第49話 幼馴染
「ルーナについてだ? お前、元の世界の仲間より、こっちに来て一度出会っただけの女を優先するってことかよ」
アイザックは己の主張が正しいと言わんばかりの声色で抗議をする。宰吾はあまりに端的に言い切ってしまった、と慌てて訂正した。
「い、いや、そういうわけじゃない。ただ、コスモはあの様子じゃルーナの方は手助けしてくれないと思うんだ。だったら、こっちはルーナ、向こうはリジェっていう手分けの方がいいかなって」
顎に手を添えたアイザックは、むむむと唸って、そして口を開く。
「まぁ、騎士団に逆らうってんなら戦力は少しでも多い方がいいしな」
「分かってるじゃん」
そうして、二人は街中を聞きこみながら歩いた。
こういうのは大抵、地道な作業になるんだろうなと踏んでいた宰吾だったが、それは杞憂だった。
「ルーナ様についてなら、彼女の幼馴染だったレイラがよく知っているんじゃないかしら」
五十代半ばくらいの、人の好さそうなご婦人が有力な情報をくれた。
「ルーナ様は幼くして両親を亡くされているから、クラーク様の元に身を置きながら、レイラとよく遊んでいたそうよ」
ご婦人はお香の効果で宰吾たちがお尋ね者であることに気づかないまま、別れ際にごきげんようと挨拶をしてくれた。なんだか騙しているようで心が痛む。
だが、有力な情報を得た。
「よし、情報も手に入ったことだし、早速――」
宰吾が踵を返し歩き出そうとしたのも束の間、アイザックに首根っこを掴まれた。
「落ち着けサイゴ。もうこんな時間だ」
商店街の店先に取り付けられた親切な両面時計が、夕方六時を示している。あたりは薄暗くなってきており、いつの間にか往来も少なくなっている。
「――そうか。じゃあレイラの家は明日だな。コスモの店に戻るんでいいんだよな?」
「まぁ、流石にお尋ね者の身で宿屋に泊まるわけにもいかねぇ。あの店で一晩ってのは寒気がするが仕方ねぇな」
たしかに、コスモの店は色んな生き物の死骸が保管してあったり、謎の植物が異臭を放っていたりと不気味だが、安全ではあるだろう。
二人はコスモの店に周囲を警戒しつつ戻った。店に入ると、コスモからの置手紙があった。
『私は当分戻れそうにないから、奥の実験室で眠ってくれたまえ。キミたち二人だけ、自由に出入りできるよう、魔法陣をいじっておいたよ』
書いてある通り、二人はコスモしか開くことのできなかった例の部屋にすんなりと入ることができた。ひとまず、今夜は安心して眠れそうである。
思えば、宰吾にとってこの世界に来てから初めてのまともな睡眠だった。
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