第16話 六月 川に流される進也

 何が始まるんだ? おいらは才一郎たちのいる対岸へと一直線に飛んでいったよ。


 川の深みに向かっていたのは進也だけではなかった。五人ともシャツを脱いで裸になり、ズボンはひざの上までまくりあげられている。

 才一郎が、先を歩く進也に言った。

「進也、お前が一番早く泳ぎ渡ったら、お前は俺たちの仲間から抜け出そうとも自由だ」

 そして子分たちを見渡して言った。

「びりになった奴は、今日から進也に代わってパシリになるんだぞ」


 びりだった奴が新しいパシリになると聞いたとたん、進也の目の色が変わったんだ。

 才一郎が合図をすると、進也は全力で川の深みの中に走った。そして飛び込むと、達者な平泳ぎでどんどん進んでいく。

 ところが才一郎たちは二、三メートルほど進んだところで、岸に戻ってしまったんだよ。そして自分たちはさっさとシャツを着てしまうと、泳ぎ続けている進也を一斉にはやし立てたんだ。

 才一郎たちの声に気づいた進也は、途中の足の届くところで立ち上がって振り返った。そして自分がだまされていることを知ると、才一郎たちに向かって

「ふざけんじゃねえよ。バカヤロー」

 とどなった。

 その言葉を聞いたとたん、才一郎は切れてしまったんだよ。

「野郎、調子にのりやがって」

 そう言って足元に丸めてあった進也のシャツを丸めると、固くしばり上げて川の遠くへ放り投げた。しかもこの悪党は、シャツを投げる前に、そのポケットから進也の携帯電話を取り出して川に投げ捨てたんだよ。進也のシャツはゆっくりと川面(かわも)を流れていった。

 進也は何が起こったのかわからなくてポカンとしていた。だが才一郎が

「進也、大変だ。お前の服が流されていくぞ」

 と叫んだのを聞いて、あわててまた水の中に飛び込んだ。そして流れていく自分のシャツを追いかけたんだ。そんな進也を、才一郎たちは笑ったり手をたたいたりしてはやしたてたってわけさ。


 才一郎は近くの小石をひろうと、泳いでいる進也に向かって投げつけた。石は少し離れた場所に落ちてしぶきを上げた。才一郎は「惜しい!」と言いながら二つ目の石を手にした。すると三人の子分たちも同じように進也をねらって石を投げ始めた。

 進也は才一郎たちから少しずつ遠ざかり、ようやく自分のシャツに追いついた。それを見た才一郎は、近くに落ちていた太い枝を拾い上げると、オリンピックのやり投げのような体勢で、進也目がけて思い切り投げつけたんだよ。それが進也の背中に命中した。ぎゃっと声をあげた進也は、泳ぎを中断してしばらく手足をばたばたさせていたが、突然動かなくなった。


 おいらはガハクたちに緊急事態を知らせるために何度も鳴いたんだ。

「カー! カー! カー!」(大変だ! 進也が流されていくよ!)

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