第23話 サイクロプス級
森の神殿・アストナーゾに入ると俺は身をかがめながら周囲を警戒する。
イリナの発動した光の
ぴちょんと雫が落ちる。
ビクッとしているとイリナがため息を吐く。
「そんなにびびっていて大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。私がついていますから」
ハイソケットがたおやかな笑みを浮かべて俺の手をとる。
「すまない……」
格好の悪いところを見られてしまった。
女子二人に守られていると思うと気恥ずかしい。
まあ、この世界は男女平等っぽいけど。
石畳がどこまでも続く通路を歩いていると、やけに生臭い臭いが漂ってくる。
ネズミの死骸が腐っているようだ。
俺は狭い通路を進みながら、前にいるイリナを追いかける。
「どう。怖い?」
「いや、まあ……」
「そう。素直な子は嫌いじゃないよ」
なんだろう。この感じは。
「はい。進みましょう」
ハイソケットが背中から押してくる。
ふくれっ面を浮かべている。
「もしかして――」
いやないな。
まさかハイソケットが俺とイリナの関係に嫉妬しているなどありえない。
それにイリナは俺の好みじゃない。
そうだ。そうだよ。
俺はそんな軽い男じゃない。
「さっ。行きますよ」
「ああ。自分一人で歩ける」
「いいんです。私がこうしていたいんですから」
前を歩いていたイリナが盛大なため息を漏らす。
「何やっているのよ。あんたたち……」
光が揺れる。
「ラブコメやっているんじゃないわよ」
「イリナさん! 私、そんなに軽くないです!」
「あら。怒られてしまったわ」
「そうだな。無駄なことを言っていないで前に進もう」
俺はそそくさと前に出る。
イリナの前でハイソケットにうつつを抜かすわけには……、
わけには?
なんで俺はそう思ったんだ?
分からない。
釈然としない思いを抱きながら俺は真っ直ぐに歩き続けた。
しばらくして、大広間に出た。
周囲を光で照らすイリナ。
「この辺りにあるのかしら? 賢者の石」
「俺に聞かれても……」
「でも、時尭さんは女神の加護があるんですよね?」
俺のゲーム知識をそう呼ぶハイソケット。
「あー。まあな」
他のイベントにかかりっきりだったから、こっちのイベントは知らない。
後で軽く触れていた程度だ。
「でも神の加護も万能ではないんだよ」
そう取り繕うと、俺は周囲を警戒する。
「そう、ですか……。すみません」
真面目な彼女はコクコクと頷く。
「いいよ。気にしていない」
「はいっ」
飛びっきりの笑顔を見せてくれるハイソケット。
なんだかまぶしいな。
石畳の大広間。
その中央にある四角い、恐らくはテーブルと思われるものを見つけた。
何かの文字が刻まれており、これがたぶん扉を開くカギなのだけど。
「日本語じゃん……」
「にほんご?」
ハイソケットとイリナは困ったような顔を浮かべている。
「あー。これの答えは《過酸化水素水》だな」
「ふーん。聞いたことないけど?」
「私にも分かりかねます」
俺の言葉に反応したのか、奥にある扉がガラガラと音を立てて開く。
どういう原理だ?
でも魔法があるくらいだ。おかしくは、ないのか……?
まあ、いいや。
仕組みよりも先に、俺はやらなくちゃいけないことがある。
レジュを助けるんだ。
「奥に行ってみる?」
イリナはそう言って先頭に出てくれる。
細い通路。しゃがまなければ通れないほどの小ささだ。
両脇も狭く、両手がつく。
そうして五分ほど歩くと、またも大きな広間に出る。
そしてその奥には赤い宝石が一つ。
「あれは! 〝賢者の石〟!?」
俺が駆け出すと、その手をつかむイリナ。
「ダメ!!」
「? どういう――」
シュッと風切り音が耳を通り過ぎる。
弓矢?
周囲に目をくべらせると、そこには多くのスキアがいた。
ゴブリン級、ガーゴイル級、そしてサイクロプス級。
「そ、そんな……」
「待ち伏せされていたわね」
「行きますよ!」
俺が呆けている間にイリナは氷塊魔法を、ハイソケットは光の剣を携えている。
遅れて俺も臨戦態勢を整える。
手に浮かべた魔法で火球を生み出す。
発射された火球を、氷を、剣をいなすサイクロプス級。
「くそっ! なんだよ。あいつ!」
「分からないですって!」
俺とハイソケットは敵に圧倒されている。
「はぁああぁぁぁぁ!」
イリナが
アイスブルーの氷柱が敵を撃ちぬ――く、はずだった。
サイクロプス級が前に出てその頑丈な体躯で全てを受け止める。
「あいつは俺がやる!」
「時尭!?」「時尭さん!」
俺は転移魔法でサイクロプスの目の前に出る。
その身体に触れて転移する。
肉片ごと転移するとサイクロプスは悲鳴を上げて、その場に倒れ込む。
「やった――っ!」
ホッと安堵し、俺は次の敵を探す。
イリナもハイソケットもこれで戦える。
「え」
「うそ」
「マジか」
サイクロプスは賢者の石を呑み込んだ。
その全身から赤く光だす。
目を血走らせて、周囲を見渡す。
身体が先ほどの二倍近くになり、筋肉が盛り上がっていく。
「こ、これは……」
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