第7話 感触の正体
――そして、現在に至る。
宰吾は会議室のような部屋の中、ベッドに横たわり、何人かの大人に囲まれている。国防長官である護国寺、その秘書、“ロキ”を名乗る不審者。
先程と違う点は一つ。記憶を頭の中で整理して、宰吾は今の状況をある程度理解できたということだ。
「ま、まず! そこの秘書っぽい人! 何者!?」
真っ先に言葉に出たのは、それだった。何よりも鮮明に記憶にある、後頭部の柔らかさと、指さす先にある彼女の胸元――もとい、鮮明に記憶にある顔と声が、宰吾をここに連れてきた女と完全に一致しているのだ。
「絶対ただの秘書ってわけがないでしょう? あの感じ」
護国寺は「まずそこかい」と苦笑いを浮かべた。ロキは「お若いですから」とにこやかに言う。それが聞こえた宰吾は、もう開き直って叫んだ。
「そりゃああんな訳分からん、異世界? みたいな話より人生で初めて触れた異性の温もりの方が重要ですよこっちは!」
妙な沈黙が流れる。宰吾にとって苦痛な時間が数秒続き、気を遣ったのか護国寺の咳払いが静寂を断った。「隠すつもりも理由もない、ほら」と秘書の肩を叩く。
「ぷ」
秘書が放ったその一音目は、この場に全くふさわしくないものだった。
「は?」と宰吾が発すると同時に、秘書は人目を憚らず大声で笑い出したのだった。
「ぷッははははははははは! あーおっかしい! やっぱこの仕事辞められないわ~!」
先程の雰囲気が嘘のように人が変わった彼女は、涙目になった目元を軽く拭い、空いた方の手でお腹を押さえている。やがて笑いが治まってきて、ゆっくりと口を開いた。
「私は
「す、スパイ?」
宰吾の頭の中で『ミッション・インポッシブル』のテーマが流れ出す。
「普段は護国寺長官の秘書として働きながら、G.O.Tを始めとした国の脅威となり得る組織とか、民間企業とか、他国の諜報機関とか、いろんなところに潜入してるの」
すらすらと国家機密レベルのことを話すアリー。大丈夫なのだろうか、と心配していると、まるで宰吾の心を読んだかのように返す。
「大丈夫大丈夫、宰吾くんが安全な人間であることは分かってるから。なんせ、私の能力は、『人の心を読む』だからね」
そう言ってキメ顔をしながら宰吾に指ハートをつくる姿は、全くスパイに見えないから不思議だ。
「指ハートはもう古いっす」
「うっそ!? もう!?」
この人何歳なんだろ……。と思う前に、宰吾は考えることをやめた。この人は面倒臭いな、と本能で感じていた。
さて、とりあえず思春期男子として気になった柔らかさの正体は判明したとして、いよいよ真面目な話のターンである。護国寺の真剣な表情が、それを物語っていた。
「不知宰吾くん、だいぶ緊張は解れただろう。本題に移ろうか」
まるでそれが合図かのように、アリーは一歩引き、護国寺とロキが一歩前に出た。
「先程も話したが、君のその『不死身の能力』を見込んで、仕事を依頼したい」
宰吾は生唾を呑む。このタイミングでの、依頼。それが容易いことでないことだけは、今の宰吾にもしっかりと理解できた。
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