第45話 ギルバートとテセウス
俺は部屋の奥に向けて物を投げる。
「耳を塞げ!」
きーんっとなり響く高音。
耳をつんざく音に頭がおかしくなりそうだ。
でも、音で敵の位置を推測している沈黙の狙撃者にとってはかなりのダメージになるはずだ。
音が止むと同時、声を上げる。
「突撃!!」
こちらも大声を上げる。
「了解」
「はい!」
「うん!」
左右から奥に向かって走り出す。
散らばった俺たちに対して攻撃がこない。
奴は今、混乱状態にある。
でもその妨害時間は約三百秒。
その間に敵を見つけられなければ、俺たちの負けだ。
「索敵! 敵を見つけ次第攻撃を!」
「いたわ。前方二メートル。影に潜んでいるわ」
「さすがレジュ。いくぞ!」
「うん」「はい」
魔法を放つと同時、光の剣が煌めく。
影の中にいる?
火球や氷柱が降り注ぐが、敵の反応は変わらない。
「光だ!」
俺の言葉にハイソケットは光の剣をかざす。
光で浮き彫りになってくる影。
「やぁあ」
ハイソケットがそのまま光の剣をふり下ろす。
ライジングは袈裟切りにされ、言葉を発することもなくその命を散らす。
「なんで」
「どうした? 時尭」
「なんでこんなことになるんだよ」
「時尭さん……」
「なんで死ななきゃいけないんだよ!」
魔族とか人とか、関係ない。
なんで殺し合うんだ。
「終わらせるために戦いましょう」
「イリナ……」
「そうね。わたしたちは終わらせることができる」
「……時尭さんも元の世界に返す時が来たのです。だから、あと少しです」
帰る。
家に帰れる。
青白くなっていた腕に血の気が戻ってくる。
「……分かった。もう少し。あともう少し……」
殺し合いを認めた訳じゃない。
流される血は決して無駄にはしたくない。
これはゲーム。
これはゲーむ。
これはげーむ。
自分に言い聞かせると、前にある扉を開く。
そこには上層への階段が続いていた。
「俺たちは世界を変えるぞ」
「時尭」「行くわよ」「時尭さん」
二階に上がると、そこはドーム状の広い部屋だった。
だがやけに明るい。
炎が揺らめく燭台がいくつもある。
「やっちゃうよー」「おうさ!」
確か。
この階にいる敵は双子の姉弟。
ギルバートとテセウス。
コンビネーションで攻撃してくる厄介な敵だ。
「散開!」
俺が叫ぶと、空中で雷撃が弾け爆発する。
四方に散らばった俺たち。
誰を狙ってくるかも分からない。
だが、一番
だったら、
「ハイソケット! こっちだ!」
俺はハイソケットに向けて足を進める。
「はいはい」「死んでね!」
ギルバートとテセウスはハイソケットの側面に向かう。
雷撃を放ち、挟み撃ちにする双子。
俺は転移魔法でハイソケットごと転移する。
空中で爆ぜる雷撃。
「くっ。やらせない!」
レジュが火球を放つ。
その火球を電撃で弾くギルバート。
「ははは。弱い。弱すぎるよ! 君達」
「僕の番だね」
雷撃を放つテセウス。
その雷撃がハイソケットを襲おう。
俺は前に出て電撃を受け止める。
「――っ!!」
身体中がしびれ、俺は身動きがとれない。
「時尭さんっ!!」
叫び、離れていくハイソケット。
「こいつら、なんでハイソケットちゃんばかり……!」
イリナがうめく。
「一番倒しやすいからだ。だが、ハイソケットがいなければ魔王は倒せない!」
動けない俺は唇を震わせる。
足に力が入らない。
「分かっているって」
レジュがハイソケットの背後をカバーする。
イリナも追い付こうと走り出す。
杖を構え詠唱を始めるイリナ。
発射された
テセウスも電撃を放つ。
氷柱は一瞬にして霧散する。
「ははは。弱い弱い!」
バチバチと爆ぜる紫電。
こいつらの弱点は確か。
「ハイソケット、俺のタイミングでかわせ」
「は、はいっ!」
ギルバートとテセウスがハイソケットの両脇に立つ。
「もらった」「さようなら」
紫電を放つ双子。
「今だ。かわせ!」
ハイソケットはジャンプし、雷撃をかわす。
互いの放つ電撃が互いの身体にまとわりつく。
かわしたことにより、本来当たるはずだった攻撃が仲間に襲いかかったのだ。
コンビネーションがとれているからこその失態だった。
「くっ」「バカな……」
「レジュ、イリナ!」
「赤き火炎よ――」
「射貫き凍土よ――」
レジュとイリナが詠唱を始め――終わる頃には絶望した双子の顔が瞼に焼き付く。
「ブラスト・キャノン!!」
「コールド・ドリル!!」
強大な炎の怨嗟が、
圧縮された氷の残響が、
「「くっそ――――――っ!!」」
ギルバートとテセウスの身体を貫く。
四天王はあと一人。
俺のしびれが治るまでに二十分を有した。
「大丈夫ですか? 時尭さん」
「ああ。もう大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
「いえ。私をかばってのことなので……」
少し頬が赤いハイソケット。
どうしたのだろう。
「さ、次が最後の四天王だ」
「え。さっきので、あっ。二人いたから……」
イリナが天然を発揮する。
「ああ。もう三人の敵を倒したんだ」
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