

「私に本気になってると、シオンちゃんに横から取られちゃうよ？」

もう完全に恋人気分でいるリカ。

…まあ、今はその気分に浸らせてあげよう。

小春はまだリカの事をパーティーメンバーとしか見てないし…これからどうやって距離を縮めるかは見ものだね。

「恋の先輩として、今の今まで恋愛経験のないリカに私と小春の歩んできた恋の道を教えてあげよう」

「なんかムカつく…」

私の地位が脅かされるのは問題だけど、ハーレムが大きくなって小春の周りが賑やかになるのは嬉しい事だ。

自分の欲に忠実なのはもちろんとして、小春には幸せで居てほしいからね。

私はリカのお金で注文したジュースを飲みながら、何処から話すかを考える。

私の中である程度話をまとめると、コーヒーを嗜んでいるリカに昔話を始めた。

「私と小春は幼稚園の頃からの付き合いで、人生の大半を小春と一緒に過ごしたと言っても過言じゃない」

「幼馴染か…でも、それだけに頼ってると私やシオンちゃんに負けるよ？」

「まだまだ2人は勝てないから大丈夫。それに、幼馴染と言っても幼稚園から小学校中学年まではただの友達だったし」

私と小春はその頃まではただの友達だった。

恋仲とか、そんなことは無縁の存在だとその頃は思ってた。

それが変わったのは5年生になった時だったね。

「小春はね…物心つく前に両親が離婚してるから、その事でイジメまがいな事をされたり、本当にイジメられたりする事があったんだよ。でも、それでもずっと前を向いて、周りに誰も居なくても一人で強く生きてた」

「………」

真面目な話にリカは空気を読んで静かに話を聞いてくれる。

まあ、リカは大人だからね。

それくらいの常識は無いとやっていけない。

「小学校5年生の頃にはもう友達が居なくてさ。私が唯一の友達で、それ以外はみんな敵みたいな状況。可哀想になって、聞いてみたんだよ。『寂しくないの？』って」

「…どうだったの？」

「『寂しい』って。やっぱり1人は寂しいんだよ。でも、小春はその時から強かった。『寂しいけど、1人でも生きていける。私なんかに構ってないで、他の友達と遊んできたら？』って言ったんだよ？唯一の、ただ1人の友達にだよ？」

あの時、何か違えば私と小春はその後一切交わることの無い人生を歩んでいたかもしれない。

でも、人の縁なんてそんなものだし、『もしも』なんて考えるだけ無駄だと思ってる。

「その時は私もまだまだガキだったから、すごく嫌な気持ちになってね。私もコイツをいじめてやろうって、ずっと側にいる事にしたんだよ。…バカだったから、『側にいて欲しくないんだ』って勝手に勘違いしてたからね」

「まあ…子供なんてそんなものじゃない？」

「子供だからね。で、小春と一緒に居るようにしたんだけど…一緒に居るうちに他の友達と遊ぶより、小春と遊んでる方が楽しいって思えるようになってきて…その事が気に食わない他の友達が私をいじめるようになった」

その話を聞いて、何処か悲しそうな顔をするリカ。

まあ…いじめの話を聞いて笑う人間が居たら、そいつは相当なクソ野郎だからね。

「その時に、私は小春の強さを知った。こん何苦しい事に耐えて、ずっと1人で生きてきた小春の強さ。そして、そんな中で私を気遣ってくれた優しさにね」

「…私と似てるね」

「そりゃそうでしょ。もしリカが外見で判断してたら一発殴るつもりだったからね」

「怖っ…」

人を外見で判断するなんて、バカのすること。

どんなに見てくれが良かろうと中身がドブ以下の人間もいれば、人から見向きもされないような姿でも誰より温かい心を持つ人間だって居る。

実際に関わって、話してみて、その人の内面を見抜いてからどう付き合うかを決めるのが当然の道理と言うもの。

…まあ、見た目で判断して勢いのまま告白し、私を本気で怒らせたバカも居たけど。

「まあ、話を戻してと…小春の優しさに触れて、私は気付いたんだよ。小春は誰からも、この優しさを貰ってないって。だからせめて、私が優しさをあげようって。それからは、ずっと2人だった」

