第31話 スキア奇襲
アネットを探す。
それは生き別れた姉の捜索。
「俺にも妹がいる。あいつは俺と違って優秀だ。どんな困難も乗り越える強さがある」
「どうしたの? 急に」
「うん。だから、大丈夫だよ」
「話がつながらないのだけど?」
「大丈夫。大丈夫だから」
俺はそう言い軽く肩を叩く。
「時尭……」
うんうんと頷く俺。
「セクハラだよ?」
「え。そ、そう?」
俺は慌てて肩から手を引く。
「まあ、今が大事だよ。きっと」
「そう。時尭って下手くそだね」
「笑顔で言うことじゃないでしょ」
イリナの笑顔を見つめながら、俺は呆れたように吐息を漏らす。
「まあ、俺はイリナのことを知った。それは悪いことじゃない。ちゃんと生きているって。そう思えるから」
「なによ、それ」
クスクスと小さく笑うイリナ。
「いいんだよ。いいんだ」
自分らしく。強く生きていいんだって。
俺はよくわからなかった。
けど、俺でも生きていけるんだ。
「さ。そろそろイリナも寝な」
「うん。ありがとう」
最初に出会った頃に比べてだいぶ打ち解けた印象がある。
まあ、俺が好き勝手言っていったのもあるけど。
なにせ、いきなり稽古をつけてもらおうとしていたのだから。
イリナでなくとも警戒するよね。
しかし、彼女はなんで俺を信頼してくれたのだろう。
それさえも分からない。
俺は彼女のことを知っているようで何も知らない。
足を踏み出すとき、右なのか、左なのか。
好きな食べものも、飲み物も知らない。
明日、死ぬかもしれないのに。
それでも誕生日すらも知らない。
でも俺は彼女を知っている。
知っている気がする。
俺の話をちゃんと聞いてくれる。
稽古だって、俺のためになるように予定を組んでくれた。
ここまで成長できたのは間違いなくイリナのお陰だ。
ギルドで困っているとき、俺を助けてくれたのはイリナだった。
こうして俺は少しずつ他人を知っていける。
すぐに知ろう。もっと深く知ろう。
そんなのはあとでいい。
俺は知り合いたい。
知って、自分の感情を知りたい。
どうして俺はこんなにも変わったのだろう。
レジュと出会い、イリナを知って。
ハイソケットの前向きな発言にも救われてきた。
だから、今度はみんなに俺が返す番だ。
そんな気がする。
焚き火が爆ぜる。
「敵――っ!?」
俺はハイソケットと、レジュを起こす。
「起きろ」
そのあとで、イリナも起こす。
「起きろ!」
みんな眠たそうな瞼で立ち上がる。
「さ、スキアの登場だ」
森の中。
その陰りから現れるスキア。
スキアグローファイブと、スキアゴブリンの集団だ。
数にして約二十。
「レジュは真ん中に向けて大火力を」
「え……?」
「右はイリナ、左はハイソケット。両脇から攻める」
「うん」「はい」
「俺は頭上からたたき込む」
「ちょっと! あんたが戦術指南ってどうしたのよ!?」
レジュが驚いた様子でこちらを見る。
「なんだ。できないのか?」
「あー。もう。やってやるわよ! 獅子たる王者の炎よ、吹き荒れろ」
詠唱を始めるレジュ。
放たれた火球がゴブリンを焼き払う。
俺は転移魔法で敵頭上に転移する。
そして、詠唱を終える。
「行け。
「この力……!?」
「今は俺もS級冒険者だっ!」
火球がゴブリンの頭上から襲いかかる。
横から逃げようとするスキア。
「させない。凍てつく大地よ、その無情な力を示したまえ」
左に出て光の剣を顕現させるハイソケット。
「逃がしません。ごめんなさい」
ハイソケットは光の剣を飛ばして、次々とスキアを倒していく。
スキアはすぐに殲滅されていく。
なんの苦もなく。
「やるじゃない。変態。どうしたのよ!?」
興奮冷めやらぬ様子で近寄ってくるレジュ。
「イリナに鍛えられたんだ」
「え」
「そうね。ワタシが育てたわ」
苦笑を浮かべるイリナ。
「そっか……」
レジュは少し哀しげに目を伏せる。
「私も頑張りましたよね?」
ハイソケットが困り眉をして駆け寄ってくる。
ちなみにハイソケットはスキアの落とす魔石を回収していた。
そのアメジストのような宝石は売るとかなりの額になる。
ここで稼げたのは大きい。
「頑張ったね」
俺はそう言い、ハイソケットの頭を撫でる。
妖精族は人類よりも小さめだ。
頭を撫でるにはちょうどいい高さだった。
「むっ。雑念を感じました。でもこれはこれでいいです」
ハイソケットは甘えるようにして顔をすり寄せてくる。
「……」
ジトッと見つめてくるレジュ。
「ワタシも撫でて」
甘えにくるイリナ。
なんだか不穏な空気が流れているけど、これもフラグだったりしないよね?
レジュの奴、本当に脱退するわけじゃないよね?
不安に駆られ撫でるのを止める。
「もうちょっと!」
イリナはまだ甘えているが、俺はレジュに手を差し出す。
「撫でようか?」
「……ふんっ」
珍しく素直に反発してきたな。
俺はなすすべもなく、頭を掻いた。
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