第46話 魔王への道
階段を駆け上がると、空白の空間が現れる。
ここにはレイジがいたはず。
「さ。行くよ。時尭」
「どうしたの?」
「いや、それがレイジがいたはずなんだよ」
「それはβ版です。本リリースにはいないです」
ハイソケットが初めてこの世界の情報を話した。
「すみません。ただの憶測です。聞かなかったことにしてください」
「そ、そうか……」
「そうね。少し疲れたから、ここで休息をとりましょう」
「十分ね。少し休んだら、すぐ行くわよ」
イリナとレジュが床に腰を落ち着かせる。
とはいえ、壁のある端っこだ。
いつ攻撃されても戦えるように警戒を
「それにしても、ハイソケットもなかなかやるじゃない」
「そうね。ワタシが一番心配していたわ」
「俺は?」
「あんたはなんだかんだいて転移魔法があるじゃない」
「あれはすごいよね。転移魔法って本来、A級冒険者の固有スキルであることが多いって聞くし。それに転移魔法を武器にするなんて聞いたことないよ」
イリナがすごい饒舌に語り出す。
「まあ、あなたなら勇者になれるって信じていたけどね」
「俺、まだ勇者じゃないよ。魔王を倒したもの、それが勇者だ」
ふるふると首を横に振るレジュ。
「違うわよ。勇者は勇気のある者よ。あんた立派に活躍してるって」
「それはワタシも思う。最初はナヨナヨしているところもあったけど、今はそうじゃない」
「痛みも、苦しみも知って変わったのですよね……」
ハイソケットまで。
「そんな変わっていないって。俺は、俺にできることをしたい。そう思っただけ」
コミュ障だった俺は、いろんな人の痛みを見て、このままじゃ何もできない、何も変えられない。
そう思ったから、武器を手にした。
俺はまだ勇者じゃない。
必死に生きてきたとは思う。
でも勇者といわれると、違う気がする。
「少し水でも飲んで落ち着いたら? イリナ」
「ええ。そうね……」
うろうろと落ち着きのなさを見せるイリナ。
レジュの言う通りに水筒を開け飲む。
「ふっー。なんだかそわそわしちゃって……」
「まあ、これから魔王を倒すんだもの。少しくらい落ち着かないのも無理ないわ」
レジュは少しおどけてみせる。
「この旅もそろそろ終わりですね……」
「ハイソケット……」
「スキアを倒して村を救ったり、砂漠の街に行ったり、ジークにレジュが捕らわれたり……」
「そうね。わたしをジークから救ってくれたのはあなたたちよ」
「そのあと、タウリンの街に行った。でフェンリルを倒したこともあったね」
思い出はもうたくさん。
こっちの世界で生きてきたレジュやイリナはこっちで生きているんだ。
それを思い知った。
「そうそう。あのときは怖かったなー」
「ん? そんな様子見せていなかったじゃないか」
「いやだなー。冒険者たるもの、感情を殺して戦うに決まっているじゃない」
「そね。だって市民を守るのが務めだもの」
俺の冒険者のイメージとは少し違うな。
なんだか、荒くれ者たちが集まるのが冒険者ってイメージだ。
それとは違う、別の何かを持っているイリナとレジュは確かに違うのだ。
「そう言えば忍者ともあったね」
その言葉を聞き震える俺。
雪菜。
キミは今、どこでどうしているんだ?
くノ一だったキミは、この世界で何をしようとしているんだ。
彼女もまた勇者因子を持つ――選ばれた人間だとでもいうのだろうか。
プレイヤーの干渉も酷かった。
ジークにエルメル。
そのあともダンジョンではスキアの集団に合ったこともある。
まさか人型のスキアにあい、会話をするとも思わなかった。
彼らはなぜかこちらに便宜を図った。
この戦いが終わったあと、どうなるのかは分からない。
が、彼らにも恩を売ってしまった結果になる。
レジュやイリナがうまく取りなせばいいが。
スキアにも色々いて、全てを管理しきれているわけじゃない。
そんな彼らをどう扱うのか……。
人にも被害が出ている。
ただ魔石という高価なものもある。
魔石は大量の魔力を封じ込めている。
そのせいか、灯りや暖を採るのに使われている。
もっと言えば、家庭での調理、水の確保にも使われている。
この世界の根幹を支えている。
一定数の冒険者がダンジョンで戦うのもそのためだ。
たくさんの魔石がこれからも必要となるだろう。
となれば、スキアの討伐は必至。
「時尭はどう思う?」
「え。ああ……、なんの話だ?」
「帰ったら何を食べるか? だよ」
「わたしは断然、串焼き」
「私はお好み焼きがいいです」
「ワタシはステーキかな」
みんな高カロリーなものを頼むな。
ダイエットとか気にしないのか? しないんだろうな。
「俺は……」
ふと思い出す。
おふくろの顔を。
「みそ、しる……かな?」
おふくろ。オヤジも元気にしているかな?
「どうしたのさ。時尭」
「え。いや、なんでもない」
「でもミソシルなんて、ずいぶんと庶民的なものを言うじゃない」
「そうだな。そうだな。うん」
「……。さ、そろそろ行くわよ」
「ああ」
「これが最後の戦い。魔王との戦い」
腰を上げ、階段を上がる。
その先にあるのは死か、希望か。
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