王都オルトレアド編
第22話 悠久のプロローグ
「悪いねルーナ。君にはここにいてもらう他ないんだ」
青年は、爽やかに言った。仄暗い視界に煌びやかな鎧と黄金に輝く剣が眩しくて、ルーナは目を細める。
「こんな……! ことが! 許されると思っているの……!?」
足元に施された、蒼く光る刻印を殴り、ルーナは叫んだ。
王都オルトレアドの王城地下。もう数百年も人の立ち入りが許されていない禁書庫の扉が、今閉まろうとしている。数多の古い本に囲まれるルーナと、閉まっていく扉を外から眺める四人のパーティ。剣士らしき青年、戦士らしき男、僧侶のような中年、盗賊らしき少年。
魔法陣に囚われた少女ルーナは、彼らを眺めて歯ぎしりするしかなかった。
「許されるも何も、このことが外に漏れることはないのさ。君はこの埃臭い書庫で永遠に監禁され続けるのだから」
剣士の青年はほくそ笑んで言う。
しくじった。まさかこの私があんなパーティの僧侶に封印魔法を掛けられるとは。
ゆっくりと閉まる扉越しに見える彼らを恨めしく睨んで、ルーナは己の運命を呪った。一度発動が始まった封印魔法に一度捕らわれれば、逃げられない。
――いくら“最強の魔法使い”である私でも。
これは驕りでも妄想でもない。紛れもない事実。
……だから、こんなことになってしまったのだ。
「本当は殺してしまいたかったのだけれど……」
青年は腰に手を当て、苦笑いを浮かべる。
「ルーナ。君は強すぎた。だからここで大人しくしていてくれ。さようなら」
誰が見てもその顔は美形だろう。だけれど、ルーナにとって最後に見たその人間の顔は、瞳は、邪悪で卑しい、まるで魔族のそれだった。鋭く光る眼光としたり顔を、重い扉がぴしゃりと遮り、ルーナの封印は施錠された。
「……あのクソ野郎……絶対に許してやらない……!」
だだっ広く、無限とも思える量の本と本棚しかない部屋に、ルーナは一人取り残された。辛うじて杖は無事だが、この封印魔法を前にはこんな棒、無力である。
それでも。
それでもルーナは諦めなかった。必ずこの部屋から抜け出して、あの忌まわしいパーティに――魔王討伐に選ばれた勇者パーティに、この手で報いを受けさせるのだ。
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