第8話 森の神殿

 ゴブリンに転移魔法で近づき肉片を部分転移させる。

「やっと片付いた」

「数がいましたからね」

 苦笑を浮かべるハイソケット。

 レジュはなんともないように振る舞う。

「さ。行くわよ」

 神殿内部に向かう。

 少し想定外ではあったものの、おおむねβ版と変わりない造りのようだ。

 これなら安心して攻略ができる。

 俺は迷うことなく、神殿内の進行を行う。

 すると、開けた部屋に出る。

 行き止まりらしい。

「なんで、そんなに道順が分かるのよ、ヘンタイ」

「さすが勇者様です♪」

 ジト目を向けてくるレジュ。

 一方で信頼を寄せてくるハイソケット。

 なんだかどう反応していいのか困るな。

 それに異世界人と知られるのはあまり得策ではない。

 しかも俺はコミュ障だ。以前よりだいぶマシになったけど、未だに言葉を発するのが不安ではある。

 曖昧な笑みを浮かべて部屋の中を探索する。

 もちろんトラップもある。

 俺はトラップに引っかからないよう、注意して歩く。

 確かこのあたりに……。

 俺は小さなくぼみの奥にあるスイッチを押す。

 すると次の部屋への扉が開く。

「この先に何が待っているのかしら……」

 レジェが不安そうに瞳を揺らす。

 不安、か……。

「神殿というのは昔、祈祷きとうや儀式を行うための施設だったと覚えています」

「で、そんな場所に何があるって言うのよ?」

「それは……分かりません」

 ハイソケットの困ったような声音が俺に向けられる。

「あ、ああの……。すて、きな。ものが……」

「だからなんでそれが分かるのよ」

 どう説明したらいいのだろう。

「神の加護がありますからね。さすが勇者様です」

 俺はそのハイソケットの言葉に首肯する。

 実際とは違うけど、このまま便乗しよう。

「神、ね……」

「どうしたのです? レジュ様」

「神って本当にいるのかしら?」

 頭をハンマーで叩かれたかのような衝撃だった。

 神の巫女たる彼女らしくない発現なのだ。

「それはいますよ」

「じゃあ、なんでわたしは、産ま……」

 暗い顔をするレジュ。

「まあ、いいわ……」

 会話をぶった切るようにして次の話題を出すレジュ。

「この神殿はどこまで続くのかしら?」


 ついに最奥部までたどりつく。

 採光用のステンドグラスの陽光を浴びて一振りの聖剣が煌めく。

 床に刺さったそれは、誰かをずっと待っていたかのように傾いている。

 黄金の柄、白銀の刃、ルビーのような宝石。

「せい、けん……?」

 レジュがほわっと息を漏らす。

「すごいです。初めてみました。古書では聖剣と呼ばれていたものの一種だと思います。考古学では勇者の前に現れ、勇者が持つのがふさわしいものとありました」

 やけに詳しいハイソケットをおいて、俺は聖剣の柄を握る。

 勇者にしか、その心を開かない聖剣・エクスカリバー。

 今、俺の希求に応えろ。

 すーっと引き抜くと、手に馴染むように軽くなる。

 すっごい。これが聖剣か……。

「ふーん。本当に勇者なのかな……? ヘンタイくん?」

「勇者様ですよ」

 胸を張って嬉しそうにするハイソケット。

 完璧なまでのどや顔である。

 しかし、鞘はないようだが。

 すると聖剣エクスカリバーの宝石が光り、七色の虹が刃にまとわりつく。

 むき身だった刃に鞘がついたのだ。

 それも虹色の。

「これ、すごい……」

 思わず感嘆の吐息を漏らす。

「へー。奇跡って感じね」

「これが目的だったのですね。時尭さん」

「ああ」

 短く答えると用済みといった様子で俺は神殿の外を目指す。

 二人はそれぞれ怪訝な視線と、嬉々とした視線を向けてくる。

 まあ、俺は満足いく結果だったわけで、気にする必要なんてないのだけど。

 でもレジュからの剣術指南はまだまだ続きそうだな。より強くならなくちゃ、こっちじゃ生きていけない。

 そう結論づけて、俺は神殿の外に出る。

 モンスターはすべてレジェが排除してくれた。

 転移魔法はどんな生物にも対応できるが、殺しきるまでに少し時間がかかる。一匹一匹を倒すせいもあるが。

 魔法で一掃するレジュの方が効率は良い。

 チートとはいえ、範囲魔法なんて使えないからな。

 ゲームでの知識と、実際の知識とではずれがあるかもしれない。

 そういえば、ゲームでは転移魔法なんてなかったな。

 どういうことだ……。

 この世界は本当にあの《過酸化水素水》なのか?

 分からない。

 もう少し情報が欲しい。

 欲しいが、レジュやハイソケットに聞けずにいた。

 恥ずかしいし、失敗しそう。

 変な質問とかしそうで怖い。

 俺はどうしてこんなにも気弱なのか。

 少しはマシになってきたけど、未だに会話は苦手だ。

 こんな俺が勇者か。

 あっちの世界じゃ鼻で笑われそうだけど。

「ふっ」

 というか、こっちの世界でもいたよ。

 レジェよ。おお。レジェよ。

「さて。次はどこに行くのかしら?」

 疑いの混じった視線が向けられる。

「砂漠」

 淡々と告げるとレジュはやれやれといった様子で肩をすくめる。

 俺、伝え方が下手なんだよね。

 過去それで悩まされたといってもいい。

「太陽があっちに沈むので……あっちですね!」

 意気揚々とするハイソケット。

 そんな彼女が先導し、俺たちはまた歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る