第44話 沈黙の狙撃者

 ホワイトサンダーの城にたどりつき、その城内に入ろうと試みる。

「簡単には入れさせてくれないか……」

「そりゃそうね」

 脱力したイリナ。

「侵入者発見」

 声のする方を向くと、そこには石像があった。

「これは……ガーゴイル!?」

 石像だったものが動き出し、息をする。

 ガーゴイル。

 石像から生み出された番人。

 魔物。

 翼を持ち、醜い人の身体を持つ。

 爪と牙が鋭い。

 つまりは敵だ。

 侵入者を排除するために生まれてきた魔物。

 目からレーザーのようなものを出し攻撃してくる。

「散開!」

 俺たちは四方へとかわし、ガーゴイルを警戒する。

 火球と氷柱がガーゴイルに降り注ぐが、石像だったこともあり耐久力は高い。

 ものともしない。

「どうやって倒す?」

 レジュが冷や汗を掻く。

「俺がやる」

 転移魔法を使い、空中に身を投げる。

 そして、ガーゴイルの翼に捕まり、転移を試みる。

 肉体の一部を破壊することに成功した。

 だが――。

「止まらない!?」

 ガーゴイルは魔術的な動力で動く人形。

 肉体を持つ他の魔物とは違う。

 肉体があれば臓器があり、それを破壊することで身体の機能を止めることができた。

 だが、ガーゴイルは違う。

 ゴーレムと一緒で、肉体的な制約はない。

 あるのは身体を構成する物質と、魔術回廊。

「なら、細切れにするのみ」

 何度も転移魔法を使い、身体を細分化していく。

 魔法陣が壊れればさすがに活動できまい。

 だがが貯まっていく。

 俺の腹の底に貯まっていく熱。

 これはよくない。

 自分自身を焼き尽くす熱。

 危険な熱。

 だから転移魔法は使いたくなかった……。

 でももう終わりにできる。

 終わりにするときがきている。

 あと少しで魔王を倒せるのだ。

 コミュ障だった俺が。

 勇者になる。なれる。

 みんなの力を借りて。

 そして、世界を救うんだ。

 俺が俺でなくなる感覚がある。

 それでもいい。

 俺は過去も、今も生きている。

 それは変わらない。

 でも確実に俺の中で何かが変わってきている。

 誰かの役に立つ。

 それがこんなに嬉しいことだと。

 それがこんなに幸せだと。

 そう気がついたから。

 俺はまだ先へ行ける。

 自分で自分の可能性を閉じ込めるのは良くない。

 人は変われる。

 それは望んだ通りの人間に近づける証拠。

 なら俺は前に進む。


 ガーゴイルをバラバラにし、着地する。

「時尭、あんた……」

 レジュが何か言いたげな顔で駆け寄ってくる。

「一人で無理をしないでよ」

 イリナも不安そうな顔でギュッと抱きついてくる。

「ちょ、ちょっと。何やっているのよ。イリナ」

 レジュは驚き、引き剥がしにかかる。

「いいじゃない。ワタシと時尭の仲なんだから」

 クスクスと笑うイリナ。

「それとも、ワタシと時尭が仲良くするの、不満?」

 意地の悪い笑みを浮かべるイリナ。

 ぐぐぐと歯を食いしばるレジュ。

「もう! 行くわよ!」

 と扉の前で止まる。

「これ、どうやって開けるの?」

 扉は頑丈な鎖で閉ざされている。

「これで切り裂きます」

 ハイソケットが光の剣を振るう。

 キンッと金属音を鳴らし、鎖が切れる。

「やったっ!」

 イリナが喜び、扉を開く。

 ぎぃいと扉が軋み、その豪奢な城の内部に侵入する。

 金の刺繍をあしらった赤いカーペットが広がっている。

 俺たちはそのカーペットを無造作に踏みつける。

 周囲を警戒しながら薄暗い城内を見渡す。

「で。魔王はどこにいるの?」

「俺が知っている限り高い位置にいるはずだ」

「じゃあ、上の階に行く階段ね」

「はい。行きましょう」

 俺たちはひそひそと話すと階段を駆け上がる。

 杖を、剣をかまえ、二階にある扉を開く。


 ちゅん。


 聞いたことのない音が耳をすり抜けていく。

「敵――」

 誰かが叫ぶ。

 俺たちはとっさに左右に分かれる。

「魔王なの?」

「いや、あいつは四天王の一人。ベイオリンク=ライジング。沈黙の狙撃者」

 攻撃方法だけで分かる。

 俺は何度もβ版で戦ってきたのだから。

「ハイソケット!」

 柱の裏に隠れる俺たち。

「なんですか?」

「敵は見えるか?」

「いえ……」

 俺たちが見えないところから狙撃しているらしい。

 ふむとおとがいに手を当てる。

 足音や動作の音が聞こえない。

 この薄暗い城内で何を頼りに狙撃をしているのか。

 それが分からなければ戦えまい。

 ちゅん。

 柱の端に傷がつく。

「狙われているな……」

「ワタシの遠距離攻撃であぶり出すわ」

「いいや、ダメだ。もう少し相手の場所が分かれば効果あるが、かわされたら無駄に終わる」

 ちゅん。

「時尭さん。こちらから仕掛けます」

 ハイソケットが叫ぶと、弾丸がかすめていく。

「やめろ」

 ちゅん。

「……なるほどな。これが足音を消している理由か」

 ちゅん。

「何、何か分かったのか?」

 レジュが声を上げると、そちらに火砲が向く。

「ああ。分かった。俺がなんとかする」

「あんたが言うなら間違いないね。任せるわ」

 レジュがそう言い柱を背に杖を構える。

 あいつがこの暗闇の中でどう狙撃しているのか、それはゲーム脳なら分かることだった。

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