第29話4月16日
スイセンが今日中に召喚を行った方がいいというので召喚をすることになった。通信具でローナ先生へお願いすると、今日中に手続きしておくからもう召喚しちゃっていいよ~、となんとも緩い返答をいただいた。あまりにも召喚をするので手続きも緩くなったのだろうか?俺としては有り難いことなので、お言葉に甘えさせてもらう。
そうして、召喚契約の間で呪文の詠唱をする。
「我ら異界からの召喚者との契約を求めるものなり。我らと共に歩み、共に滅ぶものなり。我が言葉を聞き届けしものよ、我が力を依り代にしその姿を現せ。『サモン』!」
詠唱が終わると同時に、目を手で覆う。しかし、召喚に成功したという光が発生しない。ここに来て召喚に失敗したのだろうかと手をどけてみると。
召喚の光がなく現れたのは、白い毛並みの狐の獣人と黒猫の獣人。ただしどちらも尻尾が多く、黒猫の娘が二本なのに対して狐の女性は九本もある。服装はどちらも着物を着ていて、狐の女性はかなり着崩していてはだけている。身長は長身で、狐の耳を入れれば俺よりも高そうだ。それに対して黒猫の娘は頭ひとつ分は低いように見える。
それにしても、召喚の光がなく現れたのもそうだが、二人同時に召喚されると言うこともあるのだろうか?そんな疑問を抱いていると、狐の女性が口を開いた。
「ここはどこどすか?召喚されたちゅうことはここはサモンズ世界ではあらしまへんのどすか?」
「いや、ここはサモンズ世界のサモンズ学園だ。召喚に応えてくれた訳じゃないのか?」
「別の世界ちゅうわけではあらしまへんのどすなぁ。それに見たところネモフィラはんもいてはるね」
ネモフィラと知り合いだったのか?ネモフィラに視線を移す。
「我が単独行動をしたときがあっただろう?あの時に知り合った。ちなみに九尾殿の隣に居るのが、そのときに助けた呪われていた幼子だ」
「感謝を告げる間もなく去ってもうたさかい、困っとったんどすえ?どうもおおきに。ほら、あんたからもお礼を言い」
「あ、あの時はありがとうございました!お、おかげで命が助かりました。あなたは命の恩人です」
「気にするな。感謝をしたいなら行かせてくれた我が君に言ってくれ。真名で縛ることも出来たのだからな」
「いや、俺は反対の立場だったから。感謝をするならやっぱりネモフィラと。進言してくれたリコリスと、反対を押しきって行かせてあげてくれたスイセン。そして、俺の代わりに反対の立場を取りつつも賛成に回ったカトレアに言ってほしい。」
ネモフィラが俺のスタンスを知らないのは無理もない。召喚したその日に不本意とはいえ、カトレアに対して使ってしまったしな。だが、真名を縛ることは二度としたくない。
「あくまで妾は、妾の半身に判断を任せたはずじゃが?」
「そうしたのは、賛成に傾いたからだろ?そうじゃなかったら俺が口を出す隙なんてなかったはずだ」
そう正直に伝えるとカトレアは少し目を見開いた後、妾の半身にはかなわんのじゃ、と口許に笑みを浮かべた。
他の面々にも目を向けると、リコリスは目礼を、スイセンは微笑み、ネモフィラは少し誇らしげに見える。
ガーベラは……しょんぼりしてるな。それはしょうがないと思うぞ、あの時は仮契約の状態だったし前に出て意見は言い辛いだろう、と視線に乗せるとちゃんと伝わったのか笑顔になった。うん、ガーベラはいつも元気でずっと笑顔で居てほしい。こっちまで気持ちが明るくなるからな。と考えたら、それも伝わってしまったらしく顔を赤くしてしまった。
アスターはさらに落ち込んでるな。俺達が危機感を強く持つようになった事件の原因の一人でもあるしな。全く気にしないのは無理かもしれないが、もう過去のことだ。元気を出して欲しい、と目で訴えてみる。あまり表情は変わらないが、それでも頷いてくれたのでここまでにしよう。
「そういうわけで感謝をし足りないなら、今あげた面々に言ってくれ」
「あ、あのリコリスさん、スイセンさん、カトレアさん、そ、そして改めてネモフィラさん、本当にありがとうございました!」
「ほんまにおおきにな~」
感謝された面々は気にしないでいいと言うように。
リコリスはお辞儀を、スイセンは微笑みながら首を振り、カトレアは手を振り、ネモフィラはひとつ頷いていた。
ついでに、ガーベラを見てみると少し羨ましそうにしていた。アスターは顔が引きつっている。
そちらは見なかったことにして。
「それでどうする?この世界から事故で召喚されたのなら、学園に掛け合ってもと居たところに送り届けて貰えるようにするけど」
「その必要はあらしまへんよ。あんた達は面白いどすさかい契約に応じますえ。それで契約方法はどないするんどすえ?」
「真名契約をお願いしたい。試練の内容を教えてくれ」
「こんな人数と真名契約しとったんどすなぁ豪気な方どすわぁ」
言葉尻ほどに驚いている様子はないな。隣の子は口をあんぐりと開けておどろいているし、今までの皆ももう少し反応があったのだが。と考えた瞬間顔をしかめられた。今の間に何があったんだ?