「そのまま流れで、って感じか…告白はどっちから？」

「話は最後まで聞いてよ。私達はただ流れで愛し合った訳じゃないんだから」

「そうなの？てっきりそのまま行ったのかと…」

そのまま流れで行ってもよかったのかもしれない。

…でも、そうはいかなかったんだよね。

「小春の両親ってさ、離婚の理由が浮気なんだよね」

「浮気…？」

「そうそう。しかも浮気をしたのは、小春を育ててきた方のお母さん」

「えっ！？」

小春を育てた母親、神宮遥さん。

あの人は結婚して、子供まで授かったのに浮気をして離婚することになってしまった。

でも、可哀想だとは思わない。

「小春が孤立した理由は、両母家庭で片親と言う少数派だったから。小春がいじめられた理由は、母親にあるんだよ」

「そう、なんだ…」

「離婚して神宮家を去った母親が小春を出産したんだけど…小春が離乳食を食べるようになった当たりで家を出ていったらしい。その事を知った――理解できるようになったのが、中学1年生の頃」

「もしかして……」

「そのもしかしてだよ。思春期に入ったばかりの小春にとって、その事実は受け入れ難いものだった」

あの時の小春はかなり荒れてた。

元々それほど信じていなかった、頼っていなかったとは言え、たった1人の親に裏切られたんだから。

家を飛び出して私の家に泊まりに来る事も多々あった。

「その時期の小春にとって、私は心の拠り所だった。あっと言う間に私に依存して、私以外の人間の言葉なんて全く耳を傾けないほど弱ってた」

「…今の小春ちゃんからはそんな面影は見られないけど」

「なんとか立ち直って、お母さんと向き合ってくれたからね。だから、小春は今も強い」

あの経験があったからこそ、より強くなったとも言える。

挫折から立ち直った人は強いからね。

「そんな弱っていた小春を見て、私は何とかしてあげたいって思ったよ。何とかして小春の支えになりたい。そう思って頑張ってる内に、私は小春が好きになった。そして、告白した。……まあ、リカの言う流れで付き合ったってのは、あながち間違いじゃないのか」

「…良いんじゃない？大切な人が苦しい時に側に居て、本気で励ませるってだけで十分でしょ」

「そうかな…」

苦しい時の不安定な精神状態に付け込んで告白した私。

今でも、それで良かったのかな？って思うことはあるし。

「まあ、過程がどうあれ、小春は私を受け入れて私を本気で頼ってくれるようになった。そこから相思相愛になり、さっきも言った通り時間をかけて立ち直り、お母さんとも和解した。私と小春の歩んできた道はこんな所かな？…って、なんで泣いてるの？」

「いや…泣いてないよ…」

「そんなに感動するような話でも無いと思うけど…」

私と小春の過去を知ったリカはなぜか泣いていた。

軽くしか話してないのにこんなに泣くなんて…涙脆いのか想像力が豊かなのか…

「それで…シオンちゃんとはどんな出会いだったの？」

「そっちも聞く？……まあ、良いけどさ」

詩音との出会い。

それは私とは違ってある意味衝撃的だったね。

「詩音はね…私達が中学3年の時に始めて出会ったね。…そして、出会って早々に小春に告白してきた」

「初対面で？」

「そう。詩音も初対面だったらしいんだけど…一目惚れしたらしい」

帰り道、いきなり呼び止められて告白された小春はめちゃくちゃ動揺してた。

今思い出すとあの時の表情も可愛かったなぁ。

困惑してる小春からしか摂取できない栄養素はあるね。

「私達が付き合ってるって事を説明して諦めさせようとしたけど、食い下がられてついに私が怒鳴っちゃったんだよ。『何も知らないくせに引っ付いてくるな』って」

「リオンが怒鳴ってる姿か…昨日ダンジョンで見たけど、あの時は焦ってたから思い出せない…」

「本気で怒鳴ることは滅多にないからね。姿が思い浮かばないならそのほうがいいよ」

「それもそうか」

本気で怒鳴る姿なんて、喧嘩した時くらいしか見せない。

それから、昨日みたいに本当に危険な時か。

そんな事が起こらないように過ごしたいものだね。

「詩音は私に怒鳴られて流石にその場では引いたよ。でも、次の日昇降口で出待ちされててね。それから詩音が待ち構えて私が追い払うって事が2週間くらい続いた」

「結構長いね…」

「まあね。その2週間で私達がどうして付き合ってるのかを調べた詩音は、何とかして小春と付き合おうと外堀を埋めようと動いた」

「外堀…って言ってもリオンくらいじゃないの？」

「そうだね。私と小春のお母さんだけだよ。1ヶ月近く掛けて粘り強く説得されて、私も小春のお母さんも折れた。でも、小春だけは中々折れなかったね」

私達の説得でさえ1ヶ月掛けたのに、小春はもっと長かった。

今思うとよく詩音は諦めなかったなぁって思ってしまう。

たかが一目惚れからそこまでするなんて…大した執念だと思う。

「小春は自分を育ててきた母親が妻とは別の女性と浮気して離婚された事に、相当ショックを受けてたからね。それと似たような状態になる事を嫌がって、ずっと詩音を拒絶してた」

