第16話 不意打ち
自衛隊員たちとシェパ、リジェの任務は宰吾が無事異世界まで辿り着くまでの護衛であった。宰吾はなぜ不死身の自分に護衛などつける必要があるのかと疑問に思っていたが、今やっと答えが分かった。
途中で不死身じゃなくなるかもしれないから。
そうなれば、たった一人で未知の領域に放置されるのは危険すぎる。だから、不死身の能力が失われないかを確認できるまでは護衛が必要なのだ。
「さぁ宰吾くん~? ちょっとチクっとしますよ~?」
病院の看護師にでもなりきっているつもりだろうが、演技があからさま過ぎてコンカフェの店員にもなれそうにないアリーが、サバイバルナイフを片手に宰吾に迫る。宰吾は表情は抵抗しつつもこれは実験なのだからと大人しくしていた。左腕には、超エネが体内に吸収されたかどうかを検知する機器が装着されている。
「超エネがあるかどうかって、この方法でしか確認できないんでしたっけ?」
シェパの問いに、リジェが頷く。
「い、今の技術じゃ、空気中にあるとされてる超エネをそのまま計測するのはっ、不可能だって聞いたことあるよ……だから能力者の身体に吸収されたかどうかで計測するんだって」
遠巻きに宰吾の実験を眺める二人は、宰吾に同情の目を向けていた。これから起きることを想像し、顔を合わせ苦笑いを浮かべる。
「もう死になれたもんでしょ? ちょっと腕に引っ掻き傷入れるくらいなんだから、我慢してね」
アリーはまるで母親のように呆れ顔で宰吾に言った。
「いや! 戦いの最中はアドレナリン? が出てて痛みはほとんど感じないけど、今の状況じゃ訳が違いすぎますってッ! それに大怪我より意外とこういう地味な傷の方が痛かったり――」
「えいっ」
宰吾が言い終わる前に、アリーは宰吾の右腕に一筋の切り傷を刻んだ。
「
その小さな悲鳴と共に、血がたらりと前腕を伝う。が、その直後、みるみるうちに傷が塞がり、腕は元通りとなった。左腕の機器が音を出し数値を示す。表示された数値は「5」。微弱な超エネの値だ。
「おお~すご」
「すご。じゃないですよ! まだ心の準備できてなかったのに!」
「まぁまぁ、不意打ちの方が怖くないし、早く終わるじゃん?」
さぁて、とアリーは再びサバイバルナイフを手に取り、再び振りかぶる。
「ちょっとちょっと!? まだ続くんすかこれ!?」
「うん。次はレベルIIだね。あの微弱な数値じゃ、こっちの世界から流れ込んだ超エネが残ってただけかもだし」
なんて恐ろしい実験だ……ッ!
宰吾は身を翻し、アリーから距離を取った。
「せ、せめて少し休憩させてくださ――」
そのときだった。
シェパが森の方を振り返り、身構える。
「どうした」
猪巻の声に、シェパは“静かに”のジェスチャーで答えた。
何かを察した猪巻は、全員に臨戦態勢の指示を出す。
まさか。敵は八キロ先で、風上だから大丈夫じゃなかったのか? 宰吾はシェパを見て、目で訴えようとする。
が、そのシェパ本人も困惑した表情で、宰吾は責め立てるような真似はやめた。それまでの騒がしい空気が一転、鋭い緊張感が全員の背筋に走る。
「獣、か……?」
隊員の加藤が呟いた。
――のと、ほぼ同時。
“何か”がリジェの肩を貫き、体が後ろに吹き飛んだ。
「戦闘態勢に入れ!」
猪巻の号令を聞きながら、みな困惑する。あのリジェが呆気なく吹き飛ばされた。五メートル後方で、血だまりに倒れるリジェを振り返り、シェパが子犬のように叫ぶ。
「リジェ!」
意識がないようだった。即死か、気絶か。後者なら、再生能力で何とか生き永らえる見込みはあるだろう。それよりも、あの強靭な体を持つリジェがいとも容易く重症を負うだなんて、誰もが考えられなかったことである。
森の茂みがガサガサと揺れる。自衛隊員たちは小銃を手に取り“それ”に向かって弾幕を浴びせている。これで死なない生物など、スーパーヒーローや怪人くらいだ。こちらの世界では。
「くそ! 全く手応えがない!」
佐伯が叫ぶと、猪巻は発砲の命令を解き、様子を見ようと言った。高機動車の陰に全員隠れ、息を潜める。シェパはその隙に、自慢のすばしっこさでリジェを引きずって同じく車の陰に隠れた。
茂みが、揺れる。
先程の弾幕など全く無意味だったという風に、“そいつ”は姿を現した。
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