第36話 九月 エピローグ(2)南波才一郎の尊厳
二学期の始業式が終えたあと、おいらは校長室の窓の外の桜の木の枝に止まっていたんだ。
校長室では、オヤカタがオシショウに深刻そうな顔で相談をしていた。
「才一郎には、いかだレースの日の事件について、警察に被害届けを出すよう説得したんだよ。あんなひどいことをした少年たちを、私はどうしても許すわけにはいかないからね。ところが才一郎は、どうしてもうんと言わないんだよ。
『悪いのは自分だ』
『けがは、ヘルメットやライフジャケットを身につけていない自分が、岩にぶつかってできたものだ』
と言い張ってね。
あげくの果てに
『頼(たの)むからこの件についてはもう何も言わないでほしい。何もなかったことにしてくれ』
って言うんだよ。いったいどうしたらいいもんかね」
オシショウは、いつもの優しい笑顔で答えた。
「それが才一郎君の尊厳を守るもっとも賢いやり方ですよ。彼の言うとおりにした方がいいですよ」
オシショウの返事を聞いて、おいらもそう思ったよ。
才一郎は、きっと自分の力で立ち直るさ。いや、すでに立ち直っているはずだよ。
おいらは一声
「カー!」(オシショウの言うとおりだよ!)
と鳴いて桜の木から飛び立ったんだ。
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