第20話 魔法
ダークウルフの群を一掃するイリナ。
それを呆然と見届けるハイソケット。
俺はちょこちょこ倒しているが、面攻撃ができるイリナには遠く及ばない。
それでもどんなに厚い毛皮も、どんなに堅い鱗を持っていても貫ける転移魔法はチートではあるのだが……。
「魔法、教えてくれ」
イリナに頭を下げる。
「あら。そう。どうしようかな?」
意地の悪い笑みを浮かべるイリナ。
「教えてください」
再度頼み込む俺。
俺は強くならなくちゃいけなんだ。
少しくらいのプライドなんて捨ててもいい。
深々と頭を下げると、イリナは驚いた声を上げる。
「い、いや! いいけど……。ただ、甘い物が食べたいなーって」
「分かりました。イリナさん、いやお師匠様」
「イリナでいいわよ。たくっ」
困り果てていたイリナをよそに俺は
アイスをおごり、イリナは俺に魔法を教えてくれることになった。
「いい?魔法は想像力よ。自分の身の内から沸き上がる熱を形にしなさい」
イリナの通る声を聞き集中する。
熱。確かに転移魔法を使う時にも感じた。
俺にだってできる。
想像力はゲームで
なにより、ハイソケットやレジュ、イリナの魔法を見てきたのだ。
やれる。
確信めいた思いが熱を呼び覚ます。
頭上に大火球を産み出し力を込める。
「これは……」
イリナはサーっと血の気の引いた顔を見せる。
「総員待避!!」
イリナの声で近くにいた野次馬たちが蜘蛛の子を散らすように離れていく。
「火炎魔法」
俺は息を吸い、吐き出すと同時。
火球を放つ。
「大魔炎弾!」
直径3mはある火球を地上に落とす。
爆発。
あとには立派なクレーターが出来上がっていた。
「ホント規格外ね」
イリナは嘆息混じりに呟く。
「いいわ。イメージ通りなのでしょう?」
「ああ。ちょっと威力が弱いが」
レジュの火球はもっと洗練されていた。
「何言っているの。上出来よ」
イリナは俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
その言葉を聞いて頬が緩むのを感じた。
「すごいです!」
ハイソケットまで俺の腰につかみかかってくる。
「ちょっと!」
二人のスキンシップにバランスを崩し、その場に倒れ込む。
「いててて……」
俺の上にハイソケットとイリナがいる。
思わず吹き出してしまう。
二人も一緒になって笑い合う。
ああ。こんな生活も悪くないな。
ハイソケットについてきて良かった。
目頭が熱くなり、ボロボロと泣き出す。
「時堯さん?」
「どうした? 痛いのか?」
二人ともあたふたしている。
ふるふると首を横にふる。
「いや、嬉しいんだ。俺、友達なんていなかったから」
「キミ……」
「でも、やっと分かった」
俺は二人にもみくちゃにされて分かった。
「友達って最高だな!」
「今さら分かったのね。遅いわよ」
立ち上がり土埃を払うイリナ。
そしてくるっと回り、
手を差し出してくる。
「さ。行こ」
「……」
意表を突かれ反応が遅れる。
そっと手をつなぐ。
「ああ。俺、頑張るよ」
「ちゃんと言えましたね」
ハイソケットも涙ぐむ。
「稽古は厳しいぞ、時堯」
「はい!」
「まずは魔法の発動に時間がかかりすぎる。それから魔力のコントロールができていない」
「待て。メモをとる」
何ヵ所か指摘され、俺はどう対処すればいいのかメモ帳にまとめる。
その後、イリナとの地獄のような練習が始まった。
訓練は、マナが枯渇するまでひたすら練習。
火魔法、水魔法、風魔法、土魔法の四つの系統をまんべんなく使い、それぞれの特徴を掴むところから始まった。
マナを使い果たすと、吐き気やめまいなどの脱水状態が現れたが「我慢しろ」で一蹴された。
宿に帰り、今度は魔法の基礎勉強をする。
午前はギルドのクエストを。
午後は訓練を。
余った時間は全て座学に回した。
そんな生活が始まって二週間。
ハイソケットが持ってきた昼飯を食べながら、イリナの問に答える。
「なぜ魔法に詠唱が必要か、わかるか?」
「魔法は人の無意識領域から物理領域に展開する事で、その際の解除術式の一種である言葉という媒体で人間には知覚できないレイヤーからの高エネルギー体の抽出したものだから」
俺の答えに目を細めるイリナ。
「不正解だ。それはマクウェル説であって、ボルバッド説についても触れるべきだ」
「しかしその説は否定されたのでは?」
チッチっと指をふるイリナ。
「実証不可能実験であって、論説じたいは否定されていない」
「なるほど。じゃあ、ターマー論説も?」
「そうだ。そこで注意するのは、アリ論説だな」
何も理解できていないハイソケットは困ったように子首をかしげるのだった。
午後の訓練も滞りなく行われ、俺たちは銭湯で一日の汗を流していた。
「よお? お前もか」
今一番会いたくない相手だ。
「ジーク……」
「貴様らの話は聞いている。ずいぶんと無茶をしているって?」
「お前には関係ない」
やった!
奴との戦闘フラグがたった。
これでようやく一つクリアだ。
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