第29話 八月 S中学校野球部の支援(グッジョブが語る)
凡たちが、重いいかだを岸の上に持ち上げようとして、悪戦苦闘している。さあ、おいらの出番だね。
おいらは帆先から飛び立つと、苦難にあっている凡たちをどうやって助けようかと考えた。そこでぐんぐんと高く飛び上がり、大空から周りの情景を見下ろした。
そのとき、河原に設置されたグラウンドで、近くの中学校の生徒たちが野球の練習をしているのが見えたんだよ。そこは、大介がヒーロになったあのグラウンドだったんだ。中学生たちは、元気に掛け声をかけながら、投げ、打ち、走っていた。おいらは、センターを抜けて川岸の方に転がってきた打球に飛びつくと、くちばしでつついたり足でけとばしたりしながら、川岸の方にボールを運んだ。センターを守っていた部員はびっくりして、おいらを追いかけてきた。
その部員が、川がよく見えるところまできたとき、自分と同じくらいの少年少女が、一生懸命に岸の上にいかだを引き上げようとしているのを見たんだよ。そしてその四人の中に、いつぞやの試合で最終回に走者一掃(そうしゃいっそう)の長打を放った大介がいることに気づいてあっと言った。
「君はM市の東中学校の野球部の生徒だろう? こんなところで何をしているんだい?」
その野球部員は、さらに少し離れて浮かんでいるボートの中に、あごひげを垂らした谷やんが乗っているのに気がつくと、あわててグラウンドに戻っていった。おいらも後を追って飛んだよ。部員は顧問(こもん)の教師に報告した。
「川に浮かんでいるボートに、東中学校の谷口先生が乗っています」
「いったいどうしたことだ」
顧問の先生が岸に駆けつけた。後ろから大勢の部員たちが付いてくる。岸辺につくと、監督はボートの谷やんを見つけて大声で呼びかけた。
「谷口先生、S中学校の野球部顧問の佐藤です。ごぶさたしております。春の大会では、大変素晴らしい経験をさせていただき、ありがとうございました。勝利主義ではなく、全員に野球の楽しさを経験させるという先生の考え方に、大変感銘(かんめい)を受けました。ところで今日はどうしたわけですか?」
「なに、川下りだよ。悪いが、あの子たちのいかだを引っ張り上げるのを手伝ってくれないか?」
「分かりました。おまかせ下さい。」
事情を飲み込んだ監督は、すぐに部員たちに、いかだを岸に引き上げるように指示した。選手たちはてきぱきと力を合わせて、いかだを引き上げると、堰の岸辺に積まれたテトラポットを器用に越えながら、五十メートほど下流まで、重いいかだを運んでくれたんだ。
おいらがけとばしたボールを追いかけた部員が、凡たちのいかだを運びながら首をひねりながらつぶやいた。
「五月の大会では、変なカラスのせいでとんでもない目にあったが、今日もカラスが現れて変なことになった。一体どうなっているんだろう」
おいらはその生徒に感謝の気持ちを込めて鳴いたんだよ。
「カー!」(二回も助けてもらったね。ありがとう!)
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