第25話 暗闇暗闇

 目を覚ました――はずだ。

 宰吾は己に問う。目を覚ましているよな? と。

 自分は上空数百メートルを飛行するドラゴンから落とされ、墜落死し、そして蘇って目を覚ましたはずである。

 だが、おかしい。目を開いても閉じても、目の前は真っ暗闇である。

横たわったまま、宰吾は考え込む。

夜中だとしても、こんなに暗いことなどない。始めは目隠しでもされているのかもしれないと考えたが、その可能性はすぐに消え去った。目の周りには何の圧迫感もない。というか、体全体には圧迫感など一つもなかった。

 右手で目元を触って確認することさえできる。

 だが、その代わりに自分のいる空間には強い圧迫感を感じた。


「せ、狭い……」


 手を動かした際に気づいたが、宰吾はどうやら自身の体より一回りほど大きいだけの木箱に入れられているようだった。手足は少しなら動かせるものの、ストレスが非常に溜まる不自由さである。

 故に。


「ちょ、誰か! 誰かいませんか!?」


 大声を出し、木箱の内側を両腕で全力で叩いた。

 ひとしきり助けを求めアピールしたところで、反応を待つ。が、何もレスポンスはなかった。内側からどうにか木箱を破ろうと試してみるも、想像以上に頑丈で、脱出は叶わなかった。

 そのときだった。


「!? あの! すみません! ここから出してください!」


 宰吾は再び叫び出した。

 木箱の外から、声が聞こえた気がしたからである。その声は徐々に近づき、いよいよ木箱の目の前までやってきた。


「すみません! 助けてください!」


 話し声は二つ聞こえた。恐らく二人組が会話している。

 宰吾は一度叫ぶのをやめ、返事を待ったが、すぐに気づいた。

 ――彼らが何を言っているのか、さっぱり分からない。


「……マジか。何語だよこれ」


 普通に生活していれば、例えば英語とか中国語、ドイツ語と言った言語は何を言っているか分からずとも、世界の言葉であるとある程度分かる。

 だが、聞こえてきたそれは、全くもってそうではなかった。全く聞き覚えのない、まるで存在しない言語。これが、異世界語ということだろうか。

 いや、それでも。

 それでもどうにか助けを求めれば、助けてくれるかもしれない。


「助けて! 助けてください!」


 その声に反応するように、異世界語を操る二人組は声を出す。なんだか慌てているような掛け合いに聞こえる気がするが、よく分からない。

 その直後、彼らの方から金属音のような音が聞こえた。

 もしかしたら、鍵の音かもしれない。

 これで助かっ――。


「ぐぇ」


 宰吾は、自分の頭に金属製の刃物が突き刺さるのを感じた。

 またかよ……。

 そう思ったのと同時に、意識がプツリと途切れた。


 何時間経っただろうか。

 宰吾は目を覚まし、周囲を見渡した。もう真っ暗闇ではない……が、それでもかなり暗い空間にいるみたいだった。。周りがよく見えない。かなり暗く、広い。


「なんだここ……」


 地面に手を付き、立ち上がる。地面というより河原のように硬い石のようなものが集まってできた足場のようだ。バランスがとりづらい。

 体の感覚的に、全身の骨が修復された感じがする。最期は頭を刃物で一突きだったような気がするが……と何の気なしに上を見上げて、納得がいった。

 あそこから、落ちてきたのか。

 高い天井の中央に、さらに高く上に伸びる穴があるのが見える。その先、かなり遠くに丸い光。

 恐らく、ここは井戸か何かの底なのだろう。

 宰吾は目が慣れてきて、改めて周囲を見渡し唖然とした。

 自分が入っていたであろう木箱――棺桶は半壊しており、近くに転がっている。問題はその転がっている地面だ。

 全て、壊れた棺桶と……。


「人骨、か……?」


 宰吾が立っていたのは、大量の棺桶と骨になった屍の山の上だった。

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