第5話 神
もう痛みなどとうに慣れた。
むしろ、再生の感覚が心地よい。
宰吾は、宰吾の身体は毒が回って止まった心臓を、再び動かし始めた。
「毒殺は……これで八回目、かな」
ゆらりと立ち上がり、キマイラキングを見据える。宰吾のその姿に、パニックだった観衆たちは目を奪われていた。
「貴様、何故……!?」
「あーあーそういうリアクションはもう飽き飽きなのよ。そうそう、不死身不死身」
手をひらひらと動かし、宰吾は普通に通学路を歩くみたいに、キマイラキングに近づいた。三十センチ近くある図体の差を感じられない威圧感に、キマイラキングは慄く。
「な、ならば復活できないくらいバラバラにしてやる!!」
震えた声だが、キマイラキングはそれでも威勢が良かった。力強く宰吾の身体を掴んだキマイラキングの腕は、まるで合成繊維の布を引き裂くように宰吾の身体を真っ二つにした。上半身と下半身に分かれる。普通に生活していればまず聞くことのないような音。臭い。
真っ赤な血が噴き出る。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
雄叫びと共にキマイラキングは、続いて上半身にくっついた頭部を切り落とす。
「ちょっとちょっと、観衆の中に十八歳未満の人いたら目瞑っててね」
軽口を叩く宰吾の首を掴み、キマイラキングはそれを自身の目線に持ってくる。残った上半身は後ろに放り投げた。フルフェイスヘルメット越しに、二人は睨み合う。
「ハッ、不死身なだけでそれ以外はただの人間と変わらないな!」
「あー、気にしてるんだからやめてよ。その通り……俺って不死身以外はただの人間だから、意外と勝てないんだよねえ」
そう、宰吾の身体のステータスは普通の人間と全く変わらない。ヒーロー活動のために日々鍛錬を怠らない宰吾だが、せいぜい格闘家とタイマン張れるくらいだ。
「だけど」
だから、フィジカル以外で勝つ方法を常に考えている。
「今回は、楽勝かな」
ヘルメットの中で、宰吾は不敵な笑みを浮かべた。
「何――」
言い終わる前に、キマイラキングの動きがピタリと止まった。顔は青ざめ、額に汗が滲んでいる。
「おい、おいおいおい……!」
恐る恐る後ろを振り返るキマイラキングは、目に映った光景に歯をガチガチと鳴らした。先程放り投げた宰吾の上半身が、己の尾であるコブラを掴み、ゴリラの胴に噛みつかせているではないか。
「なッなんてこと、してくれてるんだ!?!?!?」
涙目で叫ぶキマイラキングは、見る影もなく無様で、悲惨で、まるで小動物のようだった。手に持っていた宰吾の頭を地面に落とす。
「痛ッ。おいおいもっと丁寧に扱えって」
次第にキマイラキングは泡を吹き始め、気を失った。自らの毒に侵され死んだのだ。キマイラである彼は、頭・胴・尾がそれぞれ別の動物でできている。それらは完全に独立した性質を持っているのだ。すなわち、コブラの毒耐性は尾にしかないので、ゴリラの胴が毒に侵されれば、死ぬ。
これを分かっていた宰吾は、利用して勝利を収めたというわけだ。
「よっしゃあ!勝ったぜ!」
地面を転がる宰吾の頭が叫び、周りにいた群衆はゾッとした表情で一歩引いた。
「あ、ごめんちょっと誰か頭と体くっつけてくれない?」
……誰も、名乗り出ることはなかった。今日一番の静寂がシブヤに流れる。
そのときだった。
シブヤに無数に存在する巨大な街頭モニターが異様な音を流し出す。ノイズ音のような、しかしなぜか何かの声にも聞こえるような、謎の音。
画面には色ずれを起こした記号の羅列が表示されている。よく周りを見ると、それは街頭モニターだけでなく、全ての人の携帯電話、ゲーム機、スマートウォッチ、音楽プレーヤーなどなど画面のある機器で起こっていた。
そして、その“音”は次第に意味のある言葉を発しだした。
『みんなさまさまマ。こんちには。ちは。私は。。、。、、、。神でス。、』
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