第2話 ヒーローの世界
トーキョー。シブヤ。
いつも通り、宰吾は高校の同級生とカフェで過ごしていた。目の前のテーブルには、プリント数枚とノートが敷き詰められている。店内は満席で、二人はなんとか席が空いたタイミングで入店できたからラッキーだった。
「宰吾……明日提出とか間に合わないっしょこれ」
「泣き言言うなって、
二人が座る二階のカウンター席は、渋谷のスクランブル交差点を見下ろすのに丁度いい。Wi-Fiも繋がるし、エアコンも効いているので放課後の高校生にはまるでオアシスだ。人が多すぎるのが難点だけども。
「! おい宰吾、ジャスティスのニュースだぜ」
「おい、早速課題投げ出してネットニュースなんて見てんじゃん」
唯人のスマホに映るのは、国内で活動をしているヒーローでも最強格の男・ジャスティスである。国内のヒーローの中で唯一の無敗記録を誇り、倒した怪人は千体は下らないというが、真偽は不明だ。
「……え」
唯人は、スマホを持ったまま固まってしまった。茫然と画面を見つめている。
「どうした?」
宰吾は唯人のスマホを覗き込んだ。目に飛び込んできた文字は、
『ジャスティス敗北! 謎の飛行生物に撃ち落される 正体はドラゴン!?』
ジャスティス敗北。この言葉は、誰が見てもショッキングなニュースと言えるだろう。唯人も例に漏れず、それに衝撃を受けている様子だ。だが、宰吾は文章の後半に目を向けていた。
「な、なあこれ、ドラゴンって」
宰吾の真面目な質問に、唯人は吹き出した。
「いやいや! ドラゴンなんて現実世界にいるわけないだろ! あんなのファンタジーだよ。それらしい変身能力を持った怪人だって」
それもそうか、と宰吾は目の前のアイスコーヒーを口に含んだ。
「そういや宰吾、まだやってるのか? 例のヒーローごっこ」
いつの間にかニュースから興味が逸れた唯人は、宰吾の肩を小突き、ニヤニヤしながら言う。
「ごっこじゃねえ。俺は本気だし、あとこんなところではっきり言うな」
「ごめんって覆面ヒーロー様。でもさ、宰吾はどっちかって言うとヒーローアンチじゃん? なのになんでヒーロー活動なんてやってるの?」
唯人の純粋な問いに、宰吾は目を逸らした。その問いは、やめてほしい。
思い出される。
――血まみれの、父と母。動かない妹。……それを見捨て去った、あの忌まわしいヒーロー達。
「……俺が、正しいヒーローがどんなものなのか証明してやるんだよ」
宰吾は力強く、そして殺気に満ち満ちた目の光を誰にも悟らせないように、俯いて言った。
「……? ふぅん。よく分からねえけど、お前の能力は“ある意味”最強なんだから、頑張れ! 応援してる」
呑気に笑う唯人が羨ましくて、意味もなく妬ましくて、宰吾は返事をすることはなかった。
そのときだった。
二人の見下ろすスクランブル交差点から、悲鳴らしき声が聞こえたのは。
「!? 事件か?」
唯人が言ったときにはもう、宰吾は走り出していた。
「会計ッ……! 頼む!」
言い終わるのと同時に、宰吾は唯人の視界から消えた。
それを見送った唯人は、ため息を吐いたあと、呟いた。
「これで何度目だよ……」
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