第24話 帰還

 サイクロプス級が賢者の石を取り込み、スキア5まで成長した。

「くっ。こいつ!」

 イリナが氷塊魔法を放つが、ビクともしない。

「俺がやる!」

 地を蹴り、サイクロプスの足に触れる。

 と、

「ぐぁぁぁぁぁぁあっぁぁ」

 手に激痛が走る。

 これは。

さん? こいつ、全身を酸で覆っているのか!?」

 触れなければ転移魔法で部分転位はできない。

 抗うことはもうできない。

「どうすれば……」

「私が切り伏せます。その傷口にありったけの魔法を注ぎ込んでください」

 ハイソケットが凜とした声音で言い放つ。

「分かった。賭けよう」

「ありがとうございます!」

 前に出るハイソケット。

 光の剣を太く長くして、サイクロプスと対峙する。

「やあぁっぁぁぁぁぁぁあっぁぁ」

 気合いの入ったかけ声とともに斬りかかる。

 光の剣はサイクロプスの身体に深々と突き刺さり――。

「切り落とせない!?」

 横合いから黒い影が一つ。

「くノ一!?」

「きゃっ!」

 足蹴りされるハイソケット。

 酸によるダメージがない。

 足の裏までは酸がないのか。

 くノ一がクナイを持ち直し、サイクロプスの身体を切りつける。

 その痛みで尻餅をつくサイクロプス。

「今よ!」

「お、おう!」

 くノ一の言葉を信じて俺はサクロプスに向けて走り出す。

「はぁ!? 正気!?」

 それを見ていたイリナは驚いたように声音を強める。

「やるぞ!」

「分かったわよ」

 しょうがないと諦めムードなイリナ。

 サクロプスの足裏に触れ、転移魔法を使う。

 臭いが我慢だ。

 一部を切り取ると、サイクロプスは痛みでうめく。

 と、空から大量の氷柱が降り注ぐ。

「死になさい! サイクロプス!」

 降り注ぐ無限の氷柱は足裏を中心に突き刺さっていく。

「丑虎――」

 詠唱を始めるくノ一。

「火遁、大魔球だいまきゅう!」

 放たれた火球は小さく、早い。

 サイクロプスにぶつかると、膨大な熱を解き放ち、周囲にいた別のスキアさえも呑み込んでいく。

 爆発。

 白煙とともに視界を覆う土埃。

 俺は目を庇うので必死だった。

 気がつくとスキアの姿はなく、くノ一の姿もない。

 あとに残ったのは俺とイリナとハイソケット、それに賢者の石だけだった。

「勝った……?」

「勝ったぞ!」

「やりましたね!!」

 俺たちは肩を寄せ合い泣きながら笑い合った。

「でも、彼女は……」

 先ほどまでいたくノ一は誰だったのだろう?

 俺はその姿に見覚えがある気がした。

 でもすぐに思考を止めることとなる。

「これが賢者の石かー」

「そうだな。それをギルドに持っていこう」

「そうですね」

 俺たちは合意すると森の神殿を抜ける。

 本当にあのくノ一は誰だったのだろう。

 声にも聞き覚えがある。

 まさか身内?

「そんなわけないよな」

「どうしたの? 時尭」

「時尭さん。早く文明の光を浴びたいです」

 考えていてもしょうがない。

 俺とくノ一の接点がないのだから。

「分かった。行くよ」

 それにしても不思議な子だった。

 マスクをしていたし、顔も判別できなかったけど。

 でも恩には着ている。

 いつか借りを返す必要があるな。

 それにしても、なんで俺のピンチに駆けつけてくるんだ?

 まるでそういう魔法でもあるかのように。

 探知魔法の一種?

 まさかな。

 そんなはずはないと言い聞かせると俺はまたも森林地帯に足を踏み入れる。

「やっぱり、ここらのモンスターも集まってくるわね」

「もしかして賢者の石を欲しているのは俺たちだけじゃないってこと?」

「そういうこと! 来るよ!」

「はい!」

 ハイソケットは光の剣を、俺も剣を取り出し、構える。

 出てきたのはグリズー。

 クマの敵だ。

 俺が剣を構えると、グリズーも拳を構える。

 やはり地球産のとは違う。

 知性が高いのかもしれない。

 にらみ合っていると、横合いから氷柱が飛んでくる。

 それをかわすことなく、餌食になるグリズー。

「あ。俺の敵」

「今はいいっしょ。さ、行くわよ」

 イリナが手を差し出してくる。

 まったく。

 こっちのプライドというものが分からない奴だ。

 俺の獲物だったのに。

「今夜はクマ肉だな」

 イリナはグリズーの肉を持ち帰る。

 まあ、他の肉よりもうまいけどさー。

 なんだか食べづらいんだよね。

 顔を見たからかな。

 グリズーにも表情とか、あるもんな……。

 親とか、子どもとか、いるんだろうか?

 悪いことをしたような気がしてきた。

 グリズーにも家族いるんだよな。

 感傷にふけっていると、ハイソケットがこちらに笑顔を向ける。

「大丈夫です!」

「な、何が?」

「心配することは何もありません!」

 明るく言うハイソケットに苦笑を漏らす俺。

「その調子です!」

「そうか」

「そうです」

 暗くなっていたのは俺だけだったのだろうか。

 それとも、それも見抜いてハイソケットは声をかけてくれたのだろうか。

 分からないけど、俺一人じゃないんだよな。

 みんなを生かすには四の五の言っている場合じゃないのかもしれない。

「そうだな。俺たちを祝福してくれるよな。ギルドも」

 俺たちは勝ち取ったんだ。

 未来に向けて一歩を踏み出したんだ。

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