フェアリーテレポート ~異世界転移したら転移魔法をゲット! 最弱だけど最強の俺。異世界でもコミュ障を発揮する~

夕日ゆうや

出会い

第1話 異世界転移!

「おい。ひいらぎ。ゲームばっかしていないで、俺様と付き合えよ」

「ひっ。あ、ええと。あの……」

「なんだこいつ。気持ちわりぃ~」

 からかう同級生たち。

 でもこいつらはいつもこんな感じじゃない。

 たまに暇になるとからんでくる。

 いじめ、というほどには激しくなく、かと言ってボッチよりもちょっと強く当たってくる。

 そんな曖昧で不透明な世界を俺は生きてきた。

 帰宅部なので、授業が終わればすぐに帰宅する。

 帰って新作のゲーム《過酸化水素水》をやってみたい。

 ゲームだけが俺を救ってくれる。努力に応えてくれる。


 閑静な住宅街を歩き帰路につく。

 二つ先に建った住宅をなんとなしに観察しながら、俺は自分の家に帰る。

 妹の雪菜ゆきなは部活で忙しい。

 両親共働き。

 こんなんだから、俺くらいしか家事をやらない。

 毎日、掃除洗濯炊事の繰り返し。

 生きるってなんでこんなに辛いのだろう。

 俺は台所に立ち、お肉の解凍を始める。

 雪菜が帰ってくるまでに仕込みを終える。


 と、牛乳をコップに注ぎ自室へと向かう。

 朝仕込んでおいた《過酸化水素水》のダウンドードが終わっているはず。

 正式リリースは今日だけど、βベータ版は以前にプレイしていた。

 俺は自室に入ると、整理整頓してある部屋をなんとなしに眺める。

 視界の端に美少女が映る。

「え!?」

 俺は驚き、そちらに振り返る。

 ベッドのある方向だ。

 そしてその振り向きにより、遠心力を受けた牛乳がその美少女に降り注ぐ。

 彼女はこちらに向き直る。

 顔から白濁とした臭い液体をかぶる美少女。

「きゃっ!」

「え。誰!?」

 コミュ障の俺がこうも簡単に言葉が出てくるとは。

 驚きで、コップを落としたことにすら気がつかない。

「ええと。だいじゅぶ?」

 噛んだけど、そんなことよりも目の前の美少女である。

 俺は前に出る。

 落としたコップを踏んづけ、重心が前に倒れる。

 俺はその美少女の上に馬乗りにする形になる。

「あの……ひいらぎ時尭ときたかさん、ですか?」

 美少女は白銀のロングヘアーを揺らし、サファイヤのような蒼い瞳がしっかりとこちらを捉えている。

 見た目はどこかのゲームに出てきそうな衣装で、コスプレをしているのだと思った。

 それにしても、なんで俺の名前を知っているのだろう。

 両親の知り合いだろうか?

「時尭さん。お願いがあるのです。一緒に異世界を救ってください!」

「え。異世界?」

 ポロン。

 《過酸化水素水》のダウンロードが終了した音が流れる。

「私と一緒に異世界に来てください!!」

 ゲームをとるか、異世界をとるか。

 俺には今、その選択肢を与えられた。

 だが、俺の選択肢は決まっている。

「俺はゲームがしたい」

「分かってます」

 ファンタジーゲームでよく見るような五芒星の魔法陣が起動する。

 くるくると紫色の魔法陣が俺と彼女を包み込む――。


 気がつけば、俺は芝生しばふの上にいた。

 先ほどの美少女が隣にいる。

 ベッドの上では気がつかなかったが、顔立ちは整っている。

 背中に生える妖精のような薄い羽が一対。

 人じゃない?

 え。誰。何? ここはどこ?

 コミュ障を発揮していると、美少女が声をかけてくる。

「初めまして。ハイソケットと申します」

 スカートの端をつまみご丁寧にペコリと頭を下げる美少女。もといハイソケット。

「あ。う。え?」

「すみません。少々お待ちください。今神からギフトをもらっています」

「ギフト?」

 ゲームとかではスキルとかと同じくらい使われている言葉ワードだ。


『お主が柊時尭か。お主には〝転移〟の魔法をさずける』

「おお」

 感嘆の言葉を漏らす俺。

 ちょっとゲームっぽくて興奮する。

なんじに祝福あれ』

 声が脳内に流れ込むと同時、身体に不思議な力が宿るのが分かる。

「やりましたね! 時尭さん!」

「ん」

「じゃあ、さっそく私の村を救ってください!」

「ん?」

 ハイソケットが指を指した先に村が見える。

「アルデンテ村です」

 なんだかパスタっぽいけど?

 コミュ障の俺はついていくのでやっとだ。

 正直、一人で生きていく自信はない。

 しかし、本当に異世界に転移してしまうとは。

 昨今、そんなアニメやラノベは多いと聞くけど。

 この間はドラマでも似たような背景が多いし……。

「はい。着きました。今日はゆっくりしていってくださいね」

 こくこくと頷く俺。

「ここが時尭さんの宿舎です」

 俺が案内された木造家屋、それもボロボロで今にも崩れそうな建築物である。

 ドアを開けると、そこには燃えるような赤色の髪をした少女がいた。

 瞳の色も赤く、そして美しいボディぃいをしている。

 なんせ、産まれたままの姿だからだ。

「このっ! ヘンタイッ!!」

 少女は俺の頭にガツンと一発食らわせると、ドアを閉めてしまった。

 なんだったんだ?

 俺は周囲を見やる。

「ごめんなさい。私の確認不足でした。彼女はレジェ。傭兵巫女です」

「?」

 ハイソケットの言っていることがイマイチ分からない。

 俺は困惑したまま、ドアを見つめる。

「いいよ。でも、その男はヘンタイだね」

 レジェと呼ばれていた可愛い女の子がドアを開ける。

「あんた。本当に世界を救えるの?」

 ジト目を向けてくるレジェ。

 お説ごもっとも。


 俺に何ができるのだろう?

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