第27話 逆光、邂逅
長い長い階段を、宰吾は下り続けている。
これまでの人生でこんなにも長時間階段を下り続けるのは、きっと初めてだな……なんてぼんやり考えてしまうほど長い。
この階段への入口は、宰吾が入ってすぐに壁が下がってきて閉じてしまった。したがって、ゾンビの追手の心配はなくなった代わりに、後戻りができなくなった。
この選択、鬼が出るか蛇が出るか、とにもかくにも先行き不安しかない。いや、まぁトーキョーを出てからずっと先なんて不透明だったけれど。
いつからか、気づかぬうちに壁に点々と蝋燭の明かりが現れ始めてからは足元をそこまで気を付けなくてもよくなったので、一寸先は闇というわけではなくなったが、それでも宰吾の足取りは軽やかではなかった。
「そろそろ終わってもいいんじゃないか……?」
宰吾は重くなった足をなんとか動かしながら歩む。
そして、そんな宰吾の願いが届いたのか、見下ろす先に何やら大きな灯りが見えた。
「や、やっと、ゴール……」
何がゴールなのだ、と自分の言葉にツッコミながらも、街灯に誘われる羽虫のようにゆらゆらとその灯りに近づく。
そして、やっとその灯りが照らすものを見つけた。
巨大なそれは、見上げるほどで、かなり古そうである。
「扉、か?」
大昔の洋館の門みたいな見た目の扉は、宰吾三人分くらいの高さがあり、明らかに特別な何かの部屋に繋がる雰囲気を醸していた。これは、何か起こるのかもしれないという予感を胸に、宰吾は扉に取り付けられた鉄の輪を掴む。
……これ、人力で開くのか?
と考えながら力いっぱい扉を引いてみたが、ビクともしなかった。押しても同じく動かない。引き戸の可能性も考え横にスライドさせようと力んだが、何も起こらなかった。
「うんまぁ、このデザインで引き戸なわけないよね」
一度取っ手から手を離す。
扉から五歩ほど後ろに下がり、宰吾はもう一度全体を見渡してみた。
「……変わったデザインだな」
扉の外周を取り囲むように、幾何学的な模様がぎっしりと描かれている。それは、少なくとも宰吾の世界では採用されることのない異様なデザインで、正直目が痛い。
だが、何か見覚えのある――あ。
宰吾はこのデザインを……いや、この文字列を見たことがある。つい数時間前だ。死ぬほど長い階段の入口。あそこにも同じ文字列が書かれていた。
「……と、言うことは……?」
あの文字列は、何故か宰吾の再生能力に反応して開いた。ならばこれも同じかもしれない。宰吾は自らの親指を口元に運び、犬歯で勢いよく噛む。
こんな動き、アニメの中の召喚術師か何かしかやらないものだと思っていた。まさか自分がやることになるとは。
なんて考えているうちに、宰吾の親指は再生を始める。
急いで親指を扉の文字列に添わせると、思ったとおり。
扉を囲む文字列と、宰吾の親指が蒼い光を発した。
数秒間、蝋燭の光だけで薄暗かった空間が蒼に染まり、幻想的な雰囲気を作り出す。そして、光が止むと再び蝋燭だけの灯りになり、目が慣れるまでほとんど真っ暗なのではないかと錯覚した。
その真っ暗な空間に、一筋の明かりが差す。
その明かりは徐々に太くなり、宰吾はそれが扉から漏れ出る光であることを、自分の体分くらいの光を浴びてやっと気づいた。
「開いた……」
開いた先はまるで昼間のように明るくて、宰吾は思わず目を細める。
暖色の光は温かく、少しだけ美蕾と過ごしたリビングを思い出させた。
「窶ヲ窶ヲ縺ゅ↑縺溯ェー?」
不意に聞こえた声に、宰吾はドキリとする。
何を言っているか分からないが……女の子――?
「閨槭>縺ヲ繧具シ」
やっと目が慣れてきて、声の方向を見ると、逆光で影になったシルエットが見えた。そして、徐々にその姿は鮮明になっていき、全貌が明らかになる。
小柄で華奢な、女の子。
黒を基調とした服装は、魔法使いを彷彿とさせる。極めつけはとんがり帽子。金髪ショートの髪がキラキラと煌めいている。
「……まじか」
運命なのではないか、と思い込んでしまうほど、その出会いは劇的に思えた。
宰吾にとって、この世界で初めて面と向かって会った人物だったのだから。
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