第41話4月25日①

 昨日のスイセンと一緒に救出した人々の対応で、学園が急遽休みになった。召喚獣と契約してからは、授業に出るのは一部を除いて任意だったのだが外出は許可されなかったのだ。それは授業を受ける必要がないと判断された俺も同じだったのだが、学園が機能しないとのことで外出が許可された。


 そのため今日の午前はナデシコとのデートだ。なんでも今日から始まる劇があるとのことで、それを鑑賞したいらしい。ということで、その劇場にて劇を見ることになった。


 劇の内容は驚くことに、リコリスが誘拐されたときの一件だ。最初は創作も混じっていたが、リリス様に連絡した辺りから、かなり忠実に再現されている。ナデシコも話しには聞いていただろうが、実際に目にすると違うのか見入っているようだ。


 やがて劇が終わり演じた人達や、製作した人々が発表されたのだがリリス様が監修されていたことが最後に明かされた。実は暇だったりするのだろうか。いや、それだけ目をかけてくれているのかもしれない。


 リリス様ならそういうことをやっていると、からかいながら教えてきそうだからだ。ナデシコにどう思うか聞いてみたら、ウチもリリス様が関わっていたことは知らへんかったどす、とのことだ。聞いてしまったら、サプライズだったのよ、と言いそうとも。


 前の方の席に見覚えのある後ろ姿が見えた。まさかと思い目を凝らしていると、こちらの視線に気づいたのだろう振り向いた。相手はこちらを見て驚いた表情をした後、ウインクをしてきた。それはリリス様だった。てっきり後始末をしていて、忙しいのかと思っていたらこれが見たかったんですね。とジト目で送るとてへぺろっとされてしまった。もう追求するのは諦めよう。今はナデシコとの時間だ。


 そうして歩いていると不意にナデシコから。


「うちとどう接したらええか困ってるんちゃいますか?」


 と言われてしまった。確かにどう接していいか分からない部分がある。ナデシコはいつも自分の感情を、俺に読ませないように行動しているからだ。最初からそのスタンスは一貫しているように思える。なぜなのかと考えて──。


 ようやく納得することが出来た。ナデシコは悪気なく、それこそ無邪気に神通力を使っているのだろう。他人の心を読むという力を。どうりで接し辛いはずだ。ずっと先回りで心を読まれているのだ。それなら俺の心をありのまま聞かせてやればいい。現にほら、ナデシコの表情が変わった。


「時間が掛かってごめん。どんなときも楽しもうとするナデシコが好きだよ」


「敵わへんどすわぁ。おおきに、うちもお慕いしてます」


 そのあとは心の中で思ったことに、ナデシコが応える形で会話をしていった。そのまま、いつもの露店にたどり着く。商品を選んで毎度のように銀貨を1枚渡す。そこで店主に話しかけられた。


「今日は、この後すぐに出掛けなきゃいけないんだ。何度も悪いな。」


「いえ、今日営業してくれていただけでも有り難いですよ。」


「そいつは運が良かったな。それに次に会うときは本来の姿になりそうだな。」


「なにか言いましたか?」


「いやなんでもねぇよ。最後までしっかりやれよ」


 なにか最後に呟いた気がしたが、気のせいだったのだろうか。と思いながらもう一つ商品を選んで銀貨を渡す。


 また心の中で思うだけで会話が成立するなか歩いていき、いつもの広場へ着いた。ナデシコへプレゼントを渡す。


「いざ手に取ると嬉しいものどすなぁ、ほな着けますえ?」


 買ったはいいが着け方は分からないのも読み取って、ナデシコは自ら着けてくれる。

 白い髪に映える赤い簪が、髪に挿されている。


「よく似合ってるよ」


「おおきに」


 そうだやりたいことがあったんだ。と思ったときには、どうぞ、と言われたので試してみる。ナデシコへ送るパスの力を妖力に変換することだ。以前、写真で見た神社のイメージで送ると。出来てますで、と返答があった。前にナデシコが一人だけ仲間外れみたいで寂しいと言っていたので出来てよかった。気にしいひんでよかったどすのに、なんて本人は言っているが俺がやりたかったことなんだ。と思うと、おおきに、と返ってきた。


 そのあとはベンチに座り、俺の考えていることに時折ナデシコが言葉を返す。そんなまったりとした時間を過ごした。

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