第26話 等級の査定結果
近くの狩り場でいつも通りイノジシを倒している。
お昼頃になり、ハイソケットが持ってきたサンドイッチを食べる。
明日には〝賢者の石〟の通知が来るらしい。
俺とイリナ、ハイソケットは食事をしていると、シュッという音ともにサンドイッチが消えていることに気がつく。
「ん。なんだかサンドイッチの数が少なくないか?」
「本当ですね。トンビでしょうか?」
「どうだろうな」
俺たちは不可解に感じながらも、昼飯を食べ終える。
犯人は見つかっていない。
俺たちはギルドにモンスター討伐依頼の完了報告書と小銭をもらう。
あとはイノジシの肉を売りさばき、残った肉を夜になったら炭火で丹念に焼く。
これがうまいんだ。
午後からはいつも通りイリナの修行が始まる。
修行はかなりの期間を得て続けられているので、だいぶ楽になってきた。
滝行も、魔法も、基礎体力訓練も。
すべてをこなしていけるようになっていた。
今の俺ならやれる。
翌朝、俺たちはギルドに入店する。
そこで待ち構えていたのはタオだった。
「ちょっとお話いいかね?」
「はい」
覚悟を決めた俺にとっては緊張すらしない。
「キミの等級査定結果が届いた」
神妙な面持ちに少し緊張する。しないといったのはまっ赤な嘘だった。
「そこで折り入って相談がある」
「どうしました?」
「今回の件、なかったことにしてくれないか?」
「はぁ!?」
「何を仰いますか!?」
イリナとともに叫んだのは受付嬢をやっていたミーアだ。
「彼らの潜在的ポテンシャルは明々白々。このまま放置しておいたら、何をやらかすか……。それならギルドで管理していた方がいいです」
「違うんだ。その方がギルドのためになるんだ!」
ぎりっと歯ぎしりする音が響く。
ミーアだ。
「本気ですか?」
「ああ。聞いてくれ」
タオは辛そうな顔で語り始める。
☆★☆
「で。どうするの? 時尭」
「ん。ああ……」
タオの言い分も分かる。
分かるのだが、せっかくのチャンスだ。
無駄にはしたくない。
なぜならその申し出を受ければ、俺たちは晴れてS級冒険者になれるのだから。
恐らくこんなチャンスは二度とない。
E級からS級に飛び級するのは奇跡に近い。
今後の歴史においても出てくることはないかもしれない。
それは頭の中で分かっている。
でも、だからこそ――。
俺はどうするべきなのか。
当然S
そのためのフラグも立っている。
だが、その先にあるものは?
俺たちの存在は世界を壊しかねない。
そんな声も上がった。
分かっている。
誰も悪くないのに、世界が変わっていくんだ。
「ハイソケットはどう思う?」
「ええっと。私は……。答えに困りますね……」
苦笑いを浮かべるハイソケット。
俺は彼女を見てふと思う。
彼女もだいぶ力をつけてきた。
もしかしたら、大丈夫なのではないか。
そう思いたくなる時もある。
でも、でもなー。
「俺だけでは決められないな……」
「ふーん。それがあなたの結論なの?」
イリナが少し不快そうに呟く。
「え。いや……。でもあんな言われ方したら……」
「あんたは何を大事にしてきたの? 何を守りたいの?」
「そ、それは……!」
イリナの言葉に返せないでいる自分がいる。
胸が苦しくなる。
分かっている。
分かっているけど。
「でも、この街の人は嫌いじゃない。串焼き屋のハマーも、マッチ売りのハンジーも、古書店のラールーも」
「そんな弱気だといずれ死ぬわ。あなたはそれでいいのかしら?」
「そんな大げさな」
「姉は……」
イリナが何かを言いかけてやめた。
姉がいたのか。
しかし、なぜ話をしない。
俺には理解できずに、イリナは走り出す。
「時尭のアホンダラ!」
そう言って銭湯の方へと向かうのだった。
「どういう意味です?」
「さぁ?」
天然で言っているハイソケット。
まあ、俺でも理解できないが。
バカにされていることはよく伝わってくるな。
「さ。俺たちも風呂に行くぞ」
報奨金はもらっている。
しかし〝賢者の石〟か。
著作物では危険な実験とか、世界のバランスを崩すとか、何かと恐ろしいものだけど。
まさかね。
ゲーム《過酸化水素水》でも〝賢者の石〟はあまり騒がれていなかった。
プレイヤーもその使い道に困っていたと聞く。
風呂を終えると、俺たちは宿屋に戻ろうと歩き出す。
ふと視線を遠くに向けると、そこにはイリナの姿が映る。
「ん。あれ……」
マズい。
これはイリナルートへの分岐だ。
これが失敗するとイリナを、成功するとレジュを諦める選択になる。
俺はどっちを選べばいいんだ。
「あっ。イリナさん!」
ハイソケットが見つけてしまった。
これでは引き返すのも無理か。
となると、俺はゲームの選択肢にない、第三のルートを選ぶぜ。
イリナも、レジュも助ける。
俺は俺の大切な人たちを失いたくないから。
もう二度と失わないために。
今は最善を尽くす。
どこかで凜とした声音が聞こえた。
くノ一?
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