第11話 魔法適正

 町並みが見えてくる。

 ダンジョンの街『アイリッシュ』だ。

 中央にあるダンジョンを管理するために作られた街。

 ダンジョンから生まれるスキアは人類の敵ではあるが、同時に宝石をもたらしてくれる。

 スキアを倒すと、ルビーやサファイヤ、エメラルドなどといった様々な宝石を落とす。

 アルデンテ村を旅経つときもスキアの宝石が資金源になった。

 同じようにこの街も、この宝石が資金源になっている。

 ダンジョンを管理・調査している人々が中心となり、家具店や飲食店、衣類店などが集まってきた。そうしてできた街なのだ。

 赤茶色のレンガ造りの町並み。

 石畳で舗装されており、馬車の往来も激しい。

「すごっ」

「このくらい当たり前よ。行くわよ。変態」

 ん。なんだか発音がいつもと違った。

 気のせいかもしれないけど。

 俺は慌ててレジュの後を追う。

 人に酔ったのか、朦朧もうろうとしているハイソケットの手を引いて歩き出す。

 ハイソケットがそうなっていなかったら、俺がなっていたかもしれない。

 それほどまでに人の往来が激しい。

 手をつないでくれるレジュ。

 俺たちは一つの仲間となって中央通りを歩く。

 両脇には露店が並び、様々なものを売っている。

 宝石に、怪しい魔導書、串焼きまで。

 腹の虫が鳴った俺たちは串焼きを一つ買い、ダンジョンへと向かう。

 その先には何があるのだろう。

 俺はゲームの知識を頼りにダンジョン付近にある冒険者ギルドを訪れる。

 そこに冒険者登録をしないと、ダンジョンには入れない。

 そしてダンジョンに入るにはいくつかの試練を乗り越えなくてはならない。

 今度こそ、俺はレジュとハイソケットに伝える。

 ちなみに今はダンジョン付近にある宿屋を借りた。

「ここがギルド……」

 俺は緊張で手汗が酷いことに気づく。

 ズボンで汗を拭き、ギルドの扉を開く。

 中に入ると活気で溢れていて、怒号が飛び交う。

 受付の横にある飲食スペースでは酒を片手に踊り出す者もいる。

 俺たちはその受付へと歩を進める。

「よっ。あんちゃん、みない顔だね」

 快活な、人の良さそうな優男が話しかけてくる。

「え。ええっと……」

「初心者みたいだね。おれが案内するよ。おれ、ジーク。ジーク=ギャロップ」

「わたしはレジュ」

「私はハイソケットです」


ひいらぎ時尭ときたか

 この男を完全に信用してもいいのだろうか?

「さ、一緒に冒険しよう!」

 ジークはそう言い手を引っ張る。

「いや、まだ冒険者登録が……」

「なんだ。そんなことか。すぐに登録しよう!」

 ニコニコと人なつっこい笑みを浮かべるジーク。

 受付に行くと、俺たちは契約書にサインをする。

 確かこの後は魔法の適正検査があるんだっけ?

 ラノベやアニメならここでとんでもない能力を発揮して、みんなからわーきゃー言われて褒め称えられるんだよね。

 俺だって勇者候補だし、転移魔法もあるし、それにハイソケットから魔王を倒すように言われているし。

 まあ、勝ち確だよね。

 最強の魔法とか使えちゃったりして。


 受付嬢のアンナさんが魔法適正を計れる水晶玉を持ってくる。

 あとはこれに手をかざすだけ。

 俺が手をかざすと、魔法陣が浮かび上がり、淡く光る。

「魔法適正C。なかなかに高いですね~」

「……」

 思っていたのと違う!

 続いてハイソケットが手をかざす。

「魔法適正F。ま、まあ、これから伸びしろがあるってことですよ」

 必死にフォローするアンナさん。

 最後にレジュが手をかざす。

「魔法適正SSSトリプルエス!? こ、これは歴史上、勇者にしか現れない――っ!?」

 それを見ていた他の冒険者も驚きの顔をしている。

 三人いる受付嬢全員が同じ顔をしている。

 ウェイターや酒盛りをしていた冒険者、怪しげに佇む吟遊詩人。

 このギルドにいた全ての人が驚嘆の顔で染まる。


 え。なに、この雰囲気。

 俺の時よりもめちゃめちゃ注目を浴びているのだけど?

「すごいじゃないかっ! レジュさん」

 ジークの一声で我に返るみんな。

 一気にお祭り騒ぎになり、レジュの周りには人が集まってくる。

 俺はその波に押されて、外に追い出される。

 ハイソケットと一緒に。

「紅蓮の巫女ですからね……」

 ハイソケットはそんな羨ましそうな声で呟く。

「そういえば、そうだったね」

「……」

 しばらく無言でいると、ギルド内から歓喜の声が沸き立つ。

 中で何が起きているというのだろう。

 ガチャッと扉が開き、レジュが姿を現す。

「……わたし、ジークさんと組むことにしたから」

「え……」

「そんな!! なんで!?」

 俺は声を荒げて詰め寄る。

「な、なによ?」

「さっきまでの態度とは違う。おかしい」

「変態に何が分かるの? あなたが勇者って言うよりも彼の方がよほど……」

 言葉に詰まったのは、彼女の優しさか。それとも別の意味があってなのか。

「レジュさん。一度考え直しませんか? 私たちは時尭さんの力を知っているはずです」

「ダメよっ! それだけはダメなの……!」

 悲鳴に似た声音に怖じ気づく。

「……あのジークって人に嫉妬しているなら、醜いわよ」

「嫉妬……。バカな……」

 確かに彼の方がイケメンだし、会話もうまい。

 やっぱり勇者なんて身分じゃなかったんだ。

 浮かれていたのは俺だけだった。

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