第37話 エピローグ(3)十月 合唱コンクール
長い夏休みが終わって二学期が始まった。二年C組は全員が一丸(いちがん)となって毎日合唱の練習に励んでいた。才一郎君も公平君も、今までとは打って変わって、一生懸命に歌っていた。玲ちゃんも元気で登校し、毎日上手なピアノ伴奏をしてクラスを支えた。
コモセンのクラスでも、進ちゃんが吹奏楽部員としての実力を発揮してみんなを引っ張っていた。もちろん西村君も北岡君も、それぞれのクラスでまじめに取り組んでいた。だれもが皆、生まれ変わったようにはつらつとしていたんだ。
そして本番当日、私たちのクラスは、大ちゃんの大きな動きに合わせて、元気な歌声を披露(ひろう)した。フォルテの部分では、大ちゃんが思い切り背伸びをすると、大きな体が一段と大きくなった。それに合わせて私たちは大きく口を開き、おなかの空気を目いっぱいに吐き出して声を出した。そのとき体育館の窓ガラスはビリビリと震えていたはずだ。
ピアノの部分では、大ちゃんが大きな体をできるだけちぢこまらせ、私たちはささやくように優しい声で歌った。そのユーモアあふれる姿に、なごやかな笑顔が会場に満ちあふれた。
玲ちゃんのピアノ伴奏は、本番では一段と素晴らしかった。
結果発表では、私たちC組は銀賞だった。それでもC組は、だれもが大きな満足感にひたっていた。何しろ、色々あったけれど、結局はクラスの仲間のだれ一人も置いてけぼりにすることなく、全員が心を一つにしてステージで歌いきったんだからね。
そして、表彰式で奇跡が起こったんだ。学校全体の「最優秀指揮者賞」に大ちゃんが選ばれ、同じく「最優秀伴奏者賞」に玲ちゃんが選ばれたんだ。二人の名前が発表されて、会場に大きな歓声と拍手がわき起こったときの感動を、私は一生忘れないだろう。
帰りの学活では、谷やんの音頭(おんど)で、指揮者の大ちゃんと伴奏者の玲ちゃんに、もう一度みんなで大きな拍手を送った。そのときに谷やんがみんなに言った。
「自分も指揮者や伴奏者をやれば良かったと、今ごろになって悔やんでいる人は正直に手を上げよう」
するとほとんど全員が「はあい」と言って手を挙げた。もちろん私もだ。才一郎君も照れくさい顔をしながら手を上げていた。ただ一人、凡ちゃんだけはニコニコしながら手を挙げないでいた。
「こういうのを『後悔(こうかい)先に立たず』というんだよ」
と谷やんが言った。ほめられたのか叱られたのかが分からず、みんなが一瞬ぽかんとした。
そのとき、窓の外の桜の枝に止まっていたグッジョブが一声鳴いた。
「カー!」
「ほら、グッジョブが『気付くのが遅いんだよ。バカー!』って言ってるぞ」
谷やんがそう言うと、はじけるような笑い声が、教室の窓から校庭に広がっていった。
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