第14話 二人のヒーロー
宰吾は、最低限の装備として、サバイバルナイフと拳銃、予備の弾倉、閃光弾、懐中電灯、防弾ベストを渡された。今回はあくまでも戦闘が目的ではない上に、他勢力からの防戦にも物資が必要とのことで、これだけに留まっているらしい。正直、心許ないなと宰吾は思った。まぁ、不死身だしなんとかなるか。
「僕はシェパードマン! 能力は警察犬と同等の嗅覚・聴覚・身体能力を持っているスーパーヒーローです!」
高機動車に揺られる宰吾の隣で、背の低い彼が自己紹介をした。見た目は人間と同じだが、なんとなく忠誠心のありそうな顔で、安心感がある。スーツはシェパードの毛色をモチーフにしているようだ。グローブには鋭い爪が光る。
「不知さん、血の匂いがしますね」
鼻をすんすんと動かし、シェパードマンが宰吾の方を嗅ぐ。明るめの茶髪がさらりと揺れた。
「そうですかね……? まぁ、しょっちゅう血まみれになるからかもしれません」
「え、怖いですね不知さん」
シェパードマンはうげ~と顔をしかめる。反応が素直でなんかかわいい。と、宰吾は思った。
「あ! それと、多分僕と不知さん、歳そんなに変わらないと思うので、敬語はやめましょう! 僕のことも気軽に“シェパ”って呼んでください」
笑顔で言うシェパードマン。
なんていいやつなんだ……と感動しながら、宰吾は了承する。
「分かった、これからよろしく、シェパ」
「はい! よろしくお願いします! 不知さん!」
そう言ってシェパは勢いよく頭を下げた。
「いやお前は敬語なの!?」
つい口に出してツッコんでしまった、と宰吾は自分の口を塞ぐ。
「あ、すみません、僕はこれが一番気楽というか、慣れてるというか……気にしないでください!」
屈託のない瞳に、宰吾は何も言えなくなった。なんだか、薄~い心の壁を作られてしまったような気になる。
「わ、分かった……」
苦笑いをして、返す。
「じゃあ次! 限りなく不知さんに近い男、リジェネマン! 自己紹介してください!」
宰吾の反対隣に座る男に、シェパは声を掛ける。彼の方は全身フル装備、顔が見えなかった。サバゲー用のマスクのようなもので顔を覆い、体も完璧な防弾仕様になっているようだ。
「……ぉ……ぇ……っす」
……? 今、何か言った?
「あ~もう! だから声小さいですよ! マスク着けてるんだから、もうちょいハキハキ声出してください!」
その指摘に驚いたのか、リジェネマンはビクっと体を動かして、改めて言う。
「あ、えっと、一応……リジェネマンって名乗らせて貰ってます……! 能力は、身体能力、耐久力、回復力強化ですっ!」
こんなのが自分に近い男? と宰吾は疑問に思っていたが、なるほどと思った。耐久力と回復力が高いのであれば、戦い方は自分に近いかもしれない。
「リジェは不知さんみたいに不死身じゃないですけど、その代わり身体能力が高いので攻撃力があるんですよ~」
シェパはいたずらっぽく宰吾に言った。そう、宰吾は不死身なこと以外に能力がない。そういった意味では、超人的な身体能力を持ったリジェの方がヒーローとしてはずっと優秀だろう。
「で、でも死ぬときは死にますから……」
リジェは震えた声で言い、過剰すぎる体の装備を撫でた。
「こんなの着こまなくても、拳銃の弾丸くらいならかすり傷で済むし一分もあれば回復するじゃないですか~。羨ましい~」
シェパはキラキラした瞳でリジェを見つめる。そしてそれは宰吾の方にも向き、言った。
「不死身なのもめちゃくちゃ羨ましいですっ……! 怖いものなしですよね!」
無垢な人間はいいな、と思いながら宰吾は適当に返事を返した。この二人に挟まれると、左右の緩急の差で疲れる。
続いて、無線で別車両の自衛隊員三人が自己紹介した。こちらの車両には、猪巻隊長とシェパとリジェ、そして宰吾が乗っている。向こうの車両は自衛隊員の
「二人は、七年前のイケブクロ事件の任務に参加していたんだったよな。当時訓練生として、シェパは史上最年少だったと聞いてる」
猪巻の言葉に、宰吾は体が固まった。イケブクロ事件――歴史に残る、大事件だ。怪人が相当数暴れ、過去最多の死傷者を出した、最悪の事件。
「……参加といっても、げ、現場にはいませんでしたけどね」
リジェが訂正するのを、宰吾の耳は捉えていたが、頭には全く入ってこなかった。頭がキーンと痛む。思い出したくない記憶が、甦る。血まみれの父と母。意識のない妹。場所は――イケブクロにある大型複合商業施設、サンライズシティ。込み上げる怒りと後悔と恐怖を、必死に抑え込む。
「不知さん? 不知さん! 大丈夫ですか!?」
シェパのキャンキャン吠えるような声に、宰吾は我に返った。呼吸を整え、頬に滲んだ汗を拭う。
「あ、ああ。こんな大きい任務、初めてだから緊張してんのかも」
無理に笑顔を作り、場を凌いだ。今は、目の前のことに集中しなければ。そう言い聞かせ、広がる草原の先の地平線の眺める。
「……? あれって、森か……?」
これまで緑色の草しか照らさなかったヘッドライトが、生い茂る木々を捉えた。
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