第29話 告白

 目の前にいる、金髪ショート風三つ編み美少女魔法使いが、二五八歳。

 何かの冗談なのか、この世界ではそういうものなのか……。


「ま、魔法使いってそんなに寿命長いのか……?」


 隠しきれない困惑を苦笑いで押し潰した宰吾。そんな姿を見た彼女は、笑いながら言った。


「まさか、そんなわけないでしょ。人間の寿命なんて魔法薬を使い込んだってせいぜい一五〇歳程度よ。それともあんたの常識では人って二〇〇歳半ばまで生きるの?」


 なんか、ムカつくなこいつ。

 せっかく劇的な出会いを果たし、言葉も通じる相手が見つかったというのに……。


「じゃあ、なんでその、キミは――」


「ルーナ・ハワード。気高き大魔法使いコスモ・クラーク唯一無二の一番弟子よ」


 ルーナ……。つっけんどんな態度からは想像もつかなかった可愛い名前だ。

 小柄な体には似合わぬ、堂々たる仁王立ちで自己紹介をするルーナを前に、たじろぐ宰吾。


「ふふん」


 自慢げに鼻を鳴らすルーナ。

 これは、言ってやらねばなるまい。


「ごめん、そのコスモなんちゃらって人が分からない」


 ルーナのドヤ顔が固まる。そして、少し頬が赤らみ上がった口角が噛み締められて、声を荒げた。


「……いや! 仕方ないわ! かなり古い人物だから! 歴史に名を刻めなかったアイツが悪いってことよ! うん!」


 なんだか愉快な人だ……。というか俺がその人を知らないのは別の理由なんだけどな……。と心の中で静観していると、ルーナは無言でこちらを指差してきた。


「え、なに?」


「……こっちが名乗ったんだから、そっちも名乗るのが礼儀ってもんでしょ」


 礼儀、ねえ……?

 宰吾は頭を掻きながら、明らかに年下の見た目をした年上の女性にどう自己紹介をしたものかと考えた。


「俺の名前は――不知宰吾」


 まあ、無難でいいだろう。


「シラズ……サイゴ……聞き慣れない名前だけど、異国の生まれ?」


 ルーナは顎に手を当て、小首をかしげて問うた。それに対し、宰吾はどう答えたものかと同じく小首をかしげる。


「まぁ、そんなところだけど……」


「ふぅん。で、どうやってここに入れたの?」


 どうやら俺のことには興味がないようだ。と、宰吾は少しだけ安心した。自分が異世界人と知って、目の前の高齢な少女がどんな行動に出るか知れたもんじゃない。


「……順を追って説明すると――井戸に落とされて、ゾンビに追われて、壁から階段が現れて、降りたら扉があって、開いたらキミがいた」


 自分でもなんと端的な説明なのだろう、と呆れるくらいだ。が、これくらいしか説明のしようがない。


「……色々ツッコみたいことが山積みなんだけど……例えばなんでに間違えて落とされるのよ、とか……でも、そこじゃない!」


 ルーナは鋭い眼光で宰吾を睨み、腕組みをして凄んだ。


「なんで、この扉を開くことができたの? って聞いてるの!」


 ああ、そういう――。

 宰吾は、そう言えばあの扉、特殊なギミックが施されてたっけ、と思い出した。


「あれは……なんか文字? みたいなところで能力を使ったら……」


「能力?」


 ……あ、これ口滑らせたかも。

 宰吾は思わず自分の口を塞ぐ。そんなわざとらしい仕草をしてしまったゆえに、ルーナはここぞとばかりに詰め寄り始めた。


「なに? 能力って? 魔法のことをそう呼ぶ文化なんて私が読んできた本には一切書かれてなかったし、かといって話の流れ的に剣術みたいなスキルのことでもないわよね?」


 オタク特有の――じゃなくて、どうする? 話すか?

 ……結局、最強のチームを作るってなったら誰かには話すようだろうし、俺って不死身だし……なんとかなるか?

 宰吾はぐるぐると頭の中で考え、やがて考えるのをやめた。


「……実は俺、異世界から来たスーパーヒーローなんだ」


 言ってみた。

 この告白が吉と出るか凶と出るかは分からないが、状況が何か変わるかもしれない。

 宰吾は、ルーナの反応を待つしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る