第17話 くノ一
「くノ一だと!?」
影から現れたくノ一は手裏剣を
ガーナを追い込む。が、かわされた。
クナイを投げつけると、ブーメランのような軌道を見せる手裏剣。
前後からの攻撃を回避できないガーナ。
「ちっ」
ガーナは身体から魔力を放ち、手裏剣とクナイの軌道を逸らす。
「そんなっ!?」
「はっ。この程度、か……?」
くノ一は印を結び、
弓に弾かれた矢のように氷柱は飛翔する。
まっすにガーナの身体を貫いていく。
「ぐぁあああっ!」
ガーナは血を噴き出し、その場に崩れ落ちる。
「きみ、は……?」
俺は思わず、くノ一に
「雫。自分は雫っす。よろしくプレイヤーさん」
「プレイヤー。キミも、か?」
「そうっす。自分もプレイヤーっす。で?」
雫は前屈みになり、上目遣いで訊ねてくる。
「主様の名前は?」
「俺。俺は
「ふふ。また会うっす」
雫はそう言うと
「くノ一の、雫……か」
聞いたこともない。
ただくノ一の衣服や武器はゲームにも存在する。
それもプレイヤーとして。主人公として。
彼女もまた、このゲーム《過酸化水素水》のβテストプレイヤーなのだろう。
俺だけが特別だと思っていたが、それも勘違いだった。
「あらら。ガーナは死んでしまったね」
苦笑を浮かべるイリナさん。
「わたくし。あなたに興味があるわ。
「俺? 雫じゃなくて?」
「それもそうね。でもあなたは何かを知っている。わたくし以上にこの世界の何かを」
ゲームの展開と違ってしまった。
これでは俺の知識が役立たない。
イリナさんとの仲間フラグがポッキリ折れてしまった。
彼女が戦力に加われば、この先のクエストが楽になるというのに。
とりあえず話を合わせておくか。
「なら、今度一緒にクエストをこなしてはくれないか?」
イリナさんはB級だ。
無理のあるクエストに参加できる可能性が広がる。
強い味方になってくれるだろう。
「あー。まあ、いいけど」
渋い顔をするイリナさん。
「いや無理に誘うつもりはないよ」
「ふーん? 優しいんだ?」
「よせよ」
「イリナさん。私も微力ながらお手伝いするので、どうか」
ハイソケットさんがペコペコと頭を下げて頼みこむ。
「……分かったよ。可愛い嬢ちゃんのため。人肌脱ぐよ」
やれやれと言いたげな顔で応じるイリナさん。
「転移、魔法……見せてもらうよ」
「はい」
こっちの情報は調べ尽くしているのかもしれない。
これはゲームではないのかもしれない。
やはり現実なのだ。
セーブもやり直しも。自分のスキル選択すらもできないクソゲー。
現実という名のクソゲー。
俺が一番苦手な分野。
コミュニケーションスキルや運動性能、カリスマ性を求められ、才能に溢れていても、出来損ないでもダメな世界。
誰もが誰かにとって否定され、拒否される世界。
俺の大っ嫌いな
数日後。
俺とハイソケットは、イリナさんと一緒に近くの狩り場に来ていた。
ここではイノジシの群生が確認されていた。
ここで十匹のゴブリンを狩る。
ゴブリンは知能が高く武器を使う。
ゲームでは雑魚キャラとして扱われがちだが、その力は恐ろしい。
中には魔道士と呼ばれる種類の個体もいる。
俺たちにとっては少しハードルが高いが、イリナさんがいる。
それに俺だっていつまでも弱いままじゃない。
等級の恩恵があれば、きっとレジュを取り戻せる。
そのための戦いなのだ。
平和や平等といった言葉はよく聞くが、俺にはそんな気持ちはない。
ただ彼女を――
「そっち行ったわ。柊!」
「任せろ!」
俺は気持ちを切り替えて、すぐにゴブリンの一部を転移させる。
上半身を失った脚がプルプルと震え、前進。すぐに
どしゃっと生々しい音を立てて。
人型のモンスターの討伐は初めてだ。
イノジシのような狩りの感じはない。
手に残る血の臭いがなんだか不快に感じる。
これが本当の意味での現実。
俺にとってはもうそうなっている。
ゲーム感覚でやっていれば負けてしまう。
詠唱を終えて、風魔法を放つイリナさん。
周囲にいるゴブリンたちを巻き込み、倒していく。
ハイソケットも一緒に魔法詠唱をしている。
その力は小さく、ゴブリンを追い詰めている。
早く上に上がりたいが、焦ってハイソケットまでも失うわけにはいかない。
爪を噛み、歯がゆい気持ちでハイソケットの背を見る。
「次!」
「時尭さん。そっちに行きました!」
「おうっ」
俺は風魔法で自分の身体を動かし、ゴブリンの
その皮膚に触れ、俺は転移する。
触れなければ転移魔法は効かない。
最大の弱点だ。
あのジークは皮膚表面に水を帯びていた。
俺の転移魔法ができなかったのもそのせいだと思う。
今度こそ、ジークを倒す。
そしてレジュを取り戻す。
それができなければ、何が勇者だ。
何がオタクだ。
俺はそんなに弱くない。
俺はまだ諦めていない。
必ず、勝ってみせる。
ハイソケットにキモい顔は見せたくない。
だから戦う。
「こいつら――――っ!」
ゴブリンの群に向かっていく。
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