第12話 踏み出す一歩

 護国寺、ロキ、アリー。三人の視線が、鋭く自分の目を貫いているようで、宰吾は堪らず目を伏せた。妹――美蕾のことを思い出す。


「不知くん、これは君にしかできない任務だ。未知の異世界へ赴くなど、命がいくつあっても足りないかもしれない。が、君には無限の命がある」


 そうだ、宰吾は死なない。超エネを体内に取り込み、不死身の能力を発動することができる彼は、文字通り無限の存在――イモータルである。

 美蕾も、過去の自分が成し得なかったことに、今まさに挑戦している。美蕾は今、キョウトへ二泊三日の修学旅行に行っている。きっと不安と恐怖と、そしてそれに立ち向かう自分自身の心にもみくちゃにされながら、頑張っている。


「それなのに……俺はなんだ……」


 宰吾は呟き、拳で白い掛け布団を握った。


「不安に思うのも無理はない。不死身と言えど心はある。怖いことや悲しいことも起こるかもしれない。それでも、トーキョーのために、民のために、やってくれないか?」


「……もし、上手くいかなかったら」


 弱音を吐く宰吾に、護国寺は力強く、そして優しく、言った。


「そのときは、私たちがいる。全力で君をバックアップするし、失敗したときはこちらのプランでなんとかする。だから、失敗を恐れないでほしい」


 その言葉に、宰吾は聞き覚えがあった。紛れもなく、自分が美蕾に言った言葉だ。そうだ、自分だけ逃げるなんて、なんていうカッコ悪いお兄ちゃんだ、と自嘲する。


「……はは、あー、そうだ、そうだよな、美蕾」


 宰吾は握った掛け布団から手を離し、ベッドから降りた。薄手の入院着のような服だが、寒さは感じない。裸足でペタペタと冷たい床を進み、護国寺の正面に立つ。


「わかりました。やります。やってやります。俺が世界を、救います」


 先程とは打って変わって、生気がみなぎった表情の宰吾を見て、護国寺は嬉しそうに強く頷く。


「ありがとう。そうと決まれば、早急に準備だ。詳しいことは動きながら説明しよう」


 それが合図だったかのように、ロキとアリーも動き出した。宰吾は急に時間の流れるスピードが変わったようで一瞬困惑するも、護国寺に着いて歩く。そのとき、アリーが近づいてきて宰吾に耳打ちした。


「美蕾ちゃんのためにも、頑張らないとねぇ~」


 そのにやけ顔に、宰吾は渋い顔で返す。

 この女、苦手だと思った。人の心の中にズカズカ這入り込むんじゃない、と言葉に出さず悪態をつく。それがアリーに伝わっていることは百も承知である。


「あーはいはい、そういう反応は慣れてますーって! ほら、行くよッ」


 アリーに背中を強く叩かれた宰吾は、前のめりにバランスを崩しながらも、なんとか持ちこたえてアリーに舌を出した。


「勝手に心読むのやめてください」


 改めて口に出して言う宰吾を、アリーは笑い飛ばして、先へ行ってしまった。先が思いやられるな……と宰吾は頭を抱えた。

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