第34話 ジャン
「ほれほれ。お姉ちゃんに言ってみ?」
「おばちゃんじゃないか……」
「いいから。どうせ若さだけが取り柄なのでしょう?」
俺とレジュって同い年なのだけど……。
「お前はどういう奴なんだ……」
諦めて俺は隣に座る。
「はっ。やっと言う気になったか」
「俺帰るわ」
「あー。冗談冗談。ごめんってば」
ようやくまともに話せると思ったのだが。
こいつにその気はないのかもしれない。
はーっとため息が漏れる。
「悪かったな。わたしで」
レジュはジト目をこちらに向けてくる。
「……分不相応なんだ。俺は」
「どういう意味?」
「俺は愛される価値なんてない」
青筋を立ててこめかみをピクピクと震わせるレジュ。
「あんた、自分の価値を低く見積もりすぎていない?」
ドンと壁に手をつくレジュ。ベンチからは立ち上がっている。
「自分の価値を理解できていないのね。じゃあ、《変態》って言うのは止めるわ」
「どういう意味だ?」
「自分の価値に気がつきなさい。あんた特別なもの持っているよ?」
「特別……?」
「あー。もう。なんでこんな奴のこと好きになったんだか」
言ってから気がついたのか、レジュは慌てて手を振る。
「いやー。今のなし! やっぱなし!! あり得ないから!!!!」
なんだか微笑ましいな。
この間まで死地にいたとは思えない。
「そっか」
「べ、別にあんたのことなんて好きにならないんだからねっ!」
「うん。ありがとう」
「ど、どういう意味よ……っ!?」
「俺、風呂入る」
「そ、そう? そうしなさい。少し臭いよ」
「……マジで?」
コクコクと頷くレジュ。
「オウマイガー……」
「え。なに?」
「なんでもない」
俺は急いで温泉に向かうのだった。
匂い大丈夫だろうか?
俺は袖に鼻を近づけて嗅いでみる。
温泉の匂いがする。
大丈夫だろう。
そう判断し、自分の部屋に戻ろうと思う。
だが寝付けずにうろうろする。
夜が明ける頃、俺は一人で外のベンチに座っていた。
空が白んできて、世界の始まりを告げているようだ。
この世界に俺は……。
よそう。
ネガティブに考えるのはなしだ。
隣にやってくるハイソケット。
「時尭さん。何を知っているのですか?」
「どうしたんだ? 急に」
ハイソケットがこんな言い方をするのは珍しい。
「この世界のことです。まるで時尭さんはこの世界を自分の手で動かしている気がします」
「……そうか?」
俺は振り返ってみるが、そんな気はしない。
どこで引っかかったのだろう。
「もう。時尭さんはずるいです。ゲームの管理者でもある私を覆すのだから……」
小さな声でブツブツと言うハイソケット。
「え。なんだって?」
「なんでもありません」
ぷいっとそっぽを向くハイソケット。
「しかし、ここにアネットがいるのは確実だ。明日からは本気で探索を行う」
「はい。分かりました」
俺は立ち上がると自分の部屋に向かう。
ベッドにもたれかかると、俺はじーっと木目を見つめる。
なんだろう。眠れない。
日も高くなってきた。
「起きている?」
イリナだ。
「そろそろ出発だよ」
「分かった」
俺は重い瞼をこすり、外に向かう。
「で。どう探す?」
レジュが物言いたげな怪訝な顔をする。
「まずは酒場……と言いたいが……」
ここにいる全員が未成年者だ。
酒場で酒が飲めなきゃ軽く見られるのは道理だ。
ゲーム内年齢は成人だったのだが。
リアルとゲームの
「まあ、まずはジャンを探そう」
「ジャン?」
イリナとレジュが困った顔を浮かべる。
「情報屋だ」
ゲームの知識通りならの話だが。
色々と違っているので、本当にいるのか不安ではある。
「ジャン? ああ。あっちで寝転んでいたぜ」
串焼き屋のおっちゃんがそう言う。
「ほれ、一本で三百シルバーだ」
「……高いな」
串焼き一本で二十シルバーが妥当だろう。
「情報料だ」
「分かった」
渋々お金を出す。
俺たちはおっちゃんの言葉を頼りにジャンの行方を追う。
「二つで五ゴールドだよ」
宝石店のおばちゃんがそう言う。
「……高いな」
指輪一つで六百シルバーが妥当だろう。
「情報料だよ」
「分かった」
渋々お金を出す。
俺たちはおばちゃんの言葉を頼りにジャンの行方を追う。
「三つで六十ゴールドだよ」
魔導具屋の優男がそう言う。
「……高いな」
魔導具一つで一ゴールドが妥当だろう。
「情報料です」
「分かった」
渋々お金を出す。
俺たちは優男の言葉を頼りにジャンの行方を追う。
「四つで百ゴールドだよ」
「いい加減にしろよ!? お前らたらい回しにしているだけじゃないかっ!!」
さっきからぐるぐると同じところを歩かされているだけだ。
これでジャンを探すには無理があるだろう。
お前ら、俺たちをもてあそんで楽しんでいるだけだろ。
「話さないならいい」
「イリナ……」
「殺すから♪」
「イリナッ!?」
氷魔法の詠唱を始めるイリナ。
それ、この中央広場で唱える魔法じゃない。
ここら一体を吹き飛ばすつもりか。
「五つで二百ゴールドだよ!」
「やっておしまい!!!!!!!!」
俺はそう叫んでいた。
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