第9話 砂漠の街・テトロドトキシン

 《アジ化ナトリウム》砂漠をめざし俺たちは歩き始める。

「時尭さん。あれはなんですか?」

 ハイソケットの視線の先に木の実がある。

「あれは、レイン。酸っぱい味が特徴の果実、です……」

 少しは饒舌になった俺。

「ヘンタイくんはなんでも知っているわね」

 ジト目を向けてくるレジェ。

 いい加減、その呼び名は止めてほしい。

 確かに俺はレジュの着替えを目撃した。

 でもそれは事故であって、決して故意があったわけじゃない。

 それを分かって欲しいとも思う。

 けど、不機嫌にさせる必要もないよね。

 俺が我慢すればそれでいい話だし。


 三日ほど歩き続けると、ようやく砂漠にたどりついた。

 風が舞うたび砂が舞い上がり、鼻の穴や口元に水分を求めた虫がやってくる。

 嫌な気分になる。

 ゲームじゃこんなことなかったのに。

「暑い……」

「日中は日陰で休んで、夜に歩きませんか?」

「うん」

 ハイソケットの提案にのり、俺たちは日陰で休むことにした。

 レジェは油を熱して、その辺にいたサソリを箸でつまむ。

 沸騰した油で揚げてサソリをバリバリと食べる。

「うん。おいしい」

「ワイルド……」

 俺はそんな真似できない。

 しかし、砂漠越えがこんなに厳しいものとは。

 ゲームではなかったのに。

 水分も残り少ない。

 そろそろオアシスのある《テトロドトキシン》の街につくとは思うけど。

 二日も砂漠を彷徨って、ようやく緑のあるテトロドトキシンについた。

 でもとなるとあのイベントがあるはず。

 旅人である俺たちは宿舎を借りる。

 その宿代はバカ高い。

 日本円にして一日二十万はする。

 でもここで支払わなくちゃ、俺たちは日陰で休むことはできない。衛生管理の問題もある。

 飲み水も高く、旅人から搾り取るシステムになっている。

 宿舎の部屋一つに収まると、椅子に座り鞄を降ろす。

「あついー。レイン食べます」

 しっかりとレインという黄色い果実をとっていたハイソケット。

 そしてレインに齧り付く。

 水分補給としていいかもしれない。

 俺も真似る。

 酸っぱい。

 でもおいしいかも。

 少なくとも喉の渇きはごまかせる。

「まだまだあります!」

 鞄いっぱいにあるレインを取り出すハイソケット。

 これはイベントにはなかったけど。

 それよりも予想が正しければ、そろそろだ。

「暑い。水買ってくる」

 レジュがそういい部屋を出ようとする。

「待って――っ!!」

 俺が大きな声を上げると、レジュはびっくりする。

「なんで? そりゃ高いけどさ……。でも命には変えられないでしょ?」

「いいや。そろそろ街のオアシスに毒が回る頃だから」

「「毒!?」」

 レジュとハイソケットはお互いに顔を見合わせ、驚く。


 外で悲鳴が聞こえてくる。

「始まった」

 毒イベント。

 オアシスに毒が混じるイベント。

 その首謀者はデンデンデール。

 この街に滞在する吟遊詩人ぎんゆうしじんだ。

 そいつが犯人だが、旅人である俺たち主人公が疑われるストーリーだ。

 捕まり、真犯人が見つかるまではこの街から出られず、汚染された水を浄化しなくてはならない。

 つまり――。

 衛兵がドアを蹴破りやってきて、俺たちを確保する。

「お前らを条約規定B項97に違反、同規定I項10に抵触。お前らを拘束する」

 衛兵たちに捕まり、牢にいれられる。

 そして罪人へのくさび魔法を受ける。

「くっ。わたしたちが何をしたって言うのよ!?」

 レジュが叫ぶが聞く耳を持たない衛兵。

「貴様らが怪しいのは調べてある。逃がすわけにはいかん」

「でも、こんなの横暴です。私たちはまだこの街に来たばかりで――」

「ふざけたことを抜かすな! 宿屋の店主が三日前から滞在していると報告している」

「そんな……」

 俺たちに選択肢はないのだ。

 この無駄イベントをクリアする必要がある。

 まあ、真犯人は分かっているから、そんなに時間はかからない。

 余裕だね。

 今すぐ調べてもらおう。

「あっ、の……」

 ん。んんっ……!?

 声が小さくて届いていない!?

 どうしよう。

 コミュ障な俺では役に立たない。

 みんなはどうやって会話しているのさ。

 え。これ詰んだ?

 もしかして俺が話せなくちゃ終わる?

 確かデンデンデールがこの街に滞在するのは三日間。

 それまでに犯人として突き出さなくちゃいけない。

 しかも証拠品込みで。

 証拠品は毒の入れていた瓶から分かるけど。

 俺、どうしたらいいんだ。


 しばらくしてレジュが恥ずかしそうに頬を赤らめ、もじもじし始める。

「ちょっと、気絶してくれない?」

「え?」

 俺を見てそんなことを言い出す。

「どうしたのですか?」

「いいから。気絶して……!!」

 殴りかかってくるレジュ。

 俺は理解ができずに牢獄の中で拳をかわす。

 さすがレジュの修行。その成果が活きている。

「このっ。このっ!」

 必死で、涙目になりながらも殴りかかってくるレジュ。

 どう考えても様子がおかしい。

「あっ。ああ……」

 レジュの股間の辺りに湿り気を感じる。

 もしかして……。

「言うなっ!」

 レジュがお漏らしをした。

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