第28話 小さな魔法使い

「繝帙Φ繝井ス包シ?シ溘??縺ェ繧薙〒縺薙%縺ォ蜈・繧後◆縺ョ??シ」


 参った……。

 やっと面と向かって人と離せると思ったが、何を言っているのかさっぱり分からない……。

 高級そうなソファにふんぞり返り、突っ立っている自分を見上げながら何やら喚いている女の子を、宰吾はただただ眺めているしかなかった。長い三つ編みの髪をいじり、落ち着きがない。正面から見るとショートヘアに見えたが、後ろ髪は長いんだな、と変に冷静に考えている始末だ。

 周りを見ると、見渡す限りの本棚にぎっしりと古そうな本が詰まっている。背表紙の文字はさっぱり読めないが、それも権威のある人が書いていそうな雰囲気である。


「縺ュ縺??√○繧√※菴輔°隧ア縺励※?  鄙サ險ウ鬲疲ウ輔r縺九¢繧九°繧峨&」


 彼女を見るに、何かこちらに求めているような気がする。

 宰吾は頭を掻き、考える。どうすればこの状況をどうにかできるのか。

 選択肢その一。ジェスチャーで意思疎通を図る。

 ダメだ。恐らく文化が全く違うだろうし、変な風に捉えられたら嫌われてしまうかもしれない。せっかくの出会いなのだから、できるだけ友好的にいきたい。

 選択肢その二。絵で意思疎通を図る。

 これはマジで自信がない。なぜなら、宰吾はまったくもって絵が描けないからだ。以前、美蕾に犬の絵を描いて見せたら、「何これ死んだネズミ?」と言われる始末だ。

 選択肢その三。力づくで服従させる。

 論外だ。そもそも不死身以外ただの人間である宰吾が魔法使いらしき人物に勝てるとは思えない。いや、まだ彼女がただのコスプレイヤーである可能性も捨てきれてはいないが、それでもここで暴力は違うだろう。

 かくなる上は――。


「は、はじめまして! 俺の名前は不知宰吾! き、きみの名前はなんですか!?」


 ヤケクソだ!

 とりあえず、何かの奇跡が起こることを祈って、日本語で挨拶を試みる――ッ!


「縺ェ繧薙□縲√d縺」縺ア繧願ゥア縺帙k縺ョ縺ュ 縺ェ繧牙、ァ荳亥、ォ縺昴≧縺ュ」


 ――奇跡は、起きなかった。やはり何を言っているか分からないし、何やら呆れた態度である。

 彼女は深々と座ったソファから立ち上がり、ぼそりと何かを唱える。

 すると彼女の右手に大きな杖のようなものが現れた。それは木製でできた、太くしっかりとした杖で、上部に宝石のような装飾が施されている。


「縺倥▲縺ィ縺励※縺ヲ」


 その杖は、問答無用で宰吾の目前に向けられた。

 これは……殺されるのだろうか……。

 宰吾はその場から動けなくなった。魔法で殺された場合でも、自分は生き返るのだろうか。蘇生無効魔法とかあるのか……?

 そんな都合の悪い想像ばかりが頭を過り、宰吾は思わず目を瞑る。


「窶懃ソサ險ウ鬲碑。凪?」


 瞼の向こうが、蒼く光るのが分かった。

 先ほど見た蒼い光は、魔法が発動するときの光だったのか……。

 宰吾はそう思ったあと、何かしらの衝撃に備え力んだ。

 ――が、何も起こらない。瞼の向こうの光が消えるのが分かる。


「ちょっと、大丈夫?」


「!?」


 その言葉に、宰吾は思わず目を見開き、彼女の方を見る。

 彼女は不安げな顔で宰吾を見つめていた。


「わッ、え? 言葉が分かる……!」


 吸い込まれそうな紺色の瞳から目をそらし、宰吾は狼狽えた。これは一体――。


「“翻訳マジック・トラ魔術ンスレーション”で言葉が通じるようにしたのよ。基礎的な魔法じゃない?」


 翻訳魔術……? ということはやはりこの子は魔法使いなのか……。

 宰吾は全身の力が抜け、その場に座り込んだ。


「よ、よかった……殺されるんじゃないかと……」


「……まぁ、殺してもよかったけど。なんせ突然不審者が入ってきて無言で突っ立ってるんだから」


 彼女は杖を消し、腕を組んで宰吾を見下げる。

 かなり幼く見えるが、いくつなんだろうか。美蕾と同じくらいか、下手したら年下にも見える。身長は美蕾よりも低い。一四〇センチ後半くらいか。


「何ジロジロ見てんの。やっぱり不審者だから殺しとく?」


「い、いやすまん! その、きみくらいの妹がいるからつい重ねちゃって――」


 宰吾たじろぎ、立ち上がって弁明した。


「妹って、あんた何歳? 私こう見えて二五八歳なんだけど?」


 は? にひゃくごじゅうはち……?

 聞き間違いだろうか?


「え、なんて?」


「だから、二五八って言ったの!」


 ……目の前の、小柄な女の子が――?


「はぁあああああ!?」


 これが、魔法使い……。

 異世界に来てから驚いてばっかりだ……と宰吾は開いた口が塞がらないのだった。

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