第37話 フェンリルの影
インドメタシンの村につくと、俺は警戒をする。
「ここにフェンリルがくる」
「そうなの? 本当に来るの?」
「どうしますか? 迎え撃ちますか?」
ハイソケットは信じているが、レジュは半信半疑のようだ。
「迎え撃つことになるだろう。西八キロの位置に陣取る」
「了解です!」
「本気でこんな村を襲うの?」
レジュが困ったように眉根を寄せる。
「あいつらはそうプログラムされているからな」
「プログラム……?」
分からないといった様子のレジュ。
「まあ、俺には神の加護があるからな」
「そ、っか……」
理解したのか、レジュはそれ言葉を終える。
俺は西に向かい、竹や植物を利用した罠を用意する。
「時尭さん。これでいいですか?」
「ああ。完璧だ。ハイソケット」
「やった!」
「なんであんたこいつのことが好きなのよ?」
レジュは白い目でハイソケットを見やる。
「好き、ですか?」
困惑した様子のハイソケット。
「そういうな。ハイソケットもそういう意味じゃないだろ?」
「うーん。どうなのでしょう?」
疑問符を浮かべるハイソケット。
「ま、わたしなら惚れるけど」
小さく呟いたレジュの言葉は風にかき消される。
「何か言ったか?」
「別に。あんたを好きになる物好きがいるのか、って話」
「いないな」
苦笑を浮かべて返す。
「……そうね」
同じく苦笑をするレジュ。
「さ。そろそろ来る。本気を見せろよ、レジュ」
「誰に言っているのかな? 時尭」
「来ます!」
カランカランと仕掛けた罠が鳴り響く。
敵は一体。
フェンリル。
銀糸のような柔らかな毛皮と猛獣のような爪牙を持った獣。
伝説上の生き物。
敵。
村を襲う厄介な奴。
イリナがいないが、俺たちだってS級の依頼をこなせる。
フェンリルの鳴き声が聞こえて、俺たちは前に出る。
「やるぞ!」
「はい」「ええ」
ハイソケットとレジュは前に出ると、詠唱を始める。
俺は鞘から剣を引き抜き、走り出す。
フェンリルの姿がハッキリと見えてきた。
そのなめらかな毛皮を傷つけるのは忍びないが、これも運命だ。
俺は剣を突き立てて、フェンリルの喉元を狙う。
だが、それを見越してフェンリルは回避する。
そして尾っぽで俺のことを弾き飛ばす。
「今だ!」
火球を生み出し、業火の炎を生み出すレジュ。
光の剣で応戦するハイソケット。
火球はフェンリルの腹にぶつかり爆発。
うめき声を上げ、隙が生まれた。
そこにハイソケットは剣で切り裂く。
俺が転移魔法を使い、奴の背中にとりつく。
転移。
フェンリルの背骨ごと引き抜く。
が、フェンリルは死ぬことなく、周囲にマナを吐き散らかす。
「なんだ?」
フェンリルが徐々に黒ずんでいき、こちらを睨めつける。
「まだ死なないのか!?」
フェンリルはそのままこちらに向かって突っ込んでくる。
「くっ。やるぞ」
「はい」
「で、でもこいつなんか変」
レジュの言う通りだ。
こいつは何かおかしい。
普通じゃない。
その単語にぞっとするものを覚える。
俺は剣で鋭い爪をいなし、その懐を切り裂く。
ハイソケットも隙を突いて背中から切り伏せる。
どちらも致命傷だろう。
だが、フェンリルは未だに立ち上がってくる。
「こいつ。どうなっている。こいつの耐久力は!」
「泣き言いわないで!」
レジュは火炎魔法を使いフェンリルを焼き尽くす。
黒ずんだフェンリルは立ちあがると、口からブレイズを吐く。
放たれたブレイズは蒼く燃え上がる。
「散開!」
空中にいて回避ができない俺は転移魔法を使い、地面に落着。
すぐに体勢を整え、スキア化していくフェンリルを見つめる。
《ビーストテイマー!?》
プレイヤーか!
くそ。こんなところでもプレイヤーが。
俺は反転し、草木の影に隠れる。
このままじゃ埒があかない。
恐らくフェンリルを操っている奴がいる。
そいつを見つけなくては。
じっと注視していると、フェンリルは右側をかばいながら戦っている。
まるでそっち方向に飛ばされると困る、みたいな。
「そっちだな」
右側から回り込み、敵を探す。
訓練を重ねてきた俺にも、探知魔法は使える。
周囲を探索すると、目の前にプレイヤーを見つける。
緑色のショートヘア、赤と金の瞳をした女性アバター。
「お前かっ!」
「へぇ~。やるじゃないのさ」
プレイヤーはこちらを見てクツクツと笑う。
「あーしは、エルメル。あんたは?」
「時尭……」
「トキタカ、良い名前ね」
俺はひとつきしようと肉迫し、剣を突き刺す。
「はっ。はははははあはは。そんなんでやれんの?」
エルメルはかわし、俺を睥睨する。
「正直、期待外れもいいところだね。あっちはいいのかい?」
フェンリルと戦っていたハイソケットとレジュは苦戦しているらしい。
だが、こいつを倒せばあっちだって楽になる。
「残念だったな。お前が死ねばフェンリルも止まる」
「お前程度でこのあーしに勝てると思っているの? はははははは。冗談きついって」
「こいつ!!」
俺が再び斬りかかると、その切っ先を人差し指と中指でその刃を受け止める。
「そんなっ!?」
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