第2話 模擬戦!
レジェと名乗る少女は赤く燃えるような髪と瞳をしている。
今は現代で言う巫女服に近しい赤と白の衣服を纏っている。
「レジェさんは傭兵巫女さんです」
「傭兵、巫女とは?」
ようやく絞り出した声はカスカスであった。
「傭兵をやってくれる巫女のことです」
ハイソケットの要領を得ない言葉に少し疑問を覚える。
まあ、兼業作家で普段は別のことをしている人もいるから、そんな感じかな?
なんとなく自分の中に落とし込めると、改めてレジェを見やる。
「彼女は有名な《
ハイソケットがテンション高く紹介する。
「どうも、レジェよ。ヘンタイさん」
『失礼な。僕は
と言い返せば良かったのに、
「どども」
言いよどんでしまった。
「彼は勇者候補で、ギフトをもらった
「へぇ~。そうは見えないけど?」
「名前は柊時尭さん。立派な人なのです」
どこをどう見て判断したのか分からないけど、俺のことを知っているらしい。
「白昼堂々と覗きをする、どこら辺が立派なの?」
「え、ええっと……」
あたふたし始めるハイソケット。
「あら。あなたもそのヘンタイの毒牙にかかっているのかしら? まさか、脅しているの?」
レジェは俺を胡乱げな眼差しで射貫く。
「ハイソケットのその服にだってなんだか臭い液体かかっているじゃない」
「……」
そうだった。
俺が彼女に牛乳を浴びせたんだ。
「厭らしい」
すごく罵倒する感じで声を上げるレジェ。
「いえ。これはミルクです。驚いてかけてしまったのですよね? 時尭さん」
「う、うん……」
なんとか絞り出すように声を上げる。
「ふーん? ずいぶんとヘンタイの肩を持つじゃないハイソケット」
「だって勇者候補ですよっ!」
「じゃあ、その実力見せてもらおうじゃない」
「つまり?」
「模擬戦よ」
レジェがそう言い、アルデンテ村の端にある広場に村民を含めた俺たちが集まる。
俺とレジェは
「いい? 頭にタッチしたり、降参したら負けよ。大丈夫。命まではとらないわ」
コクコクと頷き返す俺。
懐かしい。
京都に行った帰り以来に触れる木剣だ。
「さ。行くわよ」
カーンと鐘の音が鳴り、俺は走りだす。
木剣を使うのだから接近しないことに意味はない。
遅れをとるものか。
必死で食らいつくようにレジェを追い詰める。
剣を振れば振るほど、汗が飛び散る。
腕の筋力が悲鳴を上げている。
なのに、一発も当たらない。
寸前のところでかわしている。
「このっ! えいっ!」
俺が振るう切っ先はすぐにかわされる。
「この程度か、ヘンタイ」
「むっ」
そう言えば神からもらった力がある。
すーっと精神統一し、腹の底にうねる熱に呼びかける。
「〝転移〟!」
俺は場所をイメージして、すぐにその場に転移する。
初めてだが、うまくいった。
「神の加護……!」
さすがのレジェも目を丸くしている。
そしてすぐに怒りで顔を赤くし、向かってくる。
俺はまた転移を使う。
葉擦れ音が静けさの中に広がっていく。
落ちてきた葉が俺の頭に乗る。
「ふーん。少しはやるじゃない」
レジェはジト目を向けてくる。
「でも――」
接近してくるレジェ。
俺はまた転移する。
「遅い――!」
俺の位置を割り出し、すぐさま木剣を切りつけてくる。
頭の上に乗った葉っぱが真っ二つになる。
「ひっ」
「転移はせいぜい二メートル。それも自分のイメージしたところにしか転移できない。さらに言えば、タイムラグがある。その上、ヘンタイの思考がワンパターン。これじゃ、勇者と呼べないわね」
レジェは
「技あり、レジェの勝ち」
審判がそう告げる。
俺は自分の非力さに情けなくなる。
「大丈夫です。時尭さんはまだこの世界に来たばかり。彼女と手合わせすることじたいに無理があったのです」
俺がいつの間にか怪我をしていた腕に布を巻くハイソケット。
「……めん」
「いいんですよ。もう少し修行をしましょう」
「……」
「大丈夫です。私も一緒に頑張りますから」
ハイソケットはあくまでも俺を受け入れるつもりらしい。
早く家に帰してほしい。
《過酸化水素水》をやりたい。
あのゲームならこんな模擬戦は楽勝でクリアできるのに。
俺はゲームくらいしか、取り柄がないのだから……。
「まずは剣術の指南が必要ですね。レジェさん、教えて頂けませんか?」
「……まあ、雇い主だからね。断れないよ」
「はい。お給金、追加しますね」
「お金は裏切らないからね」
苦笑を浮かべるレジェ。
「今から修行を始めるよ。ついてこいヘンタイ」
こくこくと頷く俺。
それくらいしかできない。
この世界では一人でいると危ない気がする。
問題が起きても解決してくれる大人はいない。
村民のほとんどが若い子が多いのだ。
もしこの村で何か起こればそれは自己責任になりかねない。
ここはもといた地球と違うんだ。
それを実感するまでそう時間はかからなかった。
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