第19話 胸を揉む。
今回。
胸を揉む。
「させませんよ!」
「なんで!?」
「恥ずかしいじゃないですか!」
「でも胸が大きくなるんだぞ?」
「無理です!!」
断固として拒否するハイソケット。
まあ、ハンマーはさすがに降ろしたか。
ホッと一安心する俺。
「もう、変なこと言わないでくださいよ」
砕けた感じの発音も良かったけど、これはこれでいい。
ハイソケットらしく見える。
「で。朝からなんでそんなにボロボロなの?」
イリナさんがこめかみに指を当てて目を閉じている。
「なんで争っていたのさ」
静かな息づかいで俺を見てくる。
俺はチラリとハイソケットを一瞥し、すぐに顔を背けた。
ハイソケットは赤くなっている。きっと俺も。
「あー。はい。分かりました。お二人でよろしくヤっていればいいんじゃない?」
立ち去ろうとするイリナさん。
「ま、待って……!」
意外にもハイソケットが前に出る。
そりゃ俺も止めようとは思ったけど。
「ふーん。二人のお邪魔をしちゃ悪いと思ったんだけど?」
「邪魔なんて思っていません。バカ騒ぎして少し恥ずかしくなっていただけです」
イリナが俺に答えを求める。
こくこくと力強く頷く俺。
じゃないとハイソケットに視線で殺される。
「分かったよ。さっ。今日はどうする?」
「ランクが高めのクエストをこなしたい」
「ふーん。それでいいんだ?」
「どういう意味だ?」
ついぶっきら棒になる。
それが気に食わなかったのか、答えてはくれないイリナ。
俺とハイソケットはついていくしかできなかった。
ギルドにはいり、クエストボードから
「ダークウルフの討伐、これなら行けるだろ?」
俺はゲームの知識を頼りに今できるクエストを手にする。
「いいよ。それで」
イリナはどこか不満げに言う。
「なんだよ。文句があるのか?」
「いえ。ないわ……でも、」
「ちょっと遅れました。すみません」
ハイソケットが慌てて歩み寄ってくる。
「なんで遅れたんだ?」
純粋に疑問に思っているとイリナがとんでもないことを告げる。
「男どもにナンパされていたんでしょ? 顔がいいから」
「えっ」
小さなうめき声を上げる俺。
「そ、そうですね……」
困ったように眉根を寄せるハイソケット。
事実らしい。
俺はそんなことも分かっていなかった。
隣にいる人を守ることさえもおぼつかないのか。
情けなくて涙がでそうだ。
「悪かった。今度からは俺を頼ってくれよ」
「で、でも……」
「俺のことは信用できないか……」
乾いた笑みが零れる。
「いえ。そういう訳では……」
困り果てているハイソケット。
「そこまで言っているんだ。男にも花を持たせてあげな」
イリナはハイソケットの肩をぽんぽんと軽く叩く。
「……はい。ご迷惑でなければ。お願いします」
「ああ。ありがとう」
「お礼を言うのは私ですよ」
苦笑を浮かべるハイソケット。
「まあ、まだやっていないからね」
イリナも手厳しいことを言う。
「だな。俺、頼りなさすぎるな」
「そうじゃないんです。ただ私なんて……」
「なんて、というな。俺もバカだから分からないけど、ハイソケットは自分で思っている以上に強いよ」
俺はハイソケットの肩に手をのせる。
「セクハラかな?」
「えっ!? イリナ!」
「冗談だよ。はいはい。行くよ」
イリナが先頭に立ち、受け付けにクエスト受注票を提出する。
受付嬢に承認されると、俺たちは街の西側。モンスターの蔓延るアイアイ森林に立ち寄る。
「ここにダークウルフの群がいることは確認済みよ」
「うへ~、今にも出そう」
アイアイ森林は深く、樹木の密度が高い。
そのせいか陽光が地面まで届かずに年中暗い。
「フォース・フィル」
イリナが唱えると、周囲を照らすまばゆい光が杖の先に灯る。
「これで行けるわ」
「そうだね」
「はい。行きましょう」
俺たちは一列になり、森の奥へと足を運ぶ。
何か動物の声や葉擦れの音が耳朶を打つ。
カサカサと茂みが揺れる度に剣を構える俺たち。
剣術はまだまだだが、モンスター相手なら戦える程度には成長した。
これもレジュの教えてくれた訓練によって身についたものだ。
彼女なら、もっと自己研鑽を積むように言う気もするが。
いないのだからレベルアップすることもないのかもしれない。
俺は苛立ち、頭をガシガシと掻く。
くそ。考えていてもしょうがないな。
「来るよ」
イリナの静かな声が響く。
どどどどどと地鳴りのような音が周囲に鳴り響く。
茂みから飛び出してきたのは、体格が普通のオオカミの四倍はあるダークウルフだった。
黒い体毛。額には一つの角。
目は赤く血走り、鋭い爪牙を持つ。
それが群を成して突っ込んできた。
数は三十ほど。
「倒すよ」
「はい」「ああ」
イリナの声で散開する俺たち。
離れたところで、俺とハイソケットは身を翻し、自分の倒しやすい距離を保つ。
俺は転移魔法で意表をつき、転移魔法でその肉を抉る。
ダークウルフは断末魔を上げて、その場で倒れる。
「一匹!」
俺は次のダークウルフに向き直る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます