第21話 ヒーローの端くれ

「こんな圧倒的な数値、初めて見た……」


 正直、こんな数値が出るだなんて宰吾も想像していなかった。普通に問題なく能力が使えていることを伝えようとしたところ、「俺なんかやっちゃいました?」系主人公のようなムーブをかましてしまったことを心の中で恥じる。


「と、とにかく俺は大丈夫ですので! 何があっても死なないし、怪我もすぐ治る。任せてもらうには十分じゃありませんか?」


 三人は、顔を合わせた。


「……少し、三人で話をさせてくれないか」


 猪巻はそう言い、雨が上がった洞穴の外へ出た。アリーとシェパもそれに続く。話し合いがなされている間、宰吾は考えていた。

美蕾は無事だろうか。きっと今頃、キョウトでニュースを見て心配してくれいるのだろうか。まさか、兄がこんな作戦に駆り出されてるだなんて、想像もしてないだろうな。それどころか、こんな危険を冒しているなんて知ったら、怒り出すに違いない。不死身ってこと、言ってないから。

宰吾は鼻で笑い、洞穴の空間をぼんやりと眺めた。いつの間にか陽が出ており、午後の日差しがすぐそこまで入ってきている。


「……待たせたね」


 三人は思ったより早く戻ってきた。三者三様、違う表情を浮かべている。猪巻は覚悟を決めた様子。シェパは絶望を押し殺した様子。アリーは無表情だった。


「結論として、不知くん。この先は君一人で行ってもらうことにする」


 やはりそうなったか、と宰吾は思った。神殺し作戦は急を要している。したがって、作戦延期はできるだけ避けたいことだろう。拳を握り込み、覚悟を決める。


「おやおや宰吾くん、かっこいいねえ。ごめんね、今回のこと色々本部に報告しないとだし、遺体も回収したいから。私と一緒にいられないからって、寂しがらないでね?」


「ったくこんなときまで……アリーさん」


 昨日までムカつくと思っていたアリーの冗談も、今は宰吾の緊張をほぐしてくれた。だから、宰吾は少しだけ笑ってしまった。


「あ、今エロいこと考えたでしょ?」


「あー! 心の中で感謝して損した! てか心読めるなら違うって分かるでしょ!」


 場が少しだけ和んだ。みな、顔が綻んだ。シェパを除いては。


「……不知さん。リジェのこと、本当にお願いします……」


 笑う三人に不安を覚えたのか、シェパは目一杯の深刻な声色で、絞り出すように言った。目元は赤くはれ、鼻水が垂れているのが見えて、宰吾は笑っていた口を食いしばる。


「俺のヒーローの端くれだから」


 そう言い、宰吾はシェパに手を差し伸べた。シェパはそれを掴み、震えた声で言う。


「……ありがとう、ございます……」


「それは見つけた帰ったときに言ってくれ」


 そうして、宰吾と他三人は別れた。ほんの短い時間だったが、仲間との別れは少しだけ寂しい。だけど、彼らを……そして美蕾を、みんなを守るためにはここから一人でだって行かなければいけない。そう言い聞かせ、宰吾は歩き始めた。

 雨上がりの夕焼けに、うっすらと虹がかかる。この虹が希望の前兆になることを祈るのだった。

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