第50話 失敗を招くのは
一個大隊並みの人数が、一斉に進軍を進めている。朝方、何もない草原を土埃を上げながら軍用車両が何台も勢いよく走る。
「……リジェ……無事でいてください……」
軍用車両の中でもひと際大きい、装甲兵員輸送車に詰め込まれたシェパは小声でそう呟いた。
「ん、キミ、シェパードマン? いつもリジェネマンとバディ組んでる」
シェパの正面に座っている、長身でイケメンの男が声をかける。
「あ、はい。……あなたは?」
「俺はてんぷら」
「いや、蕎麦屋の注文じゃないんですけど」
真顔で思いもよらぬ回答をする男と、困惑で淡々とツッコミをしてしまった犬ッコロの間に、妙な沈黙が走る。
「あー! ごめんごめん! 俺のヒーローネームよ、てんぷらってのは!」
やっとすれ違いを理解したてんぷらは、噴き出して笑った。身を乗り出してシェパの肩をバンバンと叩く。
なるほど、とため息を吐いたシェパは、しかしなぜてんぷら? と疑問を抱かざるを得なかった。
「なぜてんぷら? って思っただろ? まぁ、これから数時間もしないうちにわかるよ。俺の能力ってのを見てくれればね。超かっちょいいから」
イケメンのドヤ顔、様になるなぁ……。
なんて呑気に見惚れるシェパを横目に、てんぷらの隣に座る女の子が声を出した。
「……で、っでも、てんぷらさんの能力……ちょっと怖いので……ほどほどにお願い……します……」
前かがみになって丸まる小柄なその女の子も、どうやらスーパーヒーローのようだった。
「いやぁ、俺に言わせりゃあ、レンちゃんの能力の方がよっぽど怖いけどね~!」
てんぷらにレンと呼ばれた女の子は、やめてくださいっ、と小声で反論する。
見たところシェパとあまり変わらない年齢か、少し年下だろうか。
「お二人とも、お強いんですか?」
シェパは単純に疑問に思ったことを言ったのだが、図らずも二人の実力を疑ったような形になってしまった。
「お、言うねぇ。俺とレンちゃんは戦闘地域が被ってるからよく鉢合うんだけど、レンちゃんが負けてるところは見たことねぇなぁ」
「……て、てんぷらさんこそっ……不敗記録更新中って……噂ですよ?」
どうやらこの先の戦闘の心配はないみたいだ。とシェパは安心する。が、先のスライムとの戦闘を思い出し、言った。
「でも、あの森に潜むスライムたちは手強いですよ。銃撃含む物理攻撃が何一つ効かなかったんです」
シェパはあの惨劇を思い出しながら、俯き答えた。
「他の攻撃は試してないのか? 銃撃とか物理以外」
てんぷらの問いに、頷くシェパ。
「なら、俺とレンちゃんが行けばどうにかなるかもな。少なくとも、違うアプローチで攻撃できる」
自信があるのか鈍いのか、てんぷらは何も心配いらないといった風な口調で言い切った。レンもそれに反論しない。
「な、なんでそんなに自信満々なんですか。しかも今回は異世界からの進軍も確認されてるっていうのに……驕りは失敗を招きますよ」
後半、声が震えていたような気がする。
リジェは決して驕ってなどいなかった。だが、行方不明になってしまった。鈴木、佐藤、佐伯も全力で戦って死んだ。
それなのに、この人は……。
「お前こそ、判断鈍ってんじゃねぇぞ」
不意に芯のある声色で言うてんぷらの言葉に、シェパは背筋が伸びる。
「仲間を助けたいんだか何だか知らねぇけど、これは任務で、戦争だ。私情を持ち込みすぎる奴こそ、失敗を招く。違うか?」
「てんぷらさん……言い過ぎ」
レンの気遣いすらも痛々しいくらい、てんぷらの言葉はシェパの心をぎゅっと押し潰した。
そうだ。スーパーヒーローとして、多くに人間を助けないといけない。リジェも大事だけど、それ以上に、多くの命を背負っている……のだ。
シェパは自分にそう言い聞かせ、誰とも目を合わせないまま、「分かってます」と返事をするのだった。
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