「まあ…トラウマを掘り返されてるようなものだからね」

「私が本気で怒った理由もそれだからね。でも、詩音は諦めずにずっと説得を続けて―――ん？」

詩音の話をして居ると、スマホが震えた。

見てみると小春から電話が掛かってきてる。

「ごめん、ちょっと電話に出るね」

周りの迷惑にならないように店を出ると、そこで電話に出る。

「もしもし？どうしたの？」

『これからそっちに行こうと思うんだけど、場所を教えてくれない？』

「いいよ。場所はね―――」

喫茶店の位置を説明すると、意外にも小春は近くに居てすぐに到着した。

…首や腕に沢山のキスマークを付けて。

「…小春。これはどう言う事？」

「いや、詩音が――」

「小春先輩とデートも出来ない莉音先輩は可哀想っすね〜。こ〜んなに先輩にマークを付けたこと無いっすよね〜？」

「なっ！？」

「ちょっ！詩音！！」

わかりやすい挑発だけど、今の私は小春を取られて機嫌が悪い。

この生意気な後輩に上下関係ってのを解らせないと気がすまない！！

その勢いで詩音に飛び掛かった。

「ちょっと！！2人ともやめて！！」

「何やってるの！？」

小春が私と詩音の間に入って止めようとしてくるし、中々戻って来ない事を不審に思ったリカが出て来て私を羽交い締めにする。

全力で暴れたけど、本職の戦士出ない戦巫女の私と同じく戦士出ない盗賊のリカの力は拮抗しているらしく、中々抜け出せなかった。

その間に詩音は小春にこってり絞られ、私も小春に説得されて落ち着いた。

「――とまあ、色々あって今は詩音とは親友兼ライバル関係にあるね」

「私達の馴れ初めの話でもしてたの？」

「そうだよ。私と小春がどうして付き合う事になったのかの話をしてた。さっきは詩音の話をしてたけど…何となく分かるでしょ？」

「まあ分かるよ。にしてもシオンちゃんって強いね…」

「莉音先輩から聞きいたっすよ。私のライバルになれると良いっすね？御堂さん」

「悪いけど、私は2人にはない低身長貧乳って言う属性があるからね。ね？小春ちゃん」

「え？ま、まあそうだね…」

なるほどね…私も詩音も背が高いし、平均よりも胸が大きい。

それに対して、リカは低身長で断崖絶壁のような貧乳。

確かに私達にはない属性だ。

…でも、小春はそんな事を自慢げに言われても困るって感じだね。

まあ、まだ小春から意識はして無いし…

「ふ〜ん…？まあ頑張ってアピールする事っすね」

「こら詩音！リカさんを煽らないで！」

「煽ってないっすよ。恋のキューピッドになろうとしてるだけっす」

…詩音も小春が特別リカを意識してない事は知ってるのか。

でも、なんだかんだ応援はしてるね。

私にはそこまで優しくないくせに、な〜んでリカにはそんな接しかするんだか…

少しモヤモヤしつつも、私は小春に聞かれないようにこっそりリカに話しかける。

「詩音の言う通りアピールを頑張ってね。小春は普段強い理性で抑えてるけど、なんだかんだそういう事好きだから」

「…言い方はアレだけど、血は争えないって？」

「まあ、そんなとこ。だから時間をかけてアピールをしっかりすれば落ちるよ」

小春も生き物としての欲には勝てない。

ましてや小春は両母の間に生まれた人間。

統計的に、両母家庭に生まれた人は同性婚しやすいらしいし…女性を性の対象として認識しやすいのかもしれない。

それでも小春は苦しい境遇を耐えてきた過去があるから、意志の強さは私たちの比じゃない。

時間は掛かるだろうけど…私達は応援するよ、リカ。

…それはそうと、正妻の座を狙おうとしたらその時は敵だから容赦しない。

私はこの席を譲るつもりはないからね！