第10話 砂漠に降る雨
裁判が開かれ、俺たちは街の浄化にいそしむ。
H2ポーションを使いオアシスの浄化をする。
そんな仕事だ。
俺とハイソケットは街の中央で、レジュは魔法が使えるのでポーションの作成を手伝っている。
「しかし、嫌なことに巻き込まれましたね……」
「うん」
でも時間はある。
デンデンデールの位置はおおよそ覚えている。
やはりこの世界はゲームの中のようだ。
牢屋に帰ると、レジュはしおらしい顔を見せる。
「そっちはどう?」
「はい。問題ありません。この様子なら完全浄化まで五日です」
「そう」
巫女服を乾かしているので、今は民族衣装に身を包んでいるレジュ。
かびたパンが一斤。
それが一日の食事である。
ゲームではこんなに苦労していなかったのに。
まさか空腹で眠れない日がくるとは。
俺は仕方なくパンを囓り、寝床に収まる。
ベッドと言えるほどではなく、冷たい床の上に一枚の毛布があるだけ。
そんな環境で身体が休まるはずもない。
明日からはもっとデンデンデールを調べる必要があるのに。
翌日になり、俺はひっそりと浄化集団から抜ける。
一人でやるしかない。
俺しか分かっていないのだから。
やれることをやる。
これもゲームのシナリオにあったし。
街の中央広場にいる彼を認識すると、気配を殺し様子をうかがう。
俺だってできるんだ。
やれる。
やってやる。
じゃないと俺たちは勇者になれない。
……勇者?
俺はそんなものを求めていたのだろうか?
でも、今は……。
彼の後をつけて証拠品を漁る。
それだけだ。
イメージトレーニングはすんだ。
やってやる。
このイベント最大の危険なところ。
歌い終えた彼をつける。
尾行を始める。
俺は影に隠れながら近寄る。
とはいえ、俺は彼の宿を知っている。
こんな簡単なクエストも少ないだろう。
楽勝だね。
俺はそう思い、そのあとをつける。
すぐに宿屋に入っていくのを見届けると、俺は店主に言う。
「デンデンデールに財布を奪われた」
もちろん、嘘八百である。
だが嘘も方便と言う。
衛兵が動けば、捜査が入れば解決する。
衛兵がすぐに駆けつけ、デンデンデールの身柄は確保された。
ついでに証拠品も応酬された。
これで全てが解決する。
俺は鼻の高い気分でハイソケットとレジュのもとに向かう。
彼女たちは褒めてくれるだろう。
守ることができた。
これはそれなりに嬉しい。
人の役に立つってやっぱりいいことだと思う。
この街にとどまる理由ももうない。
さっさと水と食糧を買って街を出よう。
そしてダンジョンへと向かうのだ。
ダンジョンに行けば、魔王との接触イベントが始まる。
事は全てゲームの通りに。
β版と製品版では違いがあるものの、おおよそ一緒だ。
これなら行ける。
俺が勇者となり、この世界に蔓延る魔の手から救うことができる。
ぱんっと頬を打ち付ける音が地下牢に鳴り響く。
「あんた! わたしたちがそんなに頼りない!?」
「時尭さん。どうして言ってくれなかったのですか……?」
悲嘆にくれる二人。
どうして。
どうして俺が悪いんだ?
「俺だって、必死で頑張ったんだ。二人のえん罪を晴らすこともできた。何が問題なのさ!!」
久々に声を荒げ、息が上がる。
「あんた、自分のことしか考えていないじゃない!!」
「失礼します」
冷静だったハイソケットが僕の頬を平手打ちする。
「いい加減目を覚ましてください。私たちは仲間です。仲間に頼るのは決して悪いことじゃないんです。むしろ、頼ってくれれば私たちは協力します」
「そうよ。あんた一人でできないからついていくの。一緒に戦うんだよ」
俺は言葉を失った。
今まで誰かを頼ったり、誰かと行動したことがない。
だから、こんなことも分からない。
理解できない。
俺がしたことは間違いだったのか?
でも俺にはそれしかできない。
そうする他なかった。
だから、彼女たちの思いはよく分からない。
ボッチである弊害が、彼女たちとの隔たりになるとも思わずに。
ただ俺はできることをした。
そして彼女たちはそれを望まなかった。
その事実が俺の胸をチクチクと刺すように軋む。
地下牢を出て
その喜びなどつゆ知らず、雨音にかき消される。
砂漠での雨は珍しい。
曇天に隠れた太陽が恋しい。
一気に冷えた体温を誤魔化すように歩き出す。
何も言わずに後をついてくるレジュとハイソケット。
俺は間違えていないはずだ。
はずなのに……。
雨音は強くなる。
灰色に染まった町並み。
静まり返った街を抜けて俺たちはダンジョンをめざす。
砂漠もそろそろ終わる。
曇天の隙間から陽光が差し込み、綺麗な虹を作る。
だが、その美も今の俺には届かない。
こんなに暗い気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。
いや、一度あったか。
あれは俺が小学校の頃。
なんでもできると、俺がヒーローになれると信じていた頃――。
まだ何も知らない無垢な少年であった頃の話。
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