「ウチもまだまだ精進が足らなおすなぁ……。試練内容はこの石を壊せるくらいの力を、妖力で流してくれたらこの子と一緒に真名契約に応じますえ」
精進が足りないとはどういうことか聞きたいが、それよりも重大なことがある。俺は未だに精力以外の力を使えないのだ
「とりあえずやるだけやってみたらええどすえ。そちらの雪女はんの助言も認めるさかい」
スイセンの助言が受け取れるならどうにかなるだろうか?
石を受け取る。何の変哲もない石に見える。言われた通りやるだけやってみようと思うが何をすればいいのか全く分からない。何か物に力を流そうだなんて今まで考えたこともなかった。さっそく、助言を貰おうとスイセンを見る。
「ん……。私へのパスにいつもより多く流そうとすれば……それで大丈夫……」
言われた通りスイセンへいつものイメージで送ってみる。スイセンを暖めたい。そう思っているといつかの孤児院を思い出す。そこはとても寒い地方で、いつも雪が積もっているようなところだった。そのため、暖炉が設置されていたのだ。十分な薪がなかったので火を灯していることは少なかったが、それでもついていたときは信じられないくらい暖かかったのを覚えている。その暖炉を思い浮かべる。するとだんだんと石が熱を持ち、パキッと割れてしまった。これでいいのだろうか?
「うわぁ、妖力を吸収する殺生石があんな簡単に。パスからの余剰分を吸収しただけで割れるなんていやどすわぁ。
もう少し苦労する思うとったんどすけどなぁ。意趣返しは失敗してまいましたわぁ。」
「ん……。あなたの敗因は……私の助言を認めたことと……アルスの力を見誤ったこと……。無邪気に楽しむのもいいけど……これからはちょっとだけ……抑えた方がいいかも……」
「忠告感謝するなぁ。これからはそうすることにするなぁ。ウチも契約するんどすしね。契約主様に迷惑はかけられしまへんしなぁ。」
スイセンと彼女との間で通じ合う何かがあったようだ。正直何がなんだか分からない。
「それじゃあウチの真名どすけど【ナデシコ】なんどすえ。よろしゅうおたのもうしますなぁアルスはん。ほら、あんたからも名乗りぃ。」
「わ、私の真名は【クロユリ】といいます。よろしくお願いします。その……お兄ちゃんって呼んでもいいですか?」
「ナデシコにクロユリか、よろしく頼む。呼び方は好きに呼んでくれて構わないよ。」
「あ、ありがとうございます!お兄ちゃんからは暖かいオーラを感じて……。私の周りはお姉ちゃんばかりだったのでお兄ちゃんもほしかったんです。だから、その……嬉しいです。」
可愛らしくはにかんでくれた。
孤児院に居るときには俺以外は兄弟みたいな関係で羨ましく思っていた。なので、俺も妹ができたみたいで嬉しい。
そう伝えると、最初は戸惑った表情を浮かべていたが最後まで聞いたあとには笑みを深めてくれた。
笑みを浮かべてくれたからいいが、戸惑うようなことを言っただろうかと考えていると。
「クロユリはんは呪いを受けたときに、生きるためにやろうな。どうやらそのときに召喚獣として覚醒せざるを得なかったようなんどす。だからまだ未熟で、真名に誓うのはもっと先でもええどすか?」
「そういう事情なら無理をさせようとは思わないよ。ナデシコもクロユリの成長を待ってからにするかい?」
「いえ、ウチは特に問題ないのでこのまま誓うことにするなぁ。
差し支えなければ皆さんの誓いを教えて貰ってもええどすか?」
そこで皆がそれぞれ伝えていく。それを聞いたナデシコは悩んでいるようだ。俺としても各分野で満遍なく、充実していると思う。ナデシコは一体どんな誓いにするのか。しばらくして決まったのだろう。誓いの言葉を紡ぐ。
「アルスはん達が円滑に進むよう手助けすることを【ナデシコ】の名において誓うなぁ」
「ん……。よかったの……?知っていると思うけど……。真名に誓ったことに引っ張られることになる……。自分が楽しく過ごす……でもダメではなかった……」
「分かってて言うてはりますなぁ?意地悪どすなぁ。さっきも言った通りこれからは一人の身体とちがうんどす。これでええんどす」
「ん……。ありがとう……。よろしくね……」
そのまま皆で自己紹介しあっている姿を眺めながら思う。今回はスイセンがかなり誘導しているように感じた。もはや、スイセンの真名の力を疑ってはいないがどういった作用が起きているのだろうか。とにかく仲良くできそうみたいでよかった。クロユリの方はどこか引っ込み思案なようなので、より注意して見てあげないといけないかもしれない。そうしていると話は終わったようだ。
「ウチらが無事なのを玉藻前様に伝えななぁ。ここからだとどれくらいかかるんやろう。かなり疲れそうどすなぁ」
「我が伝えに行こう。その方が早いと真名に言われている気がするんだ」
「ネモフィラさんは霊力が多いどすさかいねぇ。それならお任せするなぁ。」
