第46話 取引
普通の魔法使いには、か。
さしずめ、自分は普通の魔法使いではないということを暗に言いたいのだろうが、表情に出すぎている。
宰吾とアイザックは顔を見合わせて、肩をすくめた。
「さて、サイゴくんが地下の禁書庫に入ることができた理由はわかった。そこにルーナが本当にいたとは信じないけどね。ただ、仮に、だ。仮に本当に何らかの方法でルーナと会うことができたとして、彼女が語った『コスモ・クラークの秘密』とはなんだったのかな?」
コスモは矢継ぎ早に次の質問に移った。
宰吾は頭を掻いて、考え込む。
……はったりである。
あの場を凌ごうと、コスモが自分を助けたりするような文言を咄嗟に出しただけなのだ。
「ルーナに会ったことを信じていないのなら、聞き出す必要なんてないんじゃないですか?」
どうにか、答えなくていい方向へと持っていこうとする。
「いや、キミがルーナと会ったと“勘違い”している可能性もある。あの子は優秀だ。死後、発動するようメッセージを遺す魔法をどこかに隠している可能性は大いにあるよ。それが、ルーナの姿を模した会話型の魔法なら、ルーナが生きていると勘違いしてもおかしくない」
「なぜ、そんなに聞き出したんですか」
「私もこう見えて名声が大事なんだ。ちょっとした過去の間違いなんてものも、隠しておけるのならそうしておきたいってものだよ」
頑なだ。
だが、それはないと宰吾は確信していた。魔法に詳しいわけではないが、あの言葉や表情が、人為的に作り出されたものとは思えない。
「……」
「…………」
「……??」
三者、沈黙を貫く。
何を言おうか考え込む間と、相手の出方を待っている間。そして、よく分かっていない間。
ここではったりだと言うことを明かしてしまえば、コスモという強力な味方を失うかもしれない。しかも、これだけ真剣に聞き出そうとしているのだ。よほど知られなくない秘密でもあるのかもしれない。
やったことなんてないけれど、これは、あれだ。ああ言うんだ
「………………取引をしましょう」
宰吾は、できるだけたっぷりためを作って、さぞ「こういう状況には慣れてますけど?」みたいな雰囲気で言った。
「……はッ」
コスモの口元から、勢いよく息が漏れた。
そして、やがてその息は笑い声に変わり、密室に響き渡る。
「はっはっはっはっは! キミが! この私に取引! ぶははははは!」
傑作だと言わんばかりに腹を抱えて、コスモは大笑いする。
アイザックは不審者を見る目でコスモを見下し、当の宰吾は困惑と恥ずかしさで大混乱である。
「な、なんですか!? 俺、なんか変なこと言いましたかね!?」
「いや! 言っていること自体はそんなに……ただ、明らかに取引だなんて言葉を使ったことのなさそうなキミが、あろうことかこの大魔法使いコスモ・クラークをその初めてに選ぶとはね! その勇気、いや無謀さに脱帽だよ!」
バレバレだった――!!
恥ずかしすぎて死にそうになりながらも、宰吾は真顔を貫く。
「顔真っ赤だぜ? 兄弟」
肩を組みながらアイザックが放ったその言葉に、耐えられなくなって顔を伏せる宰吾だった。
「さて、取引と言ったが、キミはルーナが言ったという『コスモ・クラークの秘密』を私に話してくれるんだよね。では、私はその対価に何を差し出せばいい?」
いつの間にか笑いが収まっているコスモは、微笑みながら宰吾に問うた。宰吾は顔を伏せたまま、逡巡する。
彼にどこまで求めていいものか。実力を鑑みれば、“
「“神殺し作戦”への協力と、ルーナ及びリジェの救出を手伝ってください。それが全部終わったら、話します」
顔を上げ、コスモの顔を見ながら、宰吾ははっきりと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます