第43話 マナと超エネ

「マナって……?」


 宰吾は純粋に疑問を投げかけた。まぁ、ネーミング的に魔力とかそういった類のものだろうとは推測できるけれど。

 コスモは机の上に白い人型のぬいぐるみを出現させた。顔のパーツや髪はなく、服も着ていない、シンプルな形のものである。右手には小さな杖を掲げていた。


「マナというのは、魔法使いにとって欠かせない、魔法を使うためのエネルギーだ。あらゆる空間に存在し、私たちはそれを借りている」


 ぬいぐるみの周辺に、蒼い光の粒が現れた。


「便宜上、可視化させたが普通はマナを見ることはできないよ」


 ぬいぐるみは杖を振った。すると、蒼いマナは杖に集まる。


「魔法使いは、呪文を詠唱することで、この空気中のマナを操る。そうして、任意の魔法を発動させるんだ。私は無詠唱でもできるが、例外だね」


 ぬいぐるみが杖を振ると、先程宰吾の腕を入れた壺が浮き上がり、コスモの元へと移動してきた。杖の先は蒼く光っている。


「利用できるマナの量はその人物の生まれ持った才能と鍛錬の量に依存する」


 コスモは説明を終え、一息ついた。そして、宰吾を見る。


「でもコスモさん。俺は魔法使いじゃないです。なのになんで――」


「それが、分からないんだ。だが、決定的に魔法使いのそれとは違うマナの使い方をしている」


 宰吾の言葉に被せるように、コスモは興奮気味に言った。


「キミは、空気中のマナを操っているわけじゃない」


 机上のぬいぐるみが、杖を手放した。そして、脈絡なく片腕がもぎれ落ちる。


「普通の魔法使いは、魔法を使う前にマナに働きかけるが、キミは能力を使う瞬間にマナを体内に吸収しているんだ」


 ぬいぐるみの周りに浮遊していた蒼い光が、ぬいぐるみの中に入り込んだ。蒼く発光したぬいぐるみは、その瞬間、腕が再生する。


「こんな使い方、見たことがない」


 瞳を輝かせ、ワクワクした様子で言ったコスモに対し、アイザックは難しい顔で腕を組んでいた。

 宰吾は、思い当たったことを口にしてみた。


「……超エネの使い方だ」


「超エネ?」


 コスモが即座にその言葉に反応する。今度は宰吾が説明する番だ。


「超能力エネルギーの略称です。俺が来た世界では、常に空気中に超エネが存在していて、能力者はそれを取り込んで能力を発揮する」


 まさに今、コスモがした説明と合致する。


「……つまり、キミはこの世界に来て、その超エネというものの代わりにマナを取り込んで能力を使った……。マナと超エネには互換性があるのだろうか。あるいは……」


 手を顎に添え、コスモは宰吾とアイザックにというより、己自身に問うてるようだった。


「――とにかくだ」


 コスモが我に返ったように二人の目を見て、言う。


「私が一番驚いたのは、その取り込んだマナ量だよ。並みの量じゃない。私だって一度に操ることのできないほどだ。一体どうやって……」


 そのときだった。

 天井の上から、劈くような咆哮か響いたのは。


「!?」


 三人は、すぐさま警戒態勢に入る。


「この声……」


 宰吾はこの声に聞き覚えがあった。それはコスモも同様だったようで、二人でこう呟いた。


「あのドラゴンか……」


 アイザックはそれを聞き、思い出したように口を開く。


「ドラゴンって、ここ十年、王都周辺を棲み処にしてるっつうレッドドラゴンのことか?」


「そうだね。マナの話はあとだ。ドラゴンの方をどうにかしよう。これまで王都上空を飛んでいることはあったが、こんなに鳴き声が近いのは初めてだ」


 コスモは立ち上がり、扉の方へと向かう。宰吾とアイザックも、後に続くのだった。

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