「霊力?もう行った方がよさそうだ。帰ってきたら教えてくれ」
「ええどすよぉ。それじゃあよろしゅうなぁ」
ネモフィラが帰ってくるまでの間に、学園に召喚事故が起きたことを伝える。種族を聞かれたので、ナデシコとクロユリに確認を取ってみると獣人ではなくそれぞれ妖怪の一種である九尾と猫又だとのことだ。玉藻前様のところに居たらしいことも伝えると、すぐに連絡を入れないといけないとのこと。すでにネモフィラが向かっていることも伝えたが、学園からも連絡を入れることに意味があるとのことなのでそれ以上は何も言わなかった。
召喚事故が、それも二人も召喚されるなどという事態は確認されたことがないとのことでしばらく全ての召喚契約の間の点検をすることになりそうと伝えられた。俺も次に召喚することがあるか分からないが、今回はまだよかったが取り返しのつかないことになっても困るのでちゃんと調査することをお願いしておいた。
ちなみにローナ先生は、規則が緩くなった事実などなく本人が適当に仕事をしたのが今回だったので大目玉を食らってしまったらしい。ローナ先生、厄落としとかした方がいいんじゃないだろうかと思ったが黙っていた。
やがて玉藻前様と連絡が取れたらしく、明日顔を出してほしいとのことなので了承して通信を切る。
俺が話している間に暇だったのか、皆の方で今まで起きた事件なんかを話していたようだ。俺の過去の話はしていなかったので、また俺の担当のようだ。
そうして今日のところは時間が出来たので部屋に戻ってから、さっきの妖力が使えていたという話を聞いてみることにした。
なんでも俺の精力はパスを通して供給するときのイメージで無意識に対応した力に変換しているのではないかとのことだった。
実際にそれぞれ試してみる。
スイセンはさっきもやった、暖炉の暖かさのイメージで。
ガーベラは実は俺の精力を自分で闘気へと今まで変換していたので、どうにか出来ないかとスイセンと同じイメージでやったら、もっと暑いイメージかも!と言われたので、ガーベラと言えば輝くような太陽だよなと思ったら無事に出来た。
この調子でナデシコも出来ないかと思ったが、どちらのイメージも引っ掛からなかったらしく。
念のため試してみようということでクロユリにも行ったら、暖炉の暖かさは惜しいけどちょっと違いますと言われ輝く太陽のイメージで、それをもう少し優しく出来ますか!とのことだったので日光浴のイメージにしたらちょうどよくなったとのこと。一応ナデシコにもこのイメージでやったのだが、違うらしい。ウチだけ仲間外れみたいで寂しおすわぁ、と言っていたのでいずれは出来るようになりたいところだ。
さっき話していた霊力という力についても聞いてみる。詳しくはまたの機会にするがとりあえずは第六感と呼ばれる、勘の力が強いとのこと。何となくこうした方がいいというような力で具体的な説明はできない。今までのスイセンとネモフィラの言っていたことにようやく納得が出来た感じだ。
二人については、無意識に霊力を使うてますなぁ。真名に誓うことでこんな風になることあるんどすなぁ、とのことだった。
そのまま、クロユリの呪いについても聞いてみようと思った。
「クロユリが、呪われていたっていうことの事情は聞いても大丈夫かな?」
「ええどすよ。言うても分かってることは少ないどすけど。今年の1月1日までは確かに判別できない状態だったんどす。現在召喚されているように今は召喚獣として覚醒してます。ですがこれは呪いによって死なないための強制的な覚醒で本人はまだ未熟なんどす」
「そこまではさっきも言ってくれていた内容だね」
「はい。でもいつの日からか、急に衰弱し始めたので調べたら呪われていたんどす。でもいつ、誰にというのは分からへんかったんどす。クロユリはんを助けるために、呪いを解呪するための薬を作ることにしたんどす。そやけど、備蓄してある材料では足らへんかったんどす。そこへネモフィラはんが訪れたんどすえ」
「そこでネモフィラが出てくるんだね。なんでも、霊草を集めたとか」
「はい。月見草って言うてな。存分に月の光を浴びて変質した霊草なんどすえ。これを見つけるのはほんまに大変でしてな。クロユリはんに煎じて飲ませるのも本当にギリギリだったんどす。そやさかい、ネモフィラはんには本当に感謝してるんどすえ。」
「助けることが出来て何よりだよ。さっきも言った通り俺は反対の立場だったんだけど。快く送り出せなかった。ごめん」
「気にしいひんでええどすえ。事情は聞いたさかい。そんなんどしたらしゃあないどすえ。それに、こうやって間に合っているわけどすしね」
「そう言ってもらえると助かるよ」
この日は、こうしてクロユリの呪いについて聞くことで